有料道路障害者割引制度

 大学の時の友人T君は、病気で呼吸に困難が生ずるようになり、クラス会にも酸素ボンベをカートで引いて現れる。先日彼が嘆いていた。障害者割引で高速道路料金が半額になるが、この前、車のトラブルで代車を使うことになった。しかし、障害者割引は1台だけなので、適用にならなかったとのことだ。
 私は最近、このような行政が冷たい話を聞くと、憤りで涙がにじむ時がある。それで、いろいろ調べて、総務省の「インターネットによる行政相談受付」にも質問を提出した。回答はまだ出ていないが、以下、その調査の概要。少し長いが、1)制度の概要、2)経緯、3)改善要望、4)総務省への質問に続き、5)私見を紹介する。

1) 有料道路障害者割引制度の概要
 制度の概要は、例えば、NEXCO東に日本によると次のとおりであり、他の有料道路会社や市町村の広報もほぼ同様。
http://www.driveplaza.com/etc/handicapped_discount/about.html
 その要点は、次のとおり。
a) 障害者本人が運転する場合のほか、障害者が同乗して、他の人(介護者、隣人他)が運転する場合も対象になる。
b) 対象になる自動車は、障害者について1台だけ(従って、介護者の車を指定した場合、本人の車の指定はできない)で、あらかじめ市の福祉事務所に登録して、自動車の番号等を障害者手帳に記載することが必要。利用する時は、写真の付いた障害者手帳を料金所で提示し、本人確認と車との照合がされる。
c) ETCでの利用も可能で、その場合、事前に、自動車の登録と加えて、ETCカードの番号、ETC車載器の番号等を登録することが必要。利用の際は、機械に障害者手帳を提示することは当然ながら不要。

2) 制度の経緯
 制度の創設は古く、1979年である(以下、後述の総務省資料による)。当時は障害者本人が運転する場合に限られていたが、その後、1994年には、介護者等が運転する場合にも拡充された。
 当時は、事前に市町村の福祉事務所で60枚つづりの割引証の交付を受け、割引証に氏名等を書き込んで料金所でその都度提出する必要があったが、2003年12月には、この割引証の提出を不要とする手続の簡素化がされた。これは改善に違いないが、このような不便かつ無意味と思われる(利用抑制を企図しているとしか思われない)割引証提示制度が24年間も続いたのが驚愕だ。ちなみに、この割引証の印刷を一手に引き受け、全国の市町村に送付していたのはある公益法人だと聞くと、昨今の事業仕分けの議論に照らして興味深い事例だ(過去のことだが)。
 また、2004年1月には、この障害者割引がETCでも利用できるようになった。
 しかし、一貫して、事前に登録され、障害者手帳に記載された自動車1台に限定されている。

 当局の説明は、「有料道路の障害者割引制度の趣旨は、通勤、通学、通院等の日常生活において、・・・障害者の方に対して、自立と社会経済活動への参加を支援するため、・・・割引措置・・・により支援するものです。一方、有料道路制度は、道路の建設(等の)・・・費用「借入金」を料金収入により・・・償還するものであり、料金の割引による減収分については、制度上他のお客様にお支払いただく料金収入を充てることになることから、割引適用の対象となる方や対象となる車両については、他のお客様から広く理解が得られるものとする必要があるため一定の要件を(設けている)・・・」となっている。(http://www.city.imabari.ehime.jp/syougaifukus/yuryoudouro.html)

3) 制度改善の要望
 本件については、かねて問題になっていたようで、公的には、2002年(H14)6月19日に、総務省の行政苦情救済推進会議から「有料道路料金の障害者割引制度における利用手続の緩和」に関するあっせんが国土交通省に出されている。
http://members.jcom.home.ne.jp/wheel-net/2003/kanwa.htm
 このあっせんで指摘されたことは、2つある。a)標記割引を利用できる自動車は、1台に限らず、障害者手帳を見せるだけで適用される等の改善が必要。b)利用する場合の障害者手帳に加えての割引証の提出は、事前に市町村での交付等面倒なので、手続面の負担を軽減することが必要。
 この公式文書によるあっせんに対し、国土交通省が回答したとの形跡は、ウェブ上では見つけられなかった。行政苦情救済推進会議のページでは、2003年以降のあっせん案件については、回答の文書が掲載されているが、何故か2002年以前の案件については、回答があったかどうかもよく判らない。
 前述した、2003年に割引証が不要になったのは、この前年のあっせんが契機だったようにも思われる。しかし、1台限定については、現在まで継承されている。
 現在でも、1台限定に関する改善要望は見られる。例えば、次は障害者割引制度に関するあるSNSでのQ&Aであるが、利用者の回答の中で、2台以上だとより有難いとの意見が2人からある(2人目と3人目の回答者)。
http://oshiete.goo.ne.jp/qa/1690159.html

 ちなみに、紹介が遅くなったが、冒頭の友人T氏は、某新聞の投書欄に次のように投稿したらしい(以下は案段階で私が貰ったもの)。実際に新聞が採り上げてくれるかはまだ不明。

高速道路の障害者割引制度の改善を

拝啓 馬淵国交大臣・高速道路㈱各社社長様
私は心臓の一級障害者です。高速道路利用時は障害者割引の恩恵を受け、日頃からやさしい施策に感謝しています。ところが具体的な運用に際して理解できない冷たさを体験しました。制度は障害者に利用車両を一台登録し障害者手帳に記載することを求め他車両の利用時は割引を認めません。私は今春に止むを得ず代車を利用したために割引が認められませんでした。数年前にも同じことを体験しました。今月23日は諦めて手帳を出しませんでした。
JRや鉄道では障害者手帳だけで割引が受けられます。タクシー割引も当然ながら障害者手帳だけでOKです。今春に東日本高速道路㈱に電話で説明を求めたところ、事前登録車に限定する理由は一般利用者との公平を期すためで常時利用車は一台で十分との回答でした。上司の方にも説明を求めましたが、やはり同様の説明の繰り返しでした。とても納得できません。障害者にだけ厳しい制限を付すのは不公平です。やさしい思いやりのある友愛社会の実現に向けて、こんな不合理な制約は廃止して手帳だけで割引が受けられるように制度の改善をお願い致します。もし必要なら障がい者制度改革推進本部(本部長・内閣総理大臣菅直人)でも議論して頂きたいと思います。
東京都北区・無職(60代)

4) 総務省への質問(ウェブ)
 総務省の行政相談のページを見ていたら、「インターネットによる行政相談受付」というのがあったので、11月4日に質問を提出した。内容は、1台限定を外してほしいという要望と、2002年の苦情救済会議のあっせんの処理状況を尋ねたものである。

(2010年10月4日、総務省HP「インターネットによる行政相談受付」により提出)
有料道路障害者割引制度について
1) 障害者である友人が止むを得ず代車を利用した際に、標記割引が利用されないとして嘆いていました。総務省でもこの問題について、以下に述べるように、かつて努力されていたらしいので、その後の状況をお聞きするともに、改善されるようお願いします。
2) 2002年(H14)6月19日に、行政苦情救済推進会議から「有料道路料金の障害者割引制度における利用手続の緩和」に関するあっせんが国土交通省に出されています。これは、次の事案に対応するためでした。
a) 標記割引を利用できる自動車は、日常頻繁に利用する1台だけに限られているが、介護者や知人等の手助けを受ける場合も多い。1台に限らず、障害者手帳を見せるだけで適用される等の改善が必要。
b) 利用する場合、事前に市の福祉事務所で60枚つづりの割引証の交付を受け、料金所でその都度氏名等を書き込んだ割引証を提出する必要がある。手続面の負担を軽減することが必要。
3) その後、この総務省からのあっせんに対する国土交通省の回答はウェブ上では見当たりません。しかし、2003年には、b)の割引証の提出の必要は無くなり、また、上記あっせんには触れられていませんが、2004年1月には、この障害者割引がETCでも利用できるようになるという改善はされているようです。
4) しかし、上記a)の1台に限られることについては、現在でも、各有料道路会社、市の案内等を見る限り、改善されていないようです。私の友人のほか、ウェブを見ても、このことへの改善要望は多く見られます。
5) 1台に限定することの不合理性については、上記2002年の苦情救済会議のあっせんに記載されているとおりです。同あっせんの処理状況について教えていただきたいとともに、このことの改善をされるようお願いします。
6) なお、2002年当時の行政苦情救済推進会議のメンバーと現時点のメンバーとは、堀田力氏(当時委員、現在座長)他、共通するメンバーも多く(7名中4名が共通)、その方々も了解された方向となっているのか、併せて確認して頂ければ有難いと思います。

5) 私見
 総務省からの回答は来ていないが、本件について私見を述べてみたい。
ア) 制度の目的の達成度、手続の簡便さ、不正利用防止、所要経費の4者の調整
 本制度の目的は、障害者の自立等の支援である。これを通勤、通院等の日常生活に限るか、レジャー他にまで拡げるかは、他の要素との調整によって考慮することであり、どれもあり得る。その目的が達成されている程度が問われるが、他の要素とのトレードオフが常に生ずる。
 手続きの簡便さには、障害者の視点と道路会社の視点とがある。一般に、簡便であれば両者満足できるが、障害者の手続簡便化ばかりを優先できるものでもない(例えば、障害者だけノンストップというのは、技術的に困難で、あり得ないだろう)。道路会社の視点には、他の道路利用者の視点が含まれることもある。
 不正利用防止は、その次の所要経費との関連もあり、本件では大きなポイントであろう。私は、不正利用の防止は必要だが、完全防止を絶対条件としなくてもいいと考えている。ちなみに、濫用に対しては、望ましくはないが、もう少し寛容であってもいいと思っている。ここで、濫用とは、例えば、障害者がレジャーに利用する場合で、不正利用とは、障害者以外が利用する場合等である。
 有料道路障害者割引が、障害者対策一般の中でどの程度重要なものであるか、私には判らない。例えば使途を制限しない一般的支援を充実させ、具体的な使途は、個々の障害者の選択に委ねるとの考えもあり得るだろう。しかし、いったん障害者割引制度を設けたからには、その目的に照らして可能な範囲で使い勝手のよい仕組を目指すことが重要であろう。この観点から、対象車を1台に限定するのは不親切でないかと私は思う。
 なお、障害者手帳での確認による割引は、制度上要求される登録車両1台に限定ではなく、実務上、高速の出口で相当弾力的に行われているとの情報もある。
( http://homepage3.nifty.com/andojournal/etcsitumon4.htm 中、質問15へのコメント中に記載されている)
 これが、一部だけで行われているのか、全ての出口で行われているのかは判らない。もし、この弾力的運用が本当であるならば、制度上も認めておくべきことでないかと考える。

イ) ETC利用の問題点
 2004年からETC利用も認めるようになったが、不正利用防止の点から見ると、画期的、言い換えるとよく踏み込んだとの印象である。何故なら、介護者等の車が指定された場合、常に障害者が乗っているとは限らない。これに対しては、ETCカードを2枚(割引用と普通用)発行して、障害者が乗らない場合、普通用のETCカードに替えて普通料金を払うことにしているそうだ。
http://members.jcom.home.ne.jp/wheel-net/zuisou/zuiso07/07622.htm
 しかし、これでは常に割引用のカードを装着していてもETC装置では判らないから、不正利用に繋がっているとの意見がある。
 このETC利用に関して、3つコメントを述べる。
a) 他に方法が無く、かつ利用者のETC利用の要望を是認すべきと思うなら、仮に不正利用の材料になったとしても、その方法の採用は止むを得ないだろう。不正防止対策としては、利用者のモラルへの期待と、仮に発覚した場合の制裁の厳格化しかなく、不十分ではあるがしょうがない。つまり、デメリットを承知しての総合的判断であるが、他の対策があれば検討することが望ましい。
b) 他の方法として、入口はETCカードでノンストップで通過しても、出口は係員のいるゲートで障害者手帳を確認して割引をするとの方法もあったのではないか。これなら、ノンストップ度は半減し、利用者の利便も半減するが、不正利用は殆どできなくなる。
c) この2004年のETC利用の導入により、1台限定という枠組を緩和することが、更に困難になったのではないかと考えている。係員に障害者手帳(写真入り)を提示しての割引適用は、不正利用の可能性は低く、現在でも1台限定は緩和できると思う。しかし、ETCカードだけで障害者の認証をすることは、技術的に困難であろうし、障害者が健常者にそのETCカードを悪意で(不正利用の可能性を認識しつつの意)渡すことも考えられる。従って、障害者割引の適用には、煩雑なETC車載器の特定と登録が必要だし、1台限定の維持も必要になったと推測する。

ウ) 私案
 私は、台数の限定を緩和することは、障害者の実態からみて、認めていいと思う。素人考えであるが、具体的な利用手続案として、次を考えてみた。
a) ETCでない場合は、出口で障害者手帳を係員に提示して、障害者本人であることを確認する(車の限定は無し)。
b1) ETCの場合は、入口はノンストップ、出口は通常の出口で、係員が障害者手帳で本人確認をする(車の限定は無し)。この場合、非ETCの出口で、ETCカードを処理し、割引計算もする機械を設置しなければならないが、接触方式で可能なので、それほど高価な投資にはならないと思う。
b2) ETCの場合で、出口もノンストップを希望する者には、現状どおり、車載器を特定して1台に限定することとする。b1又はb2は、選択可能とする。
 b1、b2の選択に際して判断すべきことは、出口ノンストップの便益と割引対象車を2台以上とする便益とのどれを選ぶかということだ。もちろん、両方認める制度とする選択もあるが、その場合、不正利用が果てしなく拡がる可能性を是認できるだろうか。私は是認すべきではないと思う。更に踏み込んでいえば、不正利用の可能性が臭うb2は、実態を調査の上、ひどければ要件を厳格化して縮小も考えるべきではなかろうか。
 ETCなのに出口で停められるというのは、現状に比して改悪である。しかし、以上の利便性と不正利用とのトレードオフを説明して利用者(障害者)に納得してもらうことが可能ではないかと思う。
 私は、この分野では門外漢であり、以上の議論や私案には見当違いが多いかもしれない。しかし、このブログが関係者の眼に留まり、今後の改善策を検討される際にいくらかでも参考になれば幸いである。
以上