フェースブックとフェイスブック

前に、フェースブックについて調べた時に、「フェースブック」と「フェイスブック」の表記に悩み、グーグルで検索したら、「フェースブック」の方が多いから、そちらにしたと書いた(id:oginos:20110113)。しかし、その後、世の中では「フェイスブック」の方が多いことに気懸りになった。本稿では、グーグルでの再検索を行った後、外国語の表記に絡むコメントを述べる。
1) グーグルでの再検索
 上記の記事で書いたように、2011年1月初めの時点でのグーグル検索の結果は、「フェイスブック」が約60万件、「フェースブック」が約120万件だった。
 2月15日に再度検索した。びっくりしたことに、両方とも474万件と同じ数字だ。グーグルの検索方法にはよく判らないことが多いが、1月から2月の間に、「フェースブック」と「フェイスブック」とが同じ言葉だとする登録が行われたのだろう。それで、いわゆるマイナス検索の方法を使って、無理やり両者の違いを探すこととした。「フェースブック -フェイスブック」(フェースブックは含むがフェイスブックは含まないページとの意味)で検索したら49万件、「フェイスブック -フェースブック」だと348万件で、「フェイスブック」が圧倒的に多い。
 こうなると、1月初めの検索結果が本当は逆で、私の転記ミスかも知れないと自信がなくなる。しかし、これをその時点に遡って調べる方法が判らないからどうしようもない。
 「フェイスブック」がこれだけ伸長したのは、新刊書「フェイスブック 若き天才の野望」(日経BP社、2011年1月)その他の最近の本や雑誌の記事が見事に「フェイスブック」となっているからだろう。アマゾンで、「フェースブック」として本を検索すると、「フェイスブック」も検索される。去年に出版された本のタイトルは、facebookをそのままで使うか、「フェイスブック」となっていて、「フェースブック」は無い。

2) 外国語の表記
 ちなみに、私が当初「フェースブック」を使ったのは、グーグルの検索結果からだけでなく、国が公示した「外国語の表記」をうっすらと覚えていたせいか、「フェースブック」の方が自分にはしっくりきたからだ。

外来語の表記(内閣告示第二号、1991年6月28日)
一般の社会生活において現代の国語を書き表すための「外来語の表記」のよりどころを、次のように定める。
(抜粋)
3 長音は,原則として長音符号「ー」を用いて書く。
〔例〕 エネルギー オーバーコート グループ ゲーム ショー テーブル パーティー ウェールズ(地) ポーランド(地) ローマ(地) ゲーテ(人) ニュートン(人)
注1 長音符号の代わりに母音字を添えて書く慣用もある。
〔例〕 バレエ(舞踊) ミイラ*1
注2 「エー」「オー」と書かず,「エイ」「オウ」と書くような慣用のある場合は,それによる。
〔例〕 エイト ペイント レイアウト スペイン(地) ケインズ(人) サラダボウル ボウリング(球技)
注3 (略)

 実際に、英語で長音のaないしaiでエイと発音されるものは、多くが長音記号で表されている。手許の電子辞書で見ても以下の通り。

エース、エール(ale)、エープリルフール、ケーキ、ケース、ゲート、ケーブル、ゲーム、セーフ、セーブ、セーラー、セール、セールス、シェーカー、シェーバー、データ、デート、テープ、テーブル、テーラー、テール、ネービー、ネーブル、ネーム、ベーカリー、ベーグル、ベーコン、ページ、ベース、ペース、ペーパー、メーカー、メーデー、メール、レース、レーズン、レート、レーダー、レール、レーン、等

 例外は、エイト、テイク、ネイルなどで少ない。両方使われる、メーク/メイク、テーク/テイクなどもある。フェース/フェイスも両方だ。面白いのは国語辞書の取扱いの違いで、明鏡国語辞典(2002-2008年とある)は、フェイス主義(見出しがフェイスのみ)だが、本文中に「フェースとも」とあり、フェースも一応は認めている。しかし、広辞苑(6版、2008年)は、フェース主義で、フェイスには全く触れていず、いわば無視している。
3) フェース/フェイスを検索
 話がフェースブック/フェイスブックから発展しているが、フェース/フェイスをグーグルで検索した。「フェース」だと3900万件、「フェイス」だと2900万件で、「フェース」が優位である。これほど件数が多くなると、数字の具体的意味や信頼性も疑わしくなり、比較分析の対象とするのは不適当と考えるので、参考としてほしい。
 比較分析の対象とするには件数がもっと少ない方がいいと思い、アマゾンの「本」検索で調べた。本のタイトルや著者名などに表れる語で検索される。「フェース」でも「フェイス」でも、6970件として出てくるので、グーグルと同様に同じ言葉だとして登録されているのだろう。「フェース」とした検索結果で、上位*2から120冊を眺めてみた。ほとんどが「フェイス」で「face」等が一部あるが、「フェース」は1件だけだった。
 これは私にとって衝撃だった。ファニーフェイス、ニューフェイスなどが書名に出てくるが、違和感がある。私にとっては、やはり、ファニーフェース、ニューフェース、ベビーフェースだ。
4) ささやかな結論
 アマゾンの本のタイトルから見ても推測できるように、政府の「外国語の表記」のガイドラインから外れて、世の中では「フェイス」が主体となっている。本のタイトルや新しい固有名詞など、著者の思いを込めたい場合には、長音記号では軽い感じがして、「フェイス」だと力を込められる気がするのかも知れない。
 私は、英語を学び始めた頃は、フェイス主義で、フェースなどの不正確な表記は問題だと思っていた。しかし、その後「フェース」に馴染んできた。今では「フェイス」だとやや重い気がする。
 ということで、私としては依然として「フェースブック」が好みだが、「フェイスブック」が正式名称だとの話*3もあり、世の中の流れには適宜従って行くこととしたい。
以上

*1:知らなかったが、ポルトガル語のmirraが語源。手許のスペイン語、イタリア語辞典によれば、mirraは没薬のことで、古代エジプトでミイラ製造に用いられたらしい

*2:並べ替え方法としては、出版順、価格順など幾つかあるが、デフォルトの「キーワードに関連する商品」順として

*3:http://kokumaijp.blog70.fc2.com/blog-entry-182.html この記事の根拠はいろいろ探したがよく判らない