城端曳山祭

 昨2016年12月1日に文化庁は、ユネスコ無形文化遺産に日本の18府県計33件の「山・鉾・屋台行事」が登録されたと発表した。
http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/2016120101.html 
 33件のリストは次。 http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/2016120101_besshi02.pdf
 その33件の1つに、富山県の「城端(じょうはな)曳山祭」(南砺(なんと)市)があり、今年はさる5月4-5日に開催された。現地の縁者(姪)に誘われて観に行ってきた。以下、1) 今回指定された「山・鉾・屋台行事」とは、2)城端と私との関係、3)城端曳山祭(他の富山県の曳山祭も紹介)、ついでに乗った4)JR城端線の観光列車「ベル・モンターニュ・エ・メール」について説明する。

1) ユネスコ無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」とは
 「無形文化遺産」とは、「世界遺産」(1972年の世界遺産条約*1に基づく)とは別に、2003年に採択された「無形文化遺産保護条約」に基づいて、ユネスコの同リストに登録されたものだ。なお、ユネスコではこの有形、無形の遺産に加え、書物や文書を「世界の記憶(世界記録遺産)」として保護するプログラムを1992年より立ち上げている。また、「無形文化遺産」に正式には「世界」の語は含まれていないが(Intangible Cultural Heritage)、通称「世界文化遺産」と呼ばれることが多く、かつ判りやすい。遺産全般の説明は省略して、今回の「山・鉾・屋台行事」を概説する。
1-1) 「山・鉾・屋台行事」への違和感
 先ず「山・鉾・屋台行事」の言葉に違和感がある。a)山、鉾、屋台とは何か、b)「行事」とは、「屋台」だけに係るのか、「山、鉾、屋台」の全てに係るのか、c)英語では何というか。
a) 山、鉾、屋台
 広辞苑では、「山」の見出しに15個の意味が挙げられている。そのうち14番の「だんじり」、15番の「山鉾」が該当している。「だんじり」は、関西、西日本でのもので、東京地方の山車(だし)に相当するとある。「山鉾」は、京都の祇園の山鉾が有名だが、単なる「鉾」でもいいらしい。次の「屋台」は、私としてはソバやおでんを路上で食べさせてくれる店をもっぱら考えてしまうが、祭礼で練り歩く山車などの類も指すとある。推測するに、リストアップされた33件をまとめるための造語であろう。だが、3つの単語は意味の重複があり、それらの関係はすっきりしない。
b) 行事とは
 冒頭の文化庁の報道発表中の「概要」では、「山・鉾・屋台行事」と「山・鉾・屋台」とが、また「屋台」と「屋台行事」とが、微妙に使い分けられている。ということは、「行事」は「山・鉾・屋台」の全てに係るのだろう。
c) 英語では
 文化庁の報道発表には、ユネスコの決定文が掲載されており、それには「Yama, Hoko, Yatai, float festivals in Japan」とされている。知らなかったが、リーダーズ英和辞書を見ると、floatには、「(パレード用の)山車、台車、屋台」の意味が出ていて納得。「山、鉾、屋台」は流石に日本語そのままだ。
1-2) 何故33件か
 この疑問には2つ意味があり、第1は、33件もあってはユネスコ遺産の有難味が薄れないか、第2は逆に、33件だけでいいのかということだ。
 前者については、ユネスコは同種案件の一括登録を推奨しているとの見方がある。よく理解できないところがあるが、類似事例が多くあるからこそ独自文化との見方もあるらしい(「提案されなかった「山・鉾・屋台行事」―今後に向けての期待―」(福原敏男)より*2 )。
 後者については、他に類似のものが沢山あるだろうになぜ33件かということだ。前述の福原敏男のウェブ記事によれば、今回の日本からの推薦は、「国指定重要無形民俗文化財であること、…保護団体が「全国山・鉾・屋台保存連合会」の正会員であること(会費納入義務負担)の2点が前提とされた」とのことだ。「伝承継続のために、しっかりした保護団体」があること」が条件だった。全国には他に多数の山・鉾・屋台行事があるが、余り最初から多数というのにも遠慮があったようだ。今後、100件程度に増やすべきとの意見も紹介されている。後述するが、私の故郷にも立派な曳山祭があり、登録されなかったのは残念だ。

2) 城端と私との関係
 城端(じょうはな)は、同じ富山県内というだけでなく、私の姉(6年前に死亡)が嫁いだ先ということで、小さいときはよく行っていた。ローカルな話になるが、我が家の高岡市伏木(ふしき)地区と城端とは、富山県の西半分のうち、それぞれ北部(富山湾沿い)と南部(岐阜県に隣する山沿い)とに位置する。鉄道では、伏木からJR氷見(ひみ)線で南下して高岡に出るのに15分、高岡からJR城端線で約1時間更に南下すると城端だ。城端は以前は城端町という単独の地方自治体だったが、2004年の平成の大合併で、近隣の8町村が合併して「南砺(なんと)市」という奇妙(?)な名前になった。北隣の「砺波(となみ)市」の南という意味だ。*3
 8町村の合併ということで、南砺市の面積は669平方kmと東京都区部の619平方kmを上回る。もっとも人口は、2017年3月末の住民基本台帳ベースで、52,242人と少ない(2004年の合併時から6,988人の減少)。そのうち城端地区は8,573人だ。*4
 城端は、1573年に開町したとされ、「越中の小京都」と呼ばれる、古い街並みが残るきれいな町だ。

3) 城端神明宮祭の曳山祭り(無形文化遺産)
 城端の曳山祭りは1710年代に始まったとされる。毎年5月に開催され、近年は5月4-5日だ。獅子舞など各種の出し物があるが、メインは、城端地域内主要6町がそれぞれ所有する6基の曳山と庵(いおり)屋台(後述)だ。
 曳山は、高さ6m前後で花笠の下に御神像(恵比寿他)、からくり人形等が配される。夜は提灯山となるが、周りを無数の提灯で囲うよく見られるものではなく、手持ち提灯を適宜周囲にぶら下げる形でユニークだ。
 庵屋台は城端曳山の最大の特徴で、6基の曳山のそれぞれに付随し、先導して進む。高さ3m、長さ3m、幅2m弱程度で、下部の幕の中には6-8人の人間が入って歩く。役目は各町家の要望(「所望」という)に応じてその家の前で庵屋台を停め、庵歌(いおりうた)を歌うことだ。昼から夜にかけて、所望する家の前で庵歌を詠ずるなどして優雅に練り歩く。*5
 画像は例えば、 http://www.city.nanto.toyama.jp/cms-sypher/www/info/detail.jsp%3Fid%3D10682 
 youtubeは例えば、 https://www.youtube.com/watch?v=XqZSVB5OtEE
 以上は今回改めて調べたことで、実際に観るのは、子供の時以来で約60年ぶりだ。夕方に着いて、昼の山から提灯山への模様替えなどを観た。過疎化が進む町で大変な人出だ。ユネスコ登録の威力は大きい。昨年の人出より多かったと翌朝の新聞で報道されていた。
 私が撮った下手な写真を何枚か載せる。第1は昼の山、2番目は夕方で、夜用の提灯をぶら下げる作業をしている。3番目は夜の山の様子。4番目は少し幻想的に撮れたかと思ったもの。
 
 
 夜にまた一通り観てから、姪の家で他の招客達(兄他)と懇談していたら、10時頃にまた観に行かないかと姪たち(2人)に誘われた。曳山が街の巡行路の末でUターンし(というか、引返しのための180度の転回)、それぞれ自分の町の山倉に帰るのだという。観にいくと、Uターンは大勢の曳手が力づくで山を回転させる。この時などに車輪がきしみギューと大きな音を出すので「ぎゅう山」との別名があるとのこと。町の山倉までゆっくり帰るのを皆と一緒に付いて行った。城端で生まれ育った姪2人は60代なのに、山の後ろに付いて歩いているだけでにこにこして幸せそうだった。同じように街を歩く人たちも嬉しそうな顔だ。夜の11時過ぎまで幻想的な眺めが続いた。
 写真は、姪の家で出された城端料理。自分で摘んだ山菜も多い。懐かしい味で美味しかった。
 
 面白かったのは、女性は曳手になれず、山にも乗れないとのこと。姪が小さい頃山に触ったらすごく怒られたらしい。東京の祭では女性も神輿など担ぐようになったと言ったら、今のままでいいとニコニコしている。皇室で女性宮家が認められるようになったら、城端も変るかも知れないという。
(富山県内の他の曳山祭り)
 ユネスコの上記33件の無形文化遺産には、富山県のものとして、城端に加え、高岡の「御車山(みくるまやま)祭」、魚津(うおず)の「タテモン行事」と計3件登録されている。しかし、この他にも県内に曳山祭は多い。前述した福原敏男の記事にも、射水市新湊の曳山、南砺市福野の夜高祭が出ている。特に新湊の山は2016年1月公開の映画「人生の約束」(主演 竹野内豊、江川洋介など)の主題だった(http://www.jinsei-no-yakusoku.jp/ )。他にも曳山祭りを行っている町が、富山県には多数ある。「日本の曳山祭」(http://www.sit-tokyo.net/hikiyama/frame/frame3_info.html) というウェブページによれば富山県には23件がリストされている(http://www.sit-tokyo.net/hikiyama/chubu/toyama_01.html )。
 特筆したいのが、私の故郷、高岡市伏木の「けんか山」だ。毎年5月15日に、7基の山車が町を練り歩く。1813年に開始されたとのこと。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%8F%E6%9C%A8%E6%9B%B3%E5%B1%B1%E7%A5%AD
 山車は高さ約8mで、ぶつけ合うための付け長手を前後に備え、長さは10m以上となる。昼は、花笠の下に7基それぞれに七福神のご神体を置き、囃子方が乗り込む。夜は周りを計約360個の提灯で囲む「提灯山」となる。夜の提灯山がお互いにぶつけ合うけんか山の舞台だ。
 youtubeはいろいろあるが、1日の模様を4分にまとめたのが次。https://www.youtube.com/watch?v=r4CM97UL_zQ
 山鹿流の陣太鼓に乗せて、誠に勇壮だ。この動画を見ると今でも血が騒ぐ。私は子供の頃、高岡や城端の山車は、ぶつけ合いをせずに静かに進むだけなので意義が判らず、内心馬鹿にしていた。しかし、世の中では伏木の山はあまり注目されない。最近たまたま目を通した、JR東日本の「大人の休日倶楽部」の会員向け機関誌「旅マガジン」の2017年4月号に、「高岡伏木けんか山、他を楽しむ」というツアーが掲載されていて(コースNo B5034)、嬉しくなった。5月15日出発なのでまだ余裕があるかも知れない。
 もう1点。近年女性の曳手も可能になったとのことだ(ぶつけ合いの時は駄目)。城端も変るかも知れない。

4) 「ベル・モンターニュ・エ・メール」
 時刻表で時間を調べていたらJR城端線で運行されている特別車両を発見した。城端線氷見線で2015年10月から運行が始まった。フランス語の「Belles Montagne et Mer (美しい山と海)」で、山に近づく城端線と海沿いの氷見線とをつなぐ。名称としてはしゃれているが、少し長い。略称は「ベルモンタ」(ケチャップの「デルモンテ」と紛らわしい)。ウェブは、https://www.jr-odekake.net/navi/kankou/berumonta/ 
 1両編成、定員39名の気動車*6で、運行も、土曜日に城端線2往復、日曜日に氷見線2往復とやや寂しい。城端線氷見線の直通も無いので、名称の「山と海」が泣く。
 城端曳山祭の翌5月6日が土曜日だったので、城端から新幹線乗換駅の「新高岡」まで予約して乗った。乗車券580円に指定席券520円を加えて1,100円、約40分の行程だ。実は、JR西日本の切符をJR東日本管内の東京で予約、購入するのは面倒だ。結局JR西日本に電話で予約し、3日前までにもう1回西日本に電話してクレジット払いをし、発券は新高岡駅となった(城端駅はみどりの窓口が無いので駄目)。JR西日本の電話の人は知らなかったが、予約を最初から駅ねっと(JR東日本が運営)ですればJR東日本の駅で発券できると、後でJR東日本の駅の人が言っていた。本当にJRの分社化は面倒だ。
 乗車体験を幾つか記録。

  • 車両はまあまあよかった。展望のいい大きな窓際のベンチ席を予約したが、くもり空で立山連峰が見られず残念。乗車率は半分ぐらい。
  • 地元のボランティアの人が車内でずっと説明してくれた。内容は面白くなかったが、まあ楽しかった。南砺市内の各駅のホームで、ボランティアの人が歓迎の垂れ幕を掲げてくれていたので恐縮。田んぼのあぜ道に10人ほど並んで手を振ってくれていたのには、「七つ星」などの豪華列車に乗っているような気分になって、やや照れた。
  • すし職人が乗車していたのにはびっくり。ただメニューはパンフに掲載されている「ぷち富山湾鮨セット」のみで、個別の注文に応じてはくれなさそう。この鮨セットは鮨5貫とペット茶で2000円と高い。しかし、ベルモンタに乗車した高揚感のせいか、衝動的に注文してしまった。美味しかった。

 写真は、車両の正面、田んぼで手を振る人たち、2,000円の鮨セット。
 

(観光列車のいろいろ)
 JR九州の「ななつ星」(2013年10月運行開始)、この5月1日から運行が始まったJR東日本の「四季島」、6月17日運行開始予定のJR西日本の「瑞風」など、最近JR各社で豪華な観光列車が登場している。ちなみに、これらの数泊の旅を提供する豪華列車は「クルーズトレイン」と呼ぶ。日帰り用のものは「観光列車」らしい。たまたま買った雑誌「日経トレンディ」の2017年6月号の記事「極上の鉄道旅」で、上記の豪華クルーズトレインの他に、日帰り用の観光列車が11本紹介されている。昨年から今年にかけて運行開始されたものが中心ということで、城端氷見線の「ベルモンタ」は少し早すぎたせいか掲載されていない。
 この記事によれば、観光列車の3要素は、景色、車両、食事ということだ。ベルモンタは、程度はともかく、この3つを一応カバーしていると微笑ましく感じた。

*1:日本は1992年に締約国に。

*2:http://www.isan-no-sekai.jp/feature/201701_08

*3:富山県には、高岡は別として、割に難読の地名が多いということに気が付いた。

*4:https://www.city.nanto.toyama.jp/cms-sypher/www/info/detail.jsp?id=16978 https://www.city.nanto.toyama.jp/cms-sypher/open_imgs/info/0000056646.pdf

*5:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9F%8E%E7%AB%AF%E6%9B%B3%E5%B1%B1%E7%A5%AD#.E4.B8.BB.E3.81.AA.E6.97.A5.E7.A8.8B

*6:このような観光用の車両を観光列車というのには抵抗がある。電車とは呼べないが、「列車」にも抵抗がある。「列車」とは車両の連なりで、1両のみの編成は当らないのではないか。気動車ないしジーゼル車が正確だが、「観光気動車」では旅情がない。英語でも、trainは2両以上の編成をいうようで、個々の車両は、coach、car、carriageというらしい(ジーニアス英和)。