ロンドン・オリンピックとラマダン

 来週の金曜日7月27日からロンドン・オリンピックが始まる(8月12日まで)。たまたま昨日(14日)に配達された米国TIME誌(7月23日号)に、「アラーの選手たち」と題する記事があった。ラマダンと期間が重なるということで、私は知らなかったことだが、面白いので少し紹介する。
ウェブでは次のページだが、登録していないと全文は読めないようだ(以前はそうでなかったはず)。
http://www.time.com/time/magazine/article/0,9171,2119374,00.html
 また、このことは既に有名な話のようで、池上彰氏もこの1月にテレビで紹介していたらしい。
 ロンドン・オリンピックには推定3,500人のイスラム教の選手が参加する*1。しかしオリンピック期間のうち17日間がイスラム教のラマダン(2012年は7月20日から8月18日まで)と重なる。ラマダン期間中は、日没から日の出までの間、飲食はできない。ということで、イスラム選手は、空腹のまま水も飲めずに試合をしなければならず、大いに不利だ。
 この記事では触れていないが、2006年に日程が決定した時に、イスラム団体から不満が出されていたらしい。しかし、TIME誌は楽観的で、オリンピック精神と宗教心は、自己犠牲と自己制御の下に完全を達成するという本質を共有しているので、何とか調和が図られるだろうとしている(この部分は、私の誤読かも知れない)。
 この問題に関しては、世界では相当話題になっているが、このような日程に決めた経緯についてはウェブを見ていてもよく判らない。ロンドン組織委員会の会長Sebastian Coe卿が次のように答えている記事を見つけた。

Muslim News 2012/6/29
http://www.muslimnews.co.uk/paper/index.php?article=5856
最後の質問
(問) ラマダンと重なる期間にオリンピックを設定したのは何故か。
(答) IOC(国際オリンピック委員会)が開催都市を募集した時に設定した期間は、2012年7月15日から8月30日までの間だった。他の立候補都市の提案も全てラマダンと重なっていた。

こうなるとIOCの責任ということになるが、次はIOCの担当者へのインタビューだ。これによれば、多くの国際スポーツ大会もラマダンをそれほど考慮している訳ではなく、とにかく身体に気をつけてということだ。

Radio Free Europe 2012/7/15
“Interview: IOC Expert Discusses Ramadan And London Olympics”
http://www.rferl.org/content/ioc-expert-discusses-ramadan-and-london-olympic-games/24610594.html

 TIME誌の記事に戻ると、オリンピックがイスラム教などの政治に翻弄された例をいろいろ紹介している。1972年のミュンヘン・オリンピックでのイスラエル選手の暗殺事件や各種ボイコット事件だ。また、イスラム教の女性への禁忌に関しては、ヒジャーブ(顔を隠すベール)を着けての参加や、陸上選手が他人の面前で半裸で走ったとして国内の僧侶から批難されたとの話も紹介されている。しかし、今年は、サウジアラビアカタールブルネイが女性選手の参加を初めて認めることとしたらしい。まだ選手登録はされていないが、もしこれらの国がこのとおり登録すれば、オリンピック史上初めて、全てのチーム参加国(every country with a team)に女性代表が含まれることになるとのことだ。
 ロンドンは、市内のイスラム教徒の住民が100万人を越えており、今までのオリンピック開催都市の中では最もイスラム的で、準備も周到だ。オリンピック選手村では、礼拝室を備え、食堂は24時間開業で日の出前の食事が可能、かつ日没直後の特別食も用意されている。
 今まで主要なイスラム都市ではオリンピックは開催されていないが、2020年のオリンピック開催都市の候補としてトルコのイスタンブールが挙げられている(他に、東京とマドリード)。トルコは5回目の立候補という。東京も立候補しているが、このイスラム国の進出の中では、中々大変かと思った。

*1:全体の参加選手数はまだ不明だが、4年前の北京オリンピックでは10,942人だから、選手の約3割がイスラムだ。http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3982.html