生前退位(その3)

 「天皇陛下の退位を巡る政府の有識者会議」で座長代理を務める御厨貴東大名誉教授への日本経済新聞のインタビューが12月24日の同紙に掲載されていた。この有識者会議は、12月14日に会議を開き、来年1月に論点整理を行うと伝えられている。同会議では、生前退位の恒久化は避けて、今上天皇に限り認める特例法が望ましいとの方針であると報道されていた。私は特例法について以前は否定的に思っていたが(後述)、このインタビューを読んで考え直した。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS23H0F_T21C16A2PE8000/?n_cid=NMAIL003 
 このウェブの記事には出ていないが、紙上では、「御厨氏の発言のポイント」というコラムがあって、ほぼ次のように整理されている。

  • 有識者会議のメンバーでは退位に否定的な意見はない。
  • 退位を恒久的な制度とするには客観的な要件の設定が困難。従って特例法。退位ができるとの先例を作ることで、将来の問題にも柔軟に対応できる。
  • 特例法でも違憲性は生じない。
  • 女性、女系天皇女性宮家の問題は、第2段階で腰を据えて取り組む。

 特例法についてかねて私が考えていたことは、次の通りだ。
a) 特例法の制定に当っては、どうしてもその時の天皇の意向を(内々にでも)聞く必要があろう。その際、天皇によっては、退位のための立法化の膨大な手間を考慮されて退位を辞退されることがあるのではないか。その結果、認知症天皇などの悲惨な状況が生ずるかも知れない。
b) 8月の天皇のお言葉の趣旨から見て、自分のためだけにわざわざ特別法ということに違和感を覚えられるのではないか。
c) 皇位継承を「皇室典範の定めるところによる」と規定している憲法との関係で問題ではないか。
d) 特例法の制定というのは、そもそも生前退位に反対だが、今上天皇のお言葉もあり、当座しのぎで行きたいということではないか。

 ところが、今回の御厨貴座長代理のインタビューを読んで、少し見方を変えた。

 今回は特例法だが、実現すればこれが先例になる。これでおしまいではない。将来、今の陛下と違う状況で退位の問題が生じることもあるだろうが、特例法でやれるという先例があれば柔軟に対応できるのではないか。

 将来の別の状況も想定し、今回が先例になることを強調している点が目新しい(少なくとも私にとっては)。ということは、将来の生前退位を想定していて、かつ、その条件が現在とは違う可能性も考えているということだ。それなら、現時点でもっと生前退位に幅をもたせた要件を考えればいいと思うが、それが現時点では書きにくいということだと理解した。
 将来、退位の可能性が想定されるが、現時点ではその要件を規定しづらい状況とは何か。あえて不敬を承知の上で述べると、将来の皇后及びその子女の精神的変調の可能性ではないかと思う。いくら天皇は存在だけに意味があるといっても、妻女がそのような状況では、今上天皇がおっしゃる象徴天皇としての務めに影響が出るのではなかろうか。無理な務めをされるよりも、退位された方が、家族の平穏を確保できるのではなかろうか。問題が露わになる前に、弟宮系統への皇位の継承を円滑化し、象徴的行為の継続を図ることが今上の思いに叶うのではなかろうかとの想像である。
 ところで、これは悪くない選択だと私は思う。ただし、天皇制の永続を願っているからではない。今のように、国民の通念から離れた権威付けを図っていては、天皇制は、遅かれ早かれ国民から離れていくと思う。一部の人が真剣に崇めるが、大半の人には意義が理解できない、神社みたいなものになるのではないか。天皇制と国民との関係はともかく、天皇に退位が許されない硬直的な制度になれば、次期天皇家に悲劇が起こるのではないかと危惧するからである。

(専門家ヒヤリング)
 「有識者会議」は、さる11月に、計16人の専門家からヒヤリングを行ったとして、12月1日の新聞でその概要が詳細に報道された(以下は12月1日の日経新聞による)。これについて少しコメントする。
 退位容認派が9人(うち特例法が5人、恒久法が4人)、退位反対派(摂政等で対応)が7人という結果だ。私が驚いたのは、退位反対派が7人もいたことだ。何れも熱心な天皇制及び天皇を崇拝している人達のようだが、天皇のお言葉に公然と異議を唱えるというのは不敬罪に当るのではないか。自分の理想の中にある天皇という観念を述べているだけで、天皇本人の考えを無視するのは理解できない。明治以来高々百数十年の歴史しかない皇室典範墨守しようとしているだけのようだ。
 今回の御厨氏のインタビューには、論理に少し強引なところもあるとの印象だったが、上記のような暴論の専門家がいては、ある程度しょうがないかと思う。