オリンピック雑感

 長かったロンドンオリンピックも8月12日(ロンドン時間)で終了した。日本が獲得したメダルは計38個(金7、銀14、銅17)で、過去最多だそうだ。夜眠くてそれほど見ていた訳でもないので、あまり詳しいコメントはできない。以下、幾つか雑感を述べる。1)県別メダル数、2)ラマダン、3)銅メダルが2組の不思議、4)国家と国旗、5)ルールに関する疑問(サッカー、バレーボール)
1) 県別メダル数
 先週の弊ブログ「日本人メダリストの出身地」id:oginos:20120807で示した県別メダル数の最終版を紹介する。
 前回と同様に、過去の県別メダル数に係る統計に準じて、上述の38個のメダルのうち、チーム競技や団体(体操、水泳等の一部)、ダブルス(バドミントン等)は外し、1人で行う個人競技だけをピックアップすると、金7、銀8、銅14の計29個となる。

個人競技のメダルの出身地別獲得数(全29個)
1位 福岡4個、2位 大阪、青森の各3個、4位 栃木、埼玉各2個、以下、1個の都道府県は、概ね南から、宮崎、愛媛、山口、広島、岡山、兵庫、和歌山、奈良、三重、静岡、山梨、石川、神奈川、群馬、北海道だ。

 メダリストとしては、体操の内村選手(福岡)と背泳の入江選手(大阪)、平泳ぎの鈴木選手(福岡)が各2個のメダルを得ているから26名だ。メダリスト数としてのランキングは、青森が3名の単独1位、福岡、大阪、栃木、埼玉の4府県が各2個の同率2位となる。
 残念ながらというか、不思議というか東京出身者の個人競技のメダルは無い。
 今回本邦初演と思うが、県別メダル数の対象として団体(ダブルスを含む)のメダル数も調べた。この場合の団体とは、JOCの競技種目名で「団体」となっているもので、具体的にカウントしたのは、水泳男子/女子メドレーリレー(各4名)、体操男子団体(5名)、フェンシング男子団体(4名)、アーチェリー女子団体(3名)、卓球女子団体(3名) 、バドミントン女子ダブルス(2名)だ。何れも基本的には個人競技なので、「団体個人競技」と名付け、「広義の個人競技」として扱ってもいいと考える。これに対し、銀メダルと銅メダルに輝いた女子サッカーと女子バレーは、そもそもがチーム競技であり、個人のメダルという感じはしない。それに選手登録人数が、サッカーで18名、バレーで12名(全てにメダルが授与される)と非常に多い。ということで、サッカーとバレーの選手は出身地分析からは取りあえず除外した(後では入れる)。
 この「団体個人競技」のメダル7種(銀5、銅2)を、団体の各メンバーに1個ずつ配布すると、メダル数は25に増える。単独個人競技も含めた「広義の個人競技」のメダル数は、合計54個(金7、銀26、銅21)にかさ上げされる。県別構成は、次のとおり。

「広義の個人競技」のメダルの出身地別獲得数(全54個)
1位は福岡7個、2位は大阪6個、3位は宮崎、栃木、宮城、青森の各3個、以下、2個は、熊本、宮崎、静岡、東京、埼玉、1個は、計19道県(韓国を含む)だ。

 ここに至って、大票田の東京から2個出てきてほっとする。
 こうなると、更に女子サッカーとバレーのチームも入れて算出したくなる。各登録選手にメダルを配布すると、計30個水増しされ、全獲得メダル数は84個の多きに達する。ちなみに、48年前の東京オリンピックの際に日本は16個もの金メダル*1を獲得して(銀、銅を合せると29個)、米国の36個、ソ連の30個に次いで3位だった。日本の金メダルの中には、女子バレー(12名)と体操団体(6名)が含まれていた。これを各選手の数に応じたメダル数とすれば、金メダルの数でソ連を抜くのではないか(?)とか、団体と個人で金メダルの価値が同じなのは不当だとか言って口惜しがっていた。半世紀後の現在それを算出した訳だが、各国比較までやろうとの意気込みは無い。

個人、団体個人、チームのメダルの出身地別獲得数(全84個)
1位 大阪9個、2位 福岡8個、3位が東京、神奈川の各6個、5位が栃木の5個、以下、4個が宮城、3個が鹿児島、和歌山、埼玉、青森、北海道、2個が熊本、宮崎、岡山、兵庫、京都、三重、静岡、千葉、1個が15県(海外を含む)だ。

 時間つぶしの計算だが、感想としては、意外に地方が多いと思う。想像するに、現在のオリンピック選手は小さい時からそれを目指した天才教育を親主導で始めなければならないという事情があるのではないかと思う。そのためには訓練施設などを用意しなければならず、地方の方がスペース的に余裕があるという面がないだろうか。例えば、体操の内村航平選手は、小6時に長さ12mのトランポリンを買ってもらったというが、家も広くなければできないことだ。
 なお、上記分析のバックデータは、別添のエクセルの表にある。
メダリスト出身地.xlsx 直
2) ラマダン期間との重複
 7月の弊ブログ「オリンピックとラマダン」id:oginos:20120715 でも少し述べた。その後更に考えると、ロンドンはサマータイムで昼の時間が長い。8月1日時点で日の出が5時23分、日没が20時49分で、日中の時間は15時間26分で、この時間中ラマダンの規制により飲食ができない。
 更に、オリンピックはロンドンだけでなく、サッカーは英国内各地を転戦していた。最北はスコットランドグラスゴー市のハムデン・パークで、7月26日には、男子予選グループDのホンジュラス対モロッコ戦が行われた。この日のグラスゴー市の日の出は5時11分、日没は21時36分で、昼の時間は16時間25分の長きに達する。試合開始時刻は昼の12時で、モロッコの選手は大変だっただろう。ちなみに、日本男子チームがモロッコと対戦したのは7月29日イングランド北西ニューカッスル市のセントジェームス・パークの17時からだった(この都市の日の出、日没時刻は不明だが、ロンドンとグラスゴーの中間)。モロッコ・チームへのラマダン断食の影響については、日本でも報道されていた。
 イスラム諸国は概ね低緯度地域にある。少なくとも発祥のサウジアラビアのメッカは北回帰線より南だ。その地域では四季の日出日没時刻の差は少ない。ラマダンの断食自体非合理的だと思うが、地球のより北の地域での日出日没時刻の差を考えると、あまりグローバルな戒律ではないのではと思う。ただイスラム教は相当グローバル化していて、イスラム国である中央アジアカザフスタンの首都アスタナは、ロンドンと同じくらいの北緯52-3度の高緯度地域にある。
 極端な話、もっと北に移動して例えば白夜のある地域ではどうするのだろうか。このような疑問は多くの人が抱くようで、ブログや質問コーナーでも話題になっている。ただ、回答がコメント的で、旅行者や病人は断食をしないことができるなど伝聞の話が多く、適当な運用がされているとの誤解を与える面がある。日本語の検索では根拠のあるものがなかなか見つからないので、「Ramadan midnight sun」で検索した。次のウェブページが有用な情報であった。

Saudi Aramco World (January/North 2012)“Ramadan in the Fareast North”http://www.saudiaramcoworld.com/issue/201201/ramadan.in.the.farthest.north.htm
( Saudi Aramcoとはサウジアラビアの国営石油会社のようで、この記事は、ノルウェイの北部のトロムセ市で取材したものだ。ちなみにトロムセ市は北緯70度に近く、北緯66度33分の緯線を越えた北極圏にあって、白夜の地域だ。)
 トロムセ市には、世界で最北のモスクがある。この白夜の時期にラマダンの断食等の戒律(他に、暁の祈り、日没の祈り)をどう行えばいいのかについて、サウジアラビアの首長に問い合わせた。3つの選択肢が示された。a)Makkah(メッカのある地域)の時間に従う、b)日出日没がある一番近い町の時間に従う、c)時刻を推測し定まった予定を作成する(estimate the time and set a fixed schedule)。
 トルムセの信者は、全くの白夜と太陽が全く出ない冬の期間は、a)のMakkahの時間に従い、それ以外の時期は、当地の日出日没の時間に合せることとしている。
 今年(多分2011年)のラマダンは8月1日から29日だったが、断食は午前2時30分から午後11時まで行った(8月末に近づくに従って短くなる)。

 母国の指示にもあいまいな所があるようで、信者でない部外者から見ると何だと思う。しかし、白夜以外の日出日没のある限り、その戒律を守っているということで、凄いと思う。ラマダンの断食については、便法もあると言われ、信者によってその対応が異なっている面があるようだが、基本はこのように厳しいものだ。
 仮に2020年のオリンピックが(東京ではなく)イスタンブールになり、その時にまたラマダンと重なったらどうなるだろうと思う。あるページで「2020年のラマダンは4月24日から5月23日まで」とあったが、正しいかどうかは判らない。何れにしろ重なる確率は高くは無い。
3) 銅メダルが2組
 ボクシングの清水選手が準々決勝に勝ち準決勝に進出した時点で、銅メダルが確定したと聞いて少し驚いた。3位決定戦をしないで銅メダルが2人だそうだ。それで調べたが、銅メダル(3位)が2人いるトーナメント方式の競技は、他に柔道、レスリング、テコンドーの3種目ある。
 ボクシング以外の3種目は、準々決勝等の敗者(種目により若干異なる)による敗者復活戦の勝者と準決勝の敗者2人との間で3位決定戦を2組行い、3位が2名決まる。他のサッカー、バレーボール、卓球、バドミントン等のトーナメント種目は、準決勝の敗者同士で3位決定戦をして3位を1名(チーム)にするのだから、これと決定的に違って不思議なルールだ。
 ボクシングは、3位決定戦をせずに銅メダルが2名だが、その理由として、ボクシングでは、健康上の理由から、敗者は何日間か試合を行ってはならず(これについて明記してあるウェブページは見つからなかった)、従って敗者復活戦や3位決定戦はできないのだそうだ。考えてみると、ボクシングは相手を昏睡状態にすることが目的の格闘技であるから、そのような配慮は必要なのだろうと思う。
 しかし、前述の柔道、レスリング、テコンドーの3種目は、3位決定戦と言うのに、3位を2組作るのは何故だろうか。想像だが、ボクシングが3位を2組作っているのに悪乗りしてメダル数を増やしているのかも知れない。
4) 国旗と国歌
 以下、かねて感じていることをこの機会に述べたい。
 もの心ついて以来(ものを幾らか考えるようになった2-30代の頃から)、日本の国歌と国旗には違和感を抱いていた。ロンドンオリンピックで改めてそう感じた。
a) 国歌については、先ず歌詞が昔から理解できない。「君が代は千代に八千代に・・・」と何故国民が歌わなければならないのか、日本国との関係については、誰も直接には説明してくれない。「・・・苔のむすまで」との終りも意味が定かではなく、短く寸足らずで終ってしまう。次に、旋律が鬱陶しい。とても元気が出ない。
 「国旗・国家の世界地図」(文春新書、2008年7月1刷)によれば、「君が代」は恐らく世界の国歌の中で一番短いものらしい。同書によれば、世界の国歌には、1)君主を称える歌、2)革命や独立戦争から生まれた闘いの歌、3)国への神の祝福を願う祈りの歌、4)ふるさと讃歌(数は多くないとのこと) の4つのタイプがあるとのことだ。「君が代」は、1)君主を称える歌に解釈され得るとするが、天皇を称えるならもっと直截に表現すべきでまだるっこしい。
 ということで歌えと言う人の意図が判らないので、昔からあまり歌う気がせず、オリンピックでの演奏は、外国人も聴いているかと思うと少し恥かしい。
b) 国旗については、1)あまりにも単純なデザインで知的な趣きが無いことと、2)外国人にデザインの意図が理解されていないことが気に懸っている。すなわち、太陽は、中国は白だが、その他の世界各国の大半では黄色と見られている。かつて、米国に赴任していた頃、職場の米国人と雑談で太陽の色の話をしていたら、その米国人から、「それでは、日本の国旗の赤丸は太陽だったんですか」と言われ、がっくりしたことがある。日本の法人のオフィスに勤めているなら、日本への知識もあるかと思うが、そうでもないものだ。
 ただ、単純なデザインうんぬんについては、三色旗など単純なものも多いのでそれほど拘って主張している訳ではない。
5) ルールへの若干の疑問
a) サッカーのPK戦
 サッカーの決勝トーナメントでは、各試合で勝者を決めなければいけないので、延長戦をし、それでもも決着がつかない場合、PK戦を行う。PKは基本的にキッカーに有利で殆どがゴールするので、キッカーの失敗合戦だ。例外的に失敗したキッカーは頭を抱えることになる。通常のPKは、ペナルティとしてのキックであるから成功率が高いのは合理的だが、PK戦の場合はもう少し成功率を低くした方が面白く、かつ健全な争いになるのではないか。例えば、PKのキックの位置を通常の位置から何メートルか遠くするなど考えられないだろうか。
 話は少しずれるが、サッカーは得点ゴールが少ないのが難点だと私は思っている。例えば、今回のオリンピックの決勝トーナメントの総得点は、男子で29点、女子で20点だ。それぞれ8試合(3位決定戦を含む)だから、1試合1チーム当りの平均得点は、男子1.81点(29÷8÷2)、女子1.25点だ。素晴らしいセットプレーをしても、ゴールに結びつくのは、大半が偶然の要素に恵まれた時のように見える。点がなかなか入らないのは見ていて疲れてだれる。また、引分けが多くなる道理だ。
 ゴールポストを拡げて入れ易くするとか、オフサイド・ルールを緩和する(例えばボールがペナルティエリア内に入ればオフサイドは無し、など)とかの工夫があってもいいと思っていた。ただ、昔、次の奇書を読んで少し考えが変って、オフサイドの撤廃などは言わないことにした。
○ 中村敏雄「オフサイドはなぜ反則か」(平凡社ライブラリー新書、2001年11月発行)
 同書では、サッカーの始まりは、英国の田舎の村祭りのイベントで、そこでは勝敗よりも如何に長く楽しんでコミュニティの絆を確認するかが主眼だったという。サッカーのルールは点を入れにくくするためなのだ。
b) バレーボールのブロック
 バレーボールの原則は3打で相手コートに打ち返すことにあるが、ブロックはその打数にカウントされない。そのためもあって、綺麗なスパイクを打っても、守備側がブロックして一旦拾えば1打の余裕があるので直ぐ逆襲される。華麗なスパイクで胸がすっとしても、相手に与える効果が半減されるので、見ていて歯がゆい。
 スパイクに対してブロックを優遇し過ぎではないかとの気持だ。ただ、試合を見ていると、サーブ側は一般に不利で、サイドアウト(サーブ側が失点しレシーブ側にサーブ権が移る)が通常だ。サーブ側を少しでも有利にするために、サーブ側にだけブロックをカウントしないという特典(最初のサーブレシーブの時だけに限るというのもある)を残すというアイデアもあるのではないか。
 サッカーと違い、バレーボールのルールはよく変更があるようで、このブロックに関するルールも1977年に導入されたものらしい*2。豪快なスパイクの破壊力で、見ている人のストレスが発散できるよう、ルール改正が検討されると嬉しい。

*1:東京オリンピックでは、レスリング、柔道、体操の各個人種目で多くの金メダルを獲得した。

*2:Wikipediaによる。「バレーボール”ルールの変遷"」の項。ちなみに、サッカーの項目では、「ルールの変遷」という項は無い。 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AB#.E3.83.AB.E3.83.BC.E3.83.AB.E3.81.AE.E5.A4.89.E9.81.B7