電子書籍の欠点(カバーが無い)

 電子書籍については、そのタイトルの記事(id:oginos:20130714)も書いたし、電子書籍で読んだ本の話も何回か紹介している。本稿では、ある意味で私の失敗談、ある意味で現在の電子書籍の問題点を紹介する。それは、実際の書店で販売されている紙の本には、カバー*1 や帯が付されているが、電子版にはそれが書かれていない。更に多くの紙の本の最後に書かれている解説が省かれている場合が多い(私の経験では殆ど)ことだ。
 このカバーには相当の情報が書かれているのに電子版では無いため、私はある本について、その肝心なポイントに気が付かなかったという失敗談を紹介する。
(昨秋に読んでがっかり)
乾くるみ「イニシエーション・ラブ」(文春ウェブ文庫、2007年9月刊) (底本は文春文庫2007年4月刊、単行本は原書房2004年刊)
 たまには電子書籍で恋愛小説を読もうと思って、昨2013年9月に電子書籍で購入した。しかし、どうしてこの本だったのか全く覚えてない。デジタル書店のキャンペーン商品だったのかも知れない。暫く積読してから読んだが、その時の感想は、単に詰らないということだった。こんな本を読んだと言うのも恥かしいとの気持だった。
(書店で山積み)
 ところが、ここ2-3か月、駅前の書店でのベストセラー本のコーナーにこの本が積まれているのを見かけるようになった。あんな詰らない本が何故と思って無視していたが、それでも数日前にふと手に取り、カバーと帯を見て愕然とした。
 帯に、「文庫本として80万冊突破」とあるのにも驚いたが、「驚愕ミステリーとして多数の著名人が絶賛」とある。「ミステリー」というのが私には意表外で、小説中では誰も殺されていない。更にカバーを読むと、

…甘美な…青春小説−−と思いきや、最後から2行目(絶対に先に読まないで!)で、本書は全く違った物語に変貌する。「必ず2回読みたくなる」と絶賛された傑作ミステリー

とある。
 「絶対に先に読まないで」 とあるのに最後を立読みしていると、他人にどう思われるかと気が引ける。しかし、自分は既に読んだ人だと納得して、「最後から2行目」を立読みした。読んだがさっぱり意味が判らない。それで家に帰ってから、不本意ながら、カバーの予告通り、2回目を読んだ。これは「最後から2行目」を読んだからではなく、そもそも何がミステリーかを確かめたかったからだ。
(ミステリーの解読)
 読み返すと何が問題か(最後から2行目が何の意味があるのか)は、流石にすんなりと判った。昨年読んだときは、詰らなくてとにかく読み流していたのだ。更に丁寧に読み返して、ミステリーのトリックも解けた。ネタバレになるので、その中身は省略する*2。謎解きに際し、特定の名前が小説内のどこに出ているかなどを調べるのに、電子書籍の検索機能が大いに役立った。
 ミステリーとしては一応楽しめたが、恋愛小説としては当初の感想と同じくやはり面白くない。
 ちなみに、この本は今相当の人気のようで、Amazonのベストセラー・ランキングでは、「ミステリー・サスペンス・ハードボイルド」部門では1位*3というからすごい。「本」部門全体でも13位だ。文庫本になったのは2007年なのに今では46刷を数えている。
(カバーや解説も付けてほしい)
 この小説のリアル版(紙の本)にはある「解説−再読のお供に−大矢博子」が電子版には無いのが残念だ。再度本屋に行ってこの解説をざっと立読みしたが、小説の舞台である1980年代の風俗、商品を解説するためと称する「用語集」があって便利だ。この中にネタバレにならない範囲で謎解きのヒントが幾つか隠れていて、楽しい。デジタル版では、この解説は無く、ご丁寧に目次からも削られている。
 この小説を楽しむには、カバーの文言で事前に楽しみ*4、解説で事後にも楽しむということが重要だと思う。電子版はリアル版より安いから省いてもいいと思っているのか知れない。それとも、解説の著作権者の了解が取りにくいとか面倒などの事情があるのかも知れない。
 それに加えて、「本は、本文と著者による前書き、後書きが本体であって、カバー、解説はおまけである」との意識があるのかも知れないと推測する。おまけだから電子版では省いてもいい、むしろ、おまけ(不純物)を削って著者執筆の本体に純化させたものを提供し、読者も本体だけで観賞するのが本来の芸術鑑賞のあり方だと考えているのではなかろうか。
 しかし、読者も忙しい。本体だけでじっくり観賞しろと言われてもそんなに暇ではない。紙の本は、ページの早めくりの容易さなど、読み易さの面で電子版よりまだ優れている。同じ本を買っている読者に提供している情報として、これほど差をつけるのは不当だと思う。

*1:ここで「カバー」とは日本語のカバーで、本の表紙、裏表紙をくるんでいる紙を言う。ちなみに、英語のcoverは表紙、裏表紙を指し、日本語のカバーのことはjacket(米国、英国ではwrapper)という。次に出てくる「帯」はwraparound bandとのこと。

*2:ミステリーのトリックとしては、弊ブログでも紹介した中町信「模倣の殺意」 id:oginos:20130811 に似ている。

*3:2014/4/10 にアクセス。 http://www.amazon.co.jp/gp/bestsellers/books/507216/ref=pd_zg_hrsr_b_2_3_last

*4:帯の宣伝文句もあっていいのではないか。