ポスト菅・小考

 昨9日(土)から東京は梅雨明けしたとのことで、今日も35度で暑い。「夏来たりなば秋遠からじ」との希望をもってあと2か月ほど我慢しなければならないが、外を歩くと疲れる。
 先週、たまたま東北大学の人と話をする機会があり、東北大の総長選の話題になった。7月初に公示があり、投票がこの22日の予定で、今5人の候補者が出ているとのことだ。この東北大の総長選というのは実は複雑で、22日の教職員による投票を参考にして、正式には総長選考会議なる組織が決めるものらしい。その後、東北大学のホームページを見てみたが、総長選にまつわる資料は学内限りとされていて部外者には読めない。22日の投票ということでさえ公開のウェブ上では見当たらない。
 東北大学以外の各国立大学での総長選出の方法も、ウェブで見ていると興味深いが、それとは別に、今日の話題は、そのように選ばれた次期総長の任期の開始時点だ。先ほどの人に尋ねたところ、次期総長の決定は、7月下旬の投票の後に開かれる総長選考会議(何時かは知らない)だが、新総長の任期は明年4月にスタートし、それまでは現総長が務めるとのことだ。相当の長期間なのでびっくり。
 調べると、東京大学の浜田現総長も、選出は2008年11月27日、就任は翌2009年4月1日だった。考えてみると、米国大統領も4年ごとの11月初めの大統領選(11月の第1月曜の翌日の火曜日)に実質的に決定した後、翌年1月20日(就任式パレードが有名)に任期が開始するので、2か月半強の間隔がある。何れも決定から就任までの間に相当の準備期間がある。
 話は本題に入るが、菅首相の人気が甚だ悪く、与野党含めた周囲が早く退陣してほしいとしているが、本人は何故か居座ろうとしていて、日本の政治が非常に混乱している。そのため、緊急な実施が必要な震災復興対策が進まないと言われている。私もこのような政局の混乱は好ましいことと思わないが、このようにこじれていて、かつポスト菅の後継者が全く定まっていない状況を見ると、早急な退陣が最初にありきではなく、ポスト菅体制をじっくり選ぶことを考える方が必要ではないかと思うようになってきた。
 視点は、1)政権の支配の正統性と2)政策遂行の準備期間の確保だ。
1) 支配の正統性(legitimacy)
 仮に菅首相が退陣表明すれば、従来の例から見ると短期間で後継者を選出しなければならない。具体的には、a)話合いでの調整か、b)民主党内の代表選挙(選挙期間が短くなる)かだ。この他、自民党に政権を渡すか、与野党大連立ということも考えられるが、誰が首相になるかという面に限ると、a)の話合いに含まれる。
 このように選出までの期間が短い場合、国民の納得が得られた結果の選択ではないため、支配の正統性(legitimacy)*1に疑問が生じ、政権が安定しないと思う。米国大統領の強力なリーダーシップは、選挙年に入って直ぐの各州の予備選挙から始まる長期の選挙戦の結果から生まれるものだ。
 しかし、日本の場合の政党内のややクローズドかつ短期間の選挙の場合、選ばれたリーダーは国民全般に対する支配の正統性に自信が持てない。また、(密室内の)話合いによる調整の場合は、調整に参加したメンバーは、政権発足後も陰に陽に影響力を持つので、リーダーシップの発揮は一層期待できない。
2) 準備期間
 次の首相が上記の手続きで実質的に決定した後、日本の場合は直ちに国会で首班指名を行い、その後速やかに新内閣が組織される。問題は準備期間が無いことである。私はかねがね、自民党時代であっても党総裁選後にそれほどの期間を置かずに、首班指名、組閣と進められるのが不思議だった。新政権が何をするか、どのように実行するか、閣僚をどうするかなどに、もっと時間をかけてしかるべきではないかということだ。
 2009年8月30日の衆議院選での民主党の大勝の後、半月後の9月16日には鳩山内閣の組閣があった。何をするかについては、選挙戦前にマニフェストを作っていたから明確であったとの議論があるが、どのようにするかについてまで詰められていたとは思えない。その後の民主党政権の混迷ぶりは、この準備期間の短さにも一因があったと思う。
3) 私案
 やや暴論的な私案であるが、ポスト菅については、選出に例えば約2か月、選出後準備に例えば約2か月ということを決めて、菅首相が退陣表明をするというのはどうであろうか。退陣表明した首相はレームダックになって何もできないと言われるが、多くの大学や米国では、移行期間であっても大半の行政はスムーズに動いている。現下でもっとも緊急かつリーダーシップが必要と言われる震災復興対策についても、そのうち主なものは各行政機関等*2が実施する対策であって、緊急な政治的判断が必要なものは各行政機関間の調整であると思う。この調整は膨大な数に昇るが、その大半は行政的な調整であり、トップの判断は必要であるものの、誰がトップであっても判断内容にそれ程の違いは出ず、ただ緊急性だけが問われるものであると思う。
 誤解を恐れずに言うと、復興対策のうちの本格部分は、住民間の権利調整とコンセンサスの形成、それから多額を要する国費による支援であると思う。これらは拙速は望ましくなく、種々の検討作業を進めていく必要はあるが、今年内には結論が出せないもの多いことを認識しておくことが必要であると思う。
 退陣表明した菅首相にもせねばならない仕事が沢山ある。レームダック化による政治停滞の恐れよりも、正統性に自信の無いリーダーが準備不足のまま首相になって再度混乱が発生する方が問題であると考える。
 10月中旬に民主党の代表選、12月に新政権ということを決めて、7月中に退陣表明というのは如何であろうか。
 

*1:マックスウェーバーによれば、政治権力が、他者の尊敬と自発的な服従を得られるような「支配の正統性」には、「伝統」、「カリスマ」、「合法」の3類型があり、近代社会における「合法的支配」は、ルールや手続きに依存するとされている。これは国家体制の類型であるが、私の考えでは、指導者の正統性も類推できるのではなかろうか。すなわち、指導者の選任の際の選挙という手続きは、候補者及び政策に関する諸々の選択肢が有権者に提示され、有権者が十分な期間をもってこれらを比較検討し、他にベターな選択肢が多分無いだろうと思い、納得するようになる手続きであろう。これが選出された指導者のlegitimacyの基であり、これによって始めて強力なリーダーシップを発揮できるのだと思う。

*2:「等」には地方自治体、東京電力等が含まれる。