理化学研究所

 先週、ある学会の見学会で(私のような部外者も参加OK)、理化学研究所(埼玉県和光市)に行った。理研には、かねて知人が何人もいるが、1度も行ったことがなかった。見学では、一般的な紹介の後、加速器スパコンの見学があり、研究者が小学生にでも判る(?)ような説明をしてくれ、なかなか面白かった。以下、若干の感想。
1) 理研の概要
 1917年に、財団法人理化学研究所として渋沢栄一らにより設立され、その後組織形態は多様に変化し、2003年に特殊法人から独立行政法人に改組された。戦前からの活躍ぶりは著名で、有名な学者とともに、研究成果を活用した企業(ベンチャー)を輩出し、理研コンツェルンと呼ばれた。(株)リコー等、今でも存続している企業は多い。大河内正敏第3代所長が導入した主任研究員制度(ヒト、カネ、モノをリーダーに一任する)が成果を挙げたとの説明が印象的だった。
 現状は、所員3000人超、2010年度予算が960億円と大きい。詳細は省略。
http://www.riken.go.jp/r-world/riken_menu/index.html
2) 仁科加速器研究センター
 理研加速器は、1937年に、仁科芳雄博士が我が国で初めて作製した円形加速器のサイクトロンから始まる。理研のRIBF(Radio Isotope Beam Factory)は、多段式の加速器で構成される。ここの多段式では、荷電粒子を、第1段の線形加速器で加速した後、4段のサイクロトロンを通過させて光速の70%まで加速する。最終段のサイクロトロンは、2006年12月に完成した、SRC(Superconducting Ring Cyclotron、超伝導リングサイクロトロン)だ。実物を見学したが、地下20メートルの地下室にあり、重さ8,300トン、直径18.5メートルの巨大なものである。建設費は450億円とのこと。
 一般見学者用の模型があって、加速される粒子の流れがよく解る。各サイクロトロンの中で、蚊取り線香のように渦巻き状に回転して加速され、SRC内だけで17キロメートルほど走るとのこと。高校生では蚊取り線香が判らなかったので、以後その言葉は使わないようにしたとの話も面白かった
 私も高校生的な質問を2つした。第1は、粒子が、最初の線形加速器に入ってから、最後のSRCを出るまでどれくらいの時間が掛かるかだ。説明者の研究員は、「いい質問ですね」と言いながら、少し暗算して10マイクロ秒位のオーダーかなと答えてくれた。しかし、その後、次の見学場所にわざわざ追いかけてきてくれて、「計算してみたら、0.5から1ミリ秒だった」と報告してくれた。親切な人で感激した。私としては、更に、動く粒子の座標系ではどれくらいの時間かと聞いてみたかったが(相対性理論では短くなるはず)、詰らないことでまた計算の手間を掛けるのも悪いので止めた。
 第2の質問は、このSRCは、日本で何番目ぐらいのランキングかというもの。説明員は、冒頭に、加速器には3種類あると説明していたことを踏まえ、少し鼻白んだようで、この種類では世界で最大だと答えた。私としては、意外であった。というのは、円形加速器としては、欧州のCERNは山手線に匹敵する大きさで、日本でも兵庫県播磨のSpring-8などが有名なので、それよりはずっと小さいだろうと思っていたからだ。これは私の不明で、次に説明する。
 最初に説明のあった加速器の種類を、帰宅してから調べた。加速器の3種類とは、線形加速器と2種類の円形加速器(サイクロトロンとシンクロトロン)だ。CERN(欧州原子核研究機関)や播磨のSpring-8はシンクロトロンだ。山手線大と言われるCERNのシンクロトロンは、コライダー(衝突器)とも呼ばれるもので、直径9キロメートル、全周が28キロメートル(東京の山手線の全周は34.5キロ)という巨大なものだ。
 加速器の大きさを競うとシンクロトロンとなるが、サイクロトロンでは、この理研のSRCらしい。シンクロトロンは、もっぱら電子やせいぜい陽子などの軽い粒子を走らせているが、理研サイクロトロンは、重い原子(最近はウラン)のイオンを走らせているのが特徴らしい。ちなみに、シンクロトロンでは、磁力の制御により同じ半径の円周を何回も走るが、サイクロトロンの場合、粒子の軌跡(円周)の半径は、速度が上がるにつれ大きくなり、冒頭に述べたように蚊取り線香のような渦巻き状の軌跡になるとのこと。
2) スパコン
 2009年秋の行政刷新会議事業仕分けで、蓮舫議員(現大臣)から「世界一になる理由は何ですか、2位ではいけないんですか」と言われて有名になった理研スパコンである。丁寧に説明してくれた。
 事業仕分けのやり玉だった次世代スパコンは、(私は詳細な経緯は知らないが)何とか認められたようで、昨2010年夏に、京速コンピューター「京(けい)」と命名され、予定地の神戸のポートアイランドへの資材の搬入が開始されたとのことだ。10ペタFLOPS(ペタは、ギガ(10億)、テラ(兆)に続く1000兆。従って10ペタは1京)の処理速度は、現時点で世界1位の中国の天河の4.7ペタを上回っているが、来年末の完成時にはどうなっているか判らないと説明員は言っていた。
 現在のスパコンは、2009年8月に稼働したRICCというシステムで、コンピュータ室の中にも入れてくれた。500平米程度の広さ。計画中のポートアイランド「京」は10倍ぐらいの広さになるらしい。RICCは、PCクラスタ・ベース(PCの集まりというと予算の制約が想像される)のスパコンとしては、日本最高の98ペタFLOPSの処理速度を記録したとのこと。
 このスパコンを利用したアプリケーションとして、今映画界では流行の3D画像によるシミュレーションを2つ見せてくれた。確か、脳内腫瘍の超音波治療とタンパク質構造のシミュレーションで、後者のたんぱく質構造は3Dで回転させると中の中空部分などがよく判り、面白かった。
 スパコン稼働率は98%とのことで高い。興味深いのは、利用分野の比率でライフサイエンスが44%で圧倒的なこと。この分野は数年前までは1%程度だったらしい。2位の原子核物理関係が、それまでは首位だった。情報科学関係は確か10%未満で低かったのが意外だった。
3) その他の感想
 理研はさすが歴史と伝統があると思った。ホームページのニュースリリースをざっと見ると件数が多い。毎月10数件から20数件ある。ニュースリリースの見出しに、時々ではあるものの、「世界一」とか「世界初」というのが目立つのは、ほほ笑ましいと思うか、意欲の表れと読むか。
 研究分野は多方面にわたるが、総合展示室の展示やホームページをざっと見て、ライフサイエンス関係の比率が多くなっていると思った。
 研究内容について私として論評できる能力はない。現在の科学技術政策の環境の中では、納税者に説明する努力が必要であり、理研においても我々見学グループへの対応にみられるように、配慮されており敬服した。今後とも大変ではあろうが、継続的な努力が必要と思われる。
以上