セミフラット型歩道


 最寄駅前のバス通りで、また道路工事が始まり、半年掛りでほぼ終了に近いようだが、どうも変だ。車道上で縁石に向けてアスファルトを「すみ盛り」している(この言葉は私の造語。正しい用語は知らない)。その結果、写真のとおり、バスがそれを避けて中央車線をほぼ跨ぐ感じで走るので、反対車線の車はおっかなびっくりだ。
 この工事は何なのか調べて見た。その結果、障害者、高齢者の歩道上の移動の安全を図る、いわゆるバリアフリー化のための「歩道のセミフラット化」であることが判った。しかし、このバス通りの工事については、甚だ問題が多いと思う。以下、1) セミフラット型歩道、2) 最寄のバス通りの工事の概要、3)問題点、について説明する。
1) セミフラット型歩道とバリアフリー
 歩道と車道とのレベルの高度差の関係から、「マウントアップ型」、「セミフラット型」、「フラット型」の3つが、道路構造の規格として定められている。マウントアップ型は、歩道が車道より15cm高いもの、フラット型は、車道と歩道の高さが同じレベルで、その境界に高さ15cmの境界ブロック(縁石)が置かれるものだ。セミフラット型はその2つの中間で、歩道は車道より5cm高く、その境界には車道から15cm高い境界ブロックが置かれる(以上の高度差の数値は絶対固定ではなく、規格では標準とされている)。
 障害者、高齢者の移動(歩行や車いす)に際し問題となるのは、歩道のうち「車両乗入れ部」(車両が、車道から沿道の建物や車庫へ出入りする際に横断する歩道の部分)が、車道のレベルに合せて斜めに切下げをされる場合である。フラット型の場合は、境界ブロックが切り取られるだけだが、マウントアップ型の場合、車道との差が15cmあるので、歩道の横断面が大きく切り下げられる。このため歩道の縦方向(歩く向き)の高さが大きく変化し、「波打ち歩道」と言われる形状になる。これは車いすや高齢者等にとっては歩きにくく、危険だ。
 このことからマウントアップ型の危険性が指摘され、2006年の「バリアフリー法」(正式には「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」)の制定に合わせ、セミフラット型歩道への転換が推奨されることとなった。「波打ち歩道」の問題だけなら、フラット型の方が段差がなくて理想的に思える。しかし、障害者のうち視力障碍者にとっては、車両乗入れ部上を歩く時も白杖で歩道を確認しているので、車道とのレベル差が無いのは危険だ。これらを考慮して、歩道車道差を5cmとしたとのことだ。ちなみに交差点や横断歩道などで車いすが車道上に進むときに5cmのレベル差は厳しいので、そこは2cmとなっている。*1
 このセミフラット型等については、ウェブ上でたまたま見つけた、大阪市の「歩道における段差及び勾配等に関する基準」が短くて判りやすかった。

 別図は私の拙いイラスト*2だが、上図はマウントアップ型、中図はセミフラット型だ。下図は次項で説明する。フラット型は歩道と車道のレベルが同じもの(境界に15cmのブロックが立つ)だから省略した。

2) 最寄のバス通りの工事
 家の近くの道路工事は、昨2013年10月下旬からスタートし、予定ではこの2月までとされていたが、まだ終っていないようだ。着手前に、発注者である世田谷区が掲示した看板「道路工事のお知らせ」では、延長219メートル(歩道長では両側だから倍になる)、工事費96百万円(税込み)とある(携帯で写真を撮ってある)。
 ほぼ出来上がっている現在の状況を見ると、車道の歩道側の全長に亘って、断面が扁平三角形のアスファルトの「すみ盛り」が続いている(私のイラストの下図を参照)。セミフラットの考え方の車道と歩道との「レベル差が5cm」というのは、車道全面とのレベル差であって、このような車道の端部だけとの差では無かろうと思う。後述するが、これでは排水の問題が生ずると思う。
 もう1つの工事面の問題点は、車道上の雨水枡が、三角断面のすみ盛りの箇所にあることだ。雨水枡は排水用のものだから、車道に置かれるものなら、通常は、縁石に向って緩やかな下り勾配が付く、車道で一番低い縁石沿いに雨水枡は設置される。と私は思い込んでいた。しかし、回りのアスファルトは車道よりレベルが高く、雨水枡はその面だから排水上の問題が出てくるのではないか。
 また、全部の枡ではないが枡の一部がアスファルトの外に出ているものがある。これでは自動車は枡の上を通過しにくい、少なくとも通常の運行では避けるだろう。このため車道の実質的な幅が狭まり、危険だ。その後アスファルトの外に出ているのは流石にパテのように補修したようだが、醜くなっている。

3) 問題点
 今回の工事は、歩道のバリアフリー化という意味では効果があり、障害者、高齢者の福祉には貢献したのであろう。しかし、眼を車道上に転ずると、車の通行、排水の面で大きな問題があるのではないかと思う。
 車の通行面では、前述のように、縁石に向って高くなる「すみ盛り」、かつそれと同程度に盛り上がっている雨水枡は運転手としては避けたい。実際にバスの運転手は、対向車がいないと中央車線を越えて、対向車がいると中央車線ぎりぎりに運転している。
 雨水枡については、車道の高い部分に設置されているので、大雨の時は車道面は水で溢れるのではないか。

 最後に美観の問題がある。写真のように車道部のすみ盛りは醜い。歩道部についても(写真は無いが)、工事前の「波打ち歩道」の「車両乗入れ部」の車道側の「切下げ部分」は、車道側の「すみ盛り」により高くなったレベルに合せて盛土されている。これによりバリアフリーの目的は達成される。しかし、切下げ部への盛土がアスファルトをパテで塗ったように施工されているので、甚だ醜い。
 このバス通りは、弊ブログの「電線地中化」(例えば id:oginos:20130805)で取り上げたように、昨2013年8月に電線地中化工事が完成し、電信柱と空中架線が一掃された道路だ。道路の上方部分は本当に美しくなった。しかし、眼を地面に転じれば、車道も歩道も甚だ醜くなった。誠に残念だ。

*1:移動等円滑化のために必要な道路の構造に関する省令 http://www.mlit.go.jp/barrierfree/transport-bf/shinpou/dourokijyun.pdf

*2:フリーソフトの線画ツール「HamsDraw」を始めて使用した。