ファンド投資

 最近、持っていた債券が償還されたので、その再投資先を検討した。その結果、初めてファンドを購入した。毎月分配型のもので、内容は後で説明する。
 私の今までの投資歴は、債券、株、為替を細々とやってきた。債券は、国債社債、仕組債だ。株の投資歴は長いが、本格的なものではない。私の株投資歴から得た経験則は、「私が買うとその株価は下る、売ると上る」だ。債券のうちの仕組債は後述する。投資信託については、長く不信感を持っていたが後述。
 以下、1)今回購入したファンドについて述べ、それに加え、関連する私の投資体験として、2)仕組債、3)投資信託への違和感、4)その他雑感(株、為替、金利)を述べる。小心者の安全投資の方法として参考になるかも知れない。具体例で示さないと判りにくいと思ったので、約6,500字と長くなった。以下、ファンドと投資信託とを、また、ファンド購入者と投資家とを同義に用いる。
1) 毎月分配型ファンド
 今回の償還金の投資先としてかねて関心を持っていたのは、毎月分配型の投資信託(ファンド)だ。昨年から年金生活者となっているが、年金だけでは足りないので、所有資産の取崩し計画を作って、毎月〇万円を生活資金用の預金口座に振り込んでいる。このために取崩し元の資金を別の普通預金口座にプールしているが、余裕分がほぼ無利子だ。毎月分配型のファンドでは、毎月一定の分配金が支払われるので、これを生活資金の一部に充てるという考えだ。分配金の元は、運用果実(配当や利息)から支払われる分と元金を取り崩して支払われる分とがある。運用がよければ元金の取崩し分が少なくなる。現在のように普通預金をプールして毎月取り崩すより、少しは運用成果の還元が期待できると考えた。
 次に、どのファンドを選ぶか。また毎月分配型は本当にいいのかを検討した。
(ファンドの種類)
 ファンドの銘柄数は株の銘柄数より多いので選ぶのも大変だ。銘柄数比較の簡便法として、日経新聞の株式欄を見ると、銘柄リストが東証1部で全1ページ、東証2部、ジャスダックマザーズで合せて1ページの計2ページある(この他に、大証1部2部、名証で4分の1ページぐらい)。これに対し、ファンドはオープン型の基準価額のリストが1.5ページある(もちろん毎月分配型以外のものも含む)。ただ、株式は各銘柄ごとに、始値、高値、安値、終値、前日比、売買高が記載されているので、1ページに8段(ジャスダックマザーズは9段)あるが、ファンドは各銘柄ごとに、当日の価格と前日比しか記載されていないので、1ページに12段もある。簡便に比率を見ると、2ページ×8段強(=16段強)と1.5ページ×12段(=18段)で、ファンドの銘柄数の方が多い。
 この中から選ぶのも一苦労だし、それほど時間をかけたくもない。かねて取引のある証券会社に候補を挙げてもらって検討することとした。
 ファンドの運用方針にはいろいろな種類があるが、a)投資対象が国内か、外国か(先進国中心、新興国中心など)、b)円建て(為替ヘッジ付きを含む)か、外貨建てか、c)投資証券の種類として、株式か債券か不動産か貸付かなど、d)ローリスク・ローリターンかハイリスク・ハイリターンか、などがある。
 私は、時間節約のため、少し調べてから方針を定めた。a)国内ものは円の金利が低過ぎるので外国ものにする。ただ外国ものの中で新興国対象は、投資対象企業がハイリスクだし、通貨もマイナーで予測がつかないので買わない、すなわち先進国対象のものとする。b)為替ヘッジについては、円安の現状に鑑み、今後の円高の可能性を考えてヘッジ付きのものとする。ヘッジのコストが必要で分配金が少なくなるが止むを得ない。c)投資対象証券は拘らない。結果として、国内ものよりはハイリターンだが、中リスク・中リターンだ。総じて安全サイドで、人によっては面白みが無いと感じるだろう。
 毎月分配型の他に、年2回払い型がある。よく見ると毎月分配型の方は手数料が取られているようである。しかし、目的が毎月の生活費の補填なので、やはり毎月分配型を選んだ。
(具体的銘柄)
 具体的な銘柄は、新光投信(株)が投資信託委託会社である「グローバル・アロケーション・ファンド(愛称:「世界街道」、毎月決算・為替ヘッジコース、目標払出し型)」だ。*1
 今年の1月に募集開始されたオープン型で、先週に買った。毎月の分配金は、各年1月のファンドの基準価額の1.2%(年14.4%)だ。100万円買えば毎月1万2000円振り込まれる。分配金は、上述のように、元本の運用果実と元本の取崩し額から構成され、元本の取崩し額はファンドの基準価額に反映されるので、運用成績がよければ、基準価額の減少額は少なくなるし、あわよくば基準価額がアップすることも期待できる(毎日の基準価額は、上述のように新聞紙上に出ている)。
 このファンドの仕組は実は複雑で、実質的な運用は米国のブラックロック*2 の運用に従っているが、同社の運用とファンド購入者との間には他の会社が発行する債券(連動債)が介在している。また、手数料も高く、購入時に約3.6%の手数料、各年に約1.9%の信託報酬(それぞれ元本に対して)を支払わなければいけない。上記の年14.4%の分配金は信託報酬等を控除した後の額であって、元の率は17.4%だ。
 この手数料、信託報酬が比較的高いこと(もっと高いファンドもある)については、私は抵抗感が無い。それだけ報酬を取るなら、いい運用成績を上げてくれるだろうと考える(こととしている)。問題は、その好成績は結果としてしか判らないことだ。予想配当率などで提示するファンドもあるが、このファンドは無い。しかし、世界最大の資産運用会社(ブラックロック社)ということで、信用してみることとした。また、途中に介在している連動債*3の発行会社のスター・オリオスというアイルランド籍の会社も少しいかがわしい趣きがあるが、信用することとした。
 このファンドの販売は、(上記の委託会社とは別の)一般の証券会社だが、その社員の説明が何とも覚束ないもので、私の質問には殆ど答えてくれなかったが、目論見書等を相当仔細に検討して、自分なりに判断した。今までの私の投資経歴から見ると、不確定な部分を残したままでの決断だ(次の仕組債の項を参照)。
2) 仕組債
 今回の毎月分配型ファンドの購入資金は、冒頭に述べたように保有していた債券の償還金だ。その債券はいわゆる仕組債というもので、注意すれば高位の利回りが期待できる。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%95%E7%B5%84%E5%82%B5
 私は、ある財団の経営を任されている時に、10年前から仕組債を証券会社から薦められ、私は、その財団で恐る恐る購入していた。恐る恐るという意味は2つあって、ほぼ安全に近い条件ということと、財団の財産の一定割合(原則2割)以下に抑えるということだ。その点で最高利回りではなかったが、相当の利回りを上げ、問題も出なかった。
 そのうち4-5年前に、証券会社から個人向けの仕組債を薦められた。法人向けは1億円からだが、個人向けは500万円からだという(その後下っている)。これも恐る恐るだが、財団よりはややリスキーなものを買った。
 今回償還されたものは、2008年8月に発行され購入した次のような仕組債だ。仕組債の具体例として、説明する。

  • 発行体 北欧の政府系機関(当時の格付けはトリプルA )
  • 元本、利払いは円建て、10年満期。
  • 利率は、当初半年間は年利10%
  • 半年後以降の利率(年2回払い)
    • 利払い日の10日前の豪ドル為替相場から設定為替相場(81.32円/豪ドル)を引いた数値を年利とする(設定為替相場は、発行時(2008年8月)の実勢相場96.32円/豪ドルから15円引いた81.32円として設定された)
  • 早期償還 各利払い日の10日前の相場が、発行時の相場(96.32円/豪ドル)より円安になった場合、その利払い日に全額(当初の円貨額)が償還される。

 発行体は北欧の政府系機関なのに元利払いは円貨、半年ごとの利率が円/豪ドル為替相場にリンクしているなど複雑だ。半年ごとの利払い時に81.32円/豪ドル以上の円高なら金利0%、それ以上の円安なら相場に比例した金利となり、例えば91.32円なら10%となる。すなわち、円高なら発行体に有利、円安なら投資家に有利、ただし円安が発行時の相場より進むと発行体の負担が大きくなるので、全額償還されるというものだ。説明は省略するが、円高がある限度相場を越すと償還額が豪ドル建て相当の額になる(円貨では当初発行額より安くなる)という爆弾条項もある。
 一番うまく行って相場が90円程度で進めば、毎年10%程度の利息という破格のいい話になるし、仮に円高になってもそれほどには進まないだろうと期待した。
 しかし、この債券は発行後、豪ドル安(円高)の局面が続いた。発行後4年半の今年の2月までに計9回の利払いがあったが、そのうち3回が金利0%という風に低迷していた。今年になってから急に円安になり、今年の2月の利払い時には、94.59円/豪ドルとなって、年利13.27%の高利(ただし半年分)が付くとともに、早期償還された。4年半の利払い額を合計し、単利で年利を見ると税込で約3%(源泉徴収は20%)で、まあまあだ。これは最後の高利の利払いが効いたもので、アベノミクスのお蔭だ。途中は金利が0%から1%以下が続き、冷や冷やしていた。
 仕組債は複雑だが、利払いの条件が明確で、また発行体との関係も単純で、投資家としては全て納得できる。それに引き替え、ファンドは運用担当者の運用能力と運任せというところが不安だし、運用が失敗してもファンド発行者の責任が殆ど無い。
 この仕組債は、半年ごとの利払いが円/豪ドル相場にリンクしているが、他に米ドル相場、特定株式の株価、東証株価指数にリンクするものなど、またリンクの係数(為替相場と利率との関係)にも様々なものがある。利率の条件、早期償還の条件等が明確なこと、発行体には元利払いの責任があることなどから、リスクとリターンが割にはっきりと判断できるので、私は好きだった(もちろん条件による)。今回償還された後も代りの仕組債を推薦してもらえるかと思ったが、円安の環境下ではいいものが無かったようだ。
3) 投資信託への違和感
 私の投資信託への不信は、学生時代に遡る。親が買っていた投資信託の運用報告書を見ると、買った後軒並み価格が下っている。複数の株式等に投資して危険を分散し、かつ株式投資の高配当を享受するという投資信託の理念はよく判るが、何故損が多いのだろう。新聞の証券欄を見ても1万円(当初購入価格)を下回っているものばかりだ。詳細に検討した訳でないが不思議だった。
 その後、1991年の証券スキャンダル*4で、証券会社が大口顧客に「特定金銭信託(特金)」口座による損失補填をしていたのを知って、かねがね抱いていた疑念を確信した。私の推測は、一般の投資家が購入した投資信託の構成銘柄と特金口座の構成銘柄とを適宜入れ替えているのだろうということだ。値上がりした銘柄を一般の投資信託から特金に移せば(移行日の偽装は必要)、特金口座は確実に値上りし、一般の投資信託は値下りする。これは、あくまで私の推測だ。ただ、証券スキャンダルの後規制が強化されて、このようなひどいことは現在では流石に無くなったであろう。
 とは言え、投資信託は、格付けが普通無い、運用委託会社と投資家との契約は運用成績については何も責任が無い、など不透明な部分が多く、基本的に信頼ベースだ。運用報酬も高いということで、余り好きではない。それから、既存のファンドを買う場合、毎日基準価額が出ているのに、4日後の基準価額で買わなければいけないというのも、運任せで不安だ。
4) その他(株、為替、金利)
 以下、投資にまつわる私のその他の雑感。
(株式)
 アベノミクスのお蔭で株価が上っているが、私は出遅れた。先の私の株の経験則「買うと下る、売ると上る」に加え、「買わないと上る、売らないと下る」も加えなければならない。
 以前駅の売店で、各夕刊紙と並んで株式新聞という新聞を売っていた。時々金曜日の帰りに買って週末に読んでいた。私の方針は、ケイ線分析で手軽に売買時期を探ろうというものだったが、実際に株を買うことは余り無かったし、得したということも記憶が無い。最近思い出して、駅売店で株式新聞を探したら売っていないという。ウェブで調べたら2011年から宅配になったそうだ。(http://www.morningstar.co.jp/publishing/kabushiki/shop.html)
(為替)
 為替としては、外貨建て債券や外貨預金も少ししたが、基本的に好まない。30年前にドイツ・マルクが上ると信じて、マルク建ての外国社債を買ったが、マルクは下る一方だった。為替相場は一般人の考えとは別の動きをすると思って、その後は米ドルと前述の豪ドル以外殆ど手を出していない。
 例外として、3年前にブラジル・レアル建ての債券を買った。発行体は欧州の国際機関でトリプルA、ブラジル・レアル建てのストレートボンド(普通社債)で3年満期。これは利率の9%に引かれた。単純計算で、9%の利息から源泉徴収の20%を引いて、税引き後利息を7%とすれば、3年で21%、3年後の元本償還時にレアルの相場が1割下っても元が取れる(利息の為替損も考えなければいけないが)。
 ところが、発行時の約52円/レアルから、その後レアル相場は下落し、一時は30円台になった。2割以上の下落だ。ということで、諦めていたが、満期日の本年5月に近づくに従って、アベノミクスのお蔭で、今週は約52円だ。このまま進めば5月の満期償還は、購入円貨額に相当するものが期待される。今までの利払い時は円安だったので、9%の利息から2割程度目減りしていたが、円の金利から見たら御の字だ。ということで、ハッピーエンドになりそうだが、途中は諦めていた。本当に為替は危ない。
(金利)
 円の金利が低いのは、年金生活者にとっては困ったものだ。10年国債金利が0.5%程度、銀行の普通預金は0.02%。私はかねがね円の金利はパーセントではなくパーミル(per mil、千分率。記号は‰)にすべきだと思っている。そうなると10年国債は5パーミル普通預金は0.2パーミルだ。2003年頃から何年間か普通預金が0.001パーセントという時代があった。この時はppm(parts per million)で表記すべきと考えた。0.001パーセントは10ppmとなり、100万円で10円の利子だから間違えにくい。黒田東彦日銀新総裁の異次元金融緩和によって低金利が続くと思われるが、表記ミスを避けるためppmという異次元の単位を使ってはどうか。

*1:このファンドの詳細に関心があれば、関東財務局に提出された有価証券届出書がEDINET(有価証券報告書等の電子開示システム)に掲載されている。 https://info.edinet-fsa.go.jp/E01EW/download?1365819314363

*2:世界最大の資産運用会社とのこと。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF

*3:連動債とは、ブラックロックの運用するファンドに連動するという社債で、日本の投資家が購入するファンドが具体的に投資する債券のことだ。複雑な仕組だ。

*4:証券不祥事 http://www.weblio.jp/content/%E8%A8%BC%E5%88%B8%E4%B8%8D%E7%A5%A5%E4%BA%8B