携帯電話電磁波の脳への影響

 TIMEの2011年6月13日号(アジア版)に、気になる記事があった。
「新しい調査報告により、携帯電話と腫瘍に関する論争が再燃」*1
 私は、たまたま昨年11月に次の本を買っていて、この問題には関心があった。
○矢部武「携帯電磁波の人体影響」(集英社新書2010年11月)
 同書では、携帯電話の電磁波の人体への影響の有無は何れとも証明されていないが、取りあえず注意したらということだった*2。それに従い、2人の息子に注意するようメールを打っていた(そのメールは最後に添付)。
 このTIMEの記事を最初見た時は、すわ新しい証拠が発見されたかと思ったが、以下に述べるように大した話ではなかった*3。TIMEの記事のポイントは次のとおり。

  • 携帯電話の電磁波と脳腫瘍との関係についてかねて議論がされているが、既に無関係との結論が出ていた。このことに、FCC(連邦通信委員会)、米国がん研究所FDA(連邦食品医薬品局)等が同意していて、WHO(世界保健機構)のウェブサイトにも明記されていた。
  • しかし、5月末にWHOのIARC(国際がん研究機関)が1週間掛けてこの問題をレビューし、携帯電話電磁波の発がん性を「2B」とした。2Bとは、煙草の煙より下で、殺虫剤のDDTガソリンエンジンの排ガスと同じランクとのこと。
  • これは疫学調査の結果で、詳細は7月1日に学術誌に出るまでは発表されないとのこと。

 TIME誌のコメント(執筆者 Bryan Walsh)は、割に冷やかだ。a)IARCが根拠にする疫学調査とは、がん患者と健常者の2グループに対し、携帯電話を使う頻度を聞いただけの程度である、b)電磁波からがんに至る生物学的機構の説明が示されていないと批判的だ。何よりも、携帯電話がこの20年間で富裕者層の持ち物から30億人にまで拡大したのに、脳腫瘍患者の率が顕著に増えた訳ではないとしている。
 何れにしろ、今後携帯悪者論者は活気づき論争が再燃するとの予測だ。この記事で感心したのは、最後に、「この論争には明解な解決は出てこないだろう、何故ならがんの機構は未だ秘密に包まれているからだ」と妙に達観していることだ。

2010/11/23付けの私から息子宛てのメール(1人には幼稚園児他がいて、もう1人は27歳独身)
 昨日、携帯電磁波の人体影響に関する本を読んで、ちょっと心配になったので、連絡します。
 同書の結論は、今の状態では、悪影響があることも無いことも証明されていないから、取りあえず注意した方がいいということです。日本では現在問題にされていないが、2年ほど前から欧州では問題になっているとのことで、欧州議会は、携帯の電磁波に注意しろとの勧告議決をしているそうです(ただ、各国の議会はまだ具体的に実施はしていない)。米国も議会が公聴会を開いたが、政府はまだ対応を取っていないらしい。
 想定されている障害は、脳腫瘍等脳への障害と精子への影響とされています。脳への障害は、送受器を押し当てる耳の側に脳腫瘍が発生することです。問題は電磁波への暴露時間の累計で、10年以上経たないと影響が出ないとも言われます。
私も読んだ限りではよく判りません。1日2-3時間以上だと心配ですが、普通の使用頻度では多分問題にならないと思います。ただ、子供と20代とは、注意した方がいいと思うので、以下、お願いしたい注意を言います。
1) 子供は、頭蓋骨などが薄いとか組織が弱いためか、脳への影響が特に心配されています。例えば、英国政府は、「16歳以下の子供の緊急事態以外の携帯電話使用を控え、8歳以下の子供の携帯電話使用を禁止するように」との勧告を出したとのことです。周りの友達との関係がありますが、できるだけ携帯電話を与えないでください。
2) ○○君(次男)は、ポケットに電話を長く入れないようにしてください。2.5cm以上がいいらしい。それから今後の人生が長いから、次の一般的注意にも配慮してください。
3) その他注意した方がいいことは、a)夜の充電は頭の傍でしない方がいい、b)理想的には(有線の)イヤフォーンを使った方がいい、c)長電話を避ける、d)右と左を時々変えたらいい、などです。イヤフォーンを使う場合でも、本体をポケットに入れておくと、精子への影響があります。

 ちなみに私の場合、通話は殆んどしない(もっぱらメールとウェブ)ので、脳腫瘍の点は大丈夫。ポケットには入れているが、歳を考えると影響は無いだろう。
(6月9日朝の追記)
 以上は、6日(月)に自宅に配達されたTIMEを読んで8日夜に書き上げ、翌朝にアップしようとしていたものだ。ところが、9日朝の出勤途上で買った週刊新潮(6月16日号)を読んでびっくりした。「WHO警告の携帯電波で発がんは本当か」と題する記事が掲載され、執筆者は、上述した書の著者の矢部武氏。「電話中は、(電子レンジのように)脳の中を料理中」などと、危険性(の可能性)を煽っている。同じIARCの発表を読んでも、TIMEとは取り上げ方が全く異なる。私はTIME派だ。
以上

*1:TIMEの記事のタイトルの多くは、書かれているページでのタイトル、目次のタイトル、表紙のタイトル、ウェブ上のタイトルが違っていて当惑させられる。なお、この日本語訳も意訳なので原題と異なる。

*2:もっと厳しい読み方をする人もいるかも知れない。

*3:もっと厳しい読み方をする人もいるかも知れない。