航空ビジョン

9月11日に、航空科学会主催の航空ビジョンシンポジウムに参加した。パネルの議論を聞いて思った、航空ビジョンに関するコメントを幾つか。
1) 「将来像の共有」について
 よく考えられたフレーズと思われるが、①均質な戦略の立案を目指していると思われる危険がある、②表現がやや回りくどい、の難がある。以下①について詳述。
 かねての私見であるが、日本の企業ないし産業構造の脆弱性の1つが、各企業の戦略が均質であることであると思う。例として、高度成長期に多かったが、高炉、石化プラント、家電、半導体などへの多くの大企業の参入である。例えば、半導体の80年代、90年代を見ると、10社近い日本企業がDRAMに乱入した。80年代の日米半導体紛争の原因であるが、問題はその後の90年代である。
 米国は、インテルを代表としてマイクロプロセッサーに注力して、世界で覇権を維持している。日本が圧倒的だったDRAMには、韓国が進出し、トップを奪った。台湾もASICのファウンダリー専業として伸びている。一方日本の半導体企業の大手の多くは、DRAMからASIC、プロセッサーとデパートのように手がけ(多くがいわゆる家電メーカーで半導体以外にも多くの製品を扱っている。米国の半導体企業の大半が専業でかつ新規に設立されたベンチャーであることとは基本的構造が異なる)、次第にシェアを低下させてきた。
 私が驚いたのは、80年代の日本のDRAM攻勢でつぶれたかに思えた米国のDRAM専業メーカーのマイクロンテクノロジー社が、90年代に復活し、21世紀になっても、韓国のDRAMメーカーに互してランキングの上位を占めていることである。私は、米国産業のマルチ戦略構造の強靱さを知った思いだった。
 日本のシングルの均質戦略は、政府や業界団体が作成した将来ビジョンに基礎をおいて、高度成長時代には強力だったが、今、その再現を狙うのは危険な面がある。将来像を関係者で議論することはもちろん有意義である。しかし、その議論をよんだ人の取る行動は多様であるべきとの認識の共有が重要であろう。

2) 知財
 最近の日本の知財権至上的な風潮には危機感を覚える。このため、学会へのペーパーの提出件数が減少しているとの話を聞く。そのため、企業の研究者からのペーパーについては、データの提出要件を緩和するよう査読者に要請している学会があるという。これは企業だけでなく、大学、独法の研究機関でも、ペーパーの提出については知財権上の手当が終ってからでないと認めないとの知財部ないしTLOの審査があって、学会論文の発表もままならないという。
 また、大学、独法、企業間の共同研究契約を締結する際に、それぞれの機関の知財部の審査が厳しく、秘密保持協定、知財権取扱規程の締結交渉に多大の時間を要し、現場の研究者が非常に迷惑しているとのことである。
 私は、知財権、秘密保持については、従来の認識が余りにも不足していたことはあるので、適切な理解は必要と思う。しかし、秘密保持については、その技術内容についての相場観がある人が必要な秘密を必要な範囲で秘密にする措置を講ずるようにすべきで、関係の無い人が形式的に取り扱うことは、弊害が大きいと思う。学会論文が出てこない、共同研究のタイミングが遅れる、実施に制約があるというのは、弊害であると思う。
 従来の日本の技術力は、情報の流通、共有に大きく依存してきた面があり、今後の発展に障害が出てくると思う。
 ビジョンでは、学会論文数の変化等を調査し、今後の情報共有のあり方等に触れることが重要でないかと考える。


3) 国の支援の根拠

4) 人材(初等教育としてのオープンハウス等)
 昔は、町工場や自転車屋さんが通学路にあり、ものづくりの現場に小さな頃から親しめたが、今は、それが遠ざけられ、製品やおもちゃもブラックボックス化して、ものの仕組が分からなくなったことが、工学人材不足の遠因の1つと思う。そのためには、工場が、その内部を子供、先生、住民に見せることが有効と思う。各企業、機関でもいろいろ努力されているが、それらに加え、若干のアイデアを申し上げたい。

  • オープンハウス

 1年に1度ほど工場内のオープンハウスを実施することは、いろいろな効果がある。地域住民、コミュニティとの理解が深まる。小中学生の知的好奇心を刺激し、ものづくりへの関心が高まる。成長後のリクルートに有効と期待される。他の会社に就職するかも知れないが、製造業全体の求人に有効であろう。
 社員の家族にも効果が期待される。親の働く場所を見せることは家庭教育として悪いはずがない。社員も明日家族が見に来るとなれば、自然に工場内を掃除、整頓する。翌日からの工場内作業は自然に効率化するであろう。

  • ツアーコース

 以前米国に駐在していたときに、観光ツアーブックに、NASAのAmes研究センターのツアーが紹介されていたので行ったことがある。電話して予約を取るので、どの程度の頻度か知らないが、10日程度後の予約を取り、小学生の息子とその友達と3人で出かけた。数十人ぐらいのツアーで、NASA職員が教室で説明し、展示室、有名な大風洞、沢山の実験機が並ぶ格納庫を案内してくれて満足した。
 ツアーコースの設定というと、毎日オープンしなければと考え、要員のことなどで身構える向きも多い。確かに、通路、説明パネルの用意など負担は多い。しかし、毎日ではないとすれば負担感は少しは軽減しないであろうか。ポイントは、対象者をオープンにすることである。
 近年殆ど技術を知らない小学校の先生向けに有効であろ。また、近年、修学旅行は、数人のグループべつ見学を行っている場合がある。グループ用コースとして、旅行会社や教育関係機関に紹介することも考えられる。

  • 分かり易い説明資料と説明員の訓練

 せっかく一般人が来てくれるのであるから、楽しんで理解してもらいたい。望ましきは、動き、触れる展示である。SLや機械の動態保存などは素晴らしいが、航空機での動態保存を個別企業に期待してはいけない。しかし、部品、サブシステムについては動かす展示を工夫することは可能。展示品は触れることを原則にしたい。「触ってはいけません」というのは、ものづくりの展示では寂しい。
 説明パンフの他にも、OHPやプレゼンの資料も用意したい。主目的は、学校の先生の教材に使ってもらうことである。見学の途中で渡すのは、コストも掛かるし、ゴミ箱に捨てられることが多く無駄だが、企業のHPにダウンロード可能なものが掲載されているとすれば、コストは掛からない。HPのクリック数も若干増えるかも知れない。
 説明員についても一言。大体はいい人が多いが、中には、ぼそぼそしゃべっていて分り難い、思い込みでの説明で判らない、現役を離れた不本意な仕事という感じが出ていて不愉快、などの人がいる。元々日本人は、学校でも社会でもプレゼンテーションの教育訓練を受けたことが無い。説明員には、プレゼンの基本について研修を受けてもらうことで、随分改善するのではないかと思う。