在位30年(おことば)

 2019年2月24日に今上天皇の在位30年記念式典が行われた。本当にめでたい。その際の陛下のおことばに関し感じたことを述べる。全文は宮内庁のホームページに出ている。

(30年記念式典おことば)

http://www.kunaicho.go.jp/page/okotoba/detail/42#152

(英文) http://www.kunaicho.go.jp/page/okotoba/detailEn/42#152

  • 皇后が天皇の原稿読み間違いを正した。2-30年前までならバッシングされたであろう。何故なら、天皇のミスを公の前で明らかにしてはいけない、天皇の言動は常に完璧であるべき(綸言汗のごとし)。仮に間違いがあれば、正しい文書を後で配布しておけばいい。
     そのことは多分皇后も判っていたであろう。しかし、このおことばは、天皇が自分でいろいろ考え、長時間かけて作られた。それを知っている皇后は、それが天皇の口から間違って発語されたとすれば、天皇自身が耐えられなくなると思われたのだろう。それであえて訂正されたに違いない。
     このことがバッシングされなかったことで、日本人の皇室観も進んだと思う。
  • 地球温暖化という言葉を使わずに、「世界は気候変動の周期に入り」と言われた。地球温暖化というと、「人間活動による炭酸ガスの増加の影響」を含意している。これに対し、陛下は科学的でないという疑念を持たれているのではないかと推測した。
  • 文体に整理されていないところがあると感じた。想像するに、陛下の原案に異論ないし婉曲化を求める声があり、それに応えて修文していく間に文体が少しおかしくなったのではと思う。それだけ真剣に書かれたのだろう。以下、文体に違和感を感じた例。
  • 「私がこれまで 果たすべき務めを果たしてこられたのは、その統合の象徴であることに、誇りと喜びを持つことができるこの国の人々の存在・・・のおかげでした」 
     構文として理解しにくいが、読み返していて気がついた。そうか、「持つことができる」の主語は陛下ご自身で、英語で言うと、複雑な関係詞構文だ。
     宮内庁の英語版を見ると、該当部分は、
    I have been able to fulfill my duties thanks to the people of Japan, whose symbol of unity I take pride and joy in being,
     私の英語力の拙さもあって、依然として判りにくい。次のようにすると、私にも理解できやすい*1。正しいかどうか自信はないが。
    I have been able to fulfill my duties thanks to the people of Japan, having pride and joy in being the symbol of their unity ,
  • (災害に関し)「少なからぬ関心を寄せられた諸外国の方々」 (「多大の関心」でどうか)
  • 「島国として比較的恵まれた形で独自の文化を育ててきたわが国」 (独自であることに誇りを持っていらっしゃるのか。「比較的恵まれた形」も屈折した表現。)
  • グローバル化する世界の中で、さらに外に向って開かれ、その中で叡智を持って自らの立場を確立し、誠意を持って他国との関係を構築していくこと」 (「自らの立場の確立」とは具体的にはどういうことか。今は誰も判らないことをあえておっしゃてるとの印象)
  • 「象徴としての天皇像を模索する道は果てしなく遠く、・・・次の時代、さらに次の時代と象徴のあるべき姿を求め、先立つこの時代の象徴像を補い続けて行ってくれることを願う」 (「象徴」に関しこれほど自分の主張をはっきり述べられるとはびっくり。次の世代への宿題も明示された。)

 余談だが、書名に全く同感して、次の本を衝動買いしたので、少し感想を紹介する。

〇 矢部万紀子「美智子さまという奇跡」 (幻冬舎新書、2019年1月29日発行)

 書名はいいが、内容に深みは感じられなかった。また著者は、朝日新聞で週刊誌の編集などをやったというのに、僭越ながら、文体が少し稚拙と思う。面白くもない脱線が多い(具体例は略)。

 雅子妃、紀子妃などにも触れている。秋篠宮家の眞子さまも登場する。現在の皇室は問題山積だ。各皇族の多様性を認めていかないと、皇室の明日はないという。もっともと思うが実現不可能ではないか。認める多様性の例は、意義が不明な皇室祭祀への強制的参加の免除、金銭的スキャンダルを抱えた家族との結婚だ。その他今後、精神疾患を抱える皇族が出る可能性があろう。

*1:symbol of unityも修正ポイントの1つ