料理の持帰り

 ホテルやレストランでのメニューの虚偽表示について次々と報道され、それへの非難がかまびすしい。そのことへの若干のコメントは最後に述べることとして、今週あるレストランで、料理の持帰りを頼んだら、保健所からの指導を口実として断られた。このことも問題だと思うので紹介したい。
(犬用料理の持帰り禁止)
 我が家の老犬の気晴らしによく外出するが、食事の場所に悩む。大概の(人間用の)レストランはペット同伴禁止だ。犬も連れて行けるレストラン、ホテル、店舗等については、Honda Dog (http://www.honda.co.jp/dog/travel/kanto/ibaraki/index.html)という有名なサイトがあって、全国のレストラン等が紹介されていて便利だ。
 犬の同伴を認めているレストランには、更に犬用のメニューがある所もある。3日前にもそのような店に行って、人間用の食事と併せて、我が家の犬のかねて好みのミートロ−フも注文した。ミートローフとは大層なメニューだが、おからが入ったケーキのようなものだ。最近のニュースで話題の虚偽表示に当るのではないかとも思い、またその店が某デパートの運営するショッピングセンターのテナントであることも考えると更にスキャンダラスになるが、本稿の主題はそれではない。
 犬の前日の体調が万全ではなかったので、妻が家でゆっくり食べさせたいと思い、ミートローフを家に持ち帰っていいかと聞いた。すると、保健所の指導により、持帰りは断っているとのことだ。えっ、保健所の指導は人間の食物だけではないか、と聞いたら、犬用についても指導があったと言う。困った妻が考えて、元来は小サイズの注文の積りだったが、中サイズのミートローフに替えて、食べ残したのを持って帰るならいいかと提案した。本当は駄目だけどとしつつ、黙認してくれることになった。(売上げが増えれば、保健所の指導より客へのサービスが優先するようだ)
 釈然としないので、帰ってから調べた。ウェブを見ると、関連する話題として、a) 人間用の料理の持帰りの是非、b) 店舗、施設への犬の同伴の是非がいろいろ議論されている。しかし、犬用料理の持帰りが話題になっているのは見当らない。また、a)、b)何れにも、「保健所からの指導」を口実にしている場合が出ている。
 以下、1) 料理の持帰りの是非について、ウェブ上での議論を簡単に紹介し、次いで、2) 保健所の監視指導の概要、3) 施設への犬等の同伴の是非、4) 私見、を述べる。後で詳述するが、保健所からの指導は、少なくとも制度的、組織的には無いように見える。
1) 料理の持帰りの是非
 人間用の料理の持帰りについて賛否いろいろな議論がある。持帰りを認めるべきだとする立場の論点は、a) もったいない、国民経済レベルから見ても捨てる食物の量を減らすべき、b) 外国では持帰りは当然のこと、c) 持帰りの際の変質、食中毒への注意は個人の責任、などである。a)の観点から、最近はドギーバッグ*1の利用が推奨されている。
 持帰りを認めない立場の論点は、a) 変質して食中毒の恐れがある、b) 食中毒が発生したら、調理し、持帰りを認めた飲食店側の責任が問われる、などだ。
 飲食店側は、多分食中毒を恐れる立場から、持帰りを嫌がっているようで、その口実として、実際には無い「保健所からの指導」を挙げるというノウハウが伝えられているようだ。次のURLは、議論がかまびすしいページの1例だ。
http://komachi.yomiuri.co.jp/t/2010/0525/318073.htm?o=0&p=1

2) 保険所の監視指導
 飲食店の安全規制は、主として食品衛生法に基づいて、飲食店業の新規開店時の知事認可と開店後も適時行われる保険所の食品衛生監視指導がある。後者の監視指導は、国が定めた「食品衛生に関する監視指導の実施に関する指針」*2と各都道府県が定める「食品衛生監視指導計画」に基づいて行われる。国の指針と東京都の「平成25年度 東京都食品衛生監視指導計画」、「平成24年度 東京都食品衛生監視指導計画実施結果 概要」をざっと見てみた*3。何れの規制にも、持帰りについては全く触れられていないことを確認した(「持帰り」の語で文書内も検索チェック)。
 そもそも、この規制体系は、食品の安全性を確保するため、「農林水産物生産から食品の販売に至る一連の食品供給の行程 (フー ドチェーン)の各段階」をチェックするもので、販売の後は関知していない。販売後は消費者の判断と自覚に期待するということだ。
 これらを検討すると、持帰りを禁ずるという保健所からの指導は、次の理由により無いのではないかと思われる。
a) 前述の保健所関係の規制文書で、料理持帰りについて触れられていない。
b) ウェブで私が見た範囲内では、「保健所からの指導」は伝聞でしか書かれていない。
c) 保健所に確認した人がいるが、そのような指導はしていないと、あるウェブに書かれている。
d) 持帰りを断りたい飲食店からのウェブ上の相談に対し、「保健所からの指導」と言えばいいとアドバイスしている例がある。
 ただ、保健所職員が個人の判断で指導している場合があるかも知れないし、私の見落しもあり得る。無いことを証明するのは難しいので、断言はできない。
3) 犬等の同伴の是非
 飲食店その他の施設(ショッピングセンター、行楽地等)では、犬等の同伴を認めている場合とそうでない場合がある。犬等を立入禁止にしている施設で、「保健所の指導」を理由にしている所があるとウェブに出ていた。
 上述の食品衛生法関係の指針等では、ざっとチェックしたところ、犬等については触れられていない。また、保健所の業務をウェブで見た所、捨て犬、捨て猫の処分等はあるが、同伴禁止を指導できる根拠は無さそうだ。捨て犬の処分から連想して、犬等の同伴禁止を勝手に保健所のせいにしたとしか思えない。
4) 私見
 犬の店舗、施設への同伴立入りについては、全く店の管理者側の判断によると思う。安全面、他の客への影響等を踏まえてそれぞれに得失を判断すべきで、保健所の指導などと虚偽の理由を述べるのは論外だ。我が家は犬を飼っているので、同伴を認める店舗が増えるのは嬉しいが、犬を嫌がる人がいるのも十分理解できるので、それに固執する積りは無い。
 料理の持帰りについても、利害得失を総合的に考慮しての飲食店側の判断によるべきで、持帰り禁止にしても構わないが、保健所を口実にするのは論外だ。ただ、私は、料理が残し、捨てられるよりも、持帰りを美徳とする習慣が普及することが望ましいと思う。
(メニューの虚偽表示)
 最近のメニューの虚偽表示については、いろいろなケースがあって一概には言えない。私は概してレストラン側に同情的で、「偽装(私の理解では、悪意をもって意図的に人目を欺くこと)」とまで言うのは酷、また「誤表示」でもいいかと思えるのもあると思う。
 味はどうなのかということが余り報道されていない。違いがあるにしてもわずかだろうから、若干味音痴の私としては基本的に構わない。食材の需給状況の歴史的変化に応じて、消費者のニーズに応えようとして来た供給側の努力を評価したいと思う気持もある。メニューのネーミングによっては美味しさをイメージできて、食事が楽しくなることが多い。虚偽を恐れて無味乾燥なメーミングばかりになると寂しい。