電線共同溝

 先週11日に、私の最寄駅前からのバス通り(計画は200メートルの区間)の電線共同溝工事が終った。共同溝工事の内容は後で説明するが、終ったという意味は、工事現場の立看板に書かれていた期限の11日が過ぎ、工事の機材も整理されたという意味だ。工事の目的は電柱上に架かる電線を地中化して電柱を無くすることで、工事によりどのように風景が変ったかを次の2枚の写真で紹介する。
 工事期間中の6月3日(その時の工事場所は離れていたので、写真には写っていない)と終了後の7月13日の同じ場所の写真だ。ご覧のとおり、電柱は無くなったようには見えない。後述するが、何時電柱が無くなるか不明だ。この経緯について以下、1)共同溝の種類(解説)、2)今回の工事内容、3)日本の電線共同溝の進捗状況に分けて説明していく。
1) 共同溝の種類
 「共同溝」とは「共同溝の整備等に関する特別措置法(1963年法律第81号)2条5項」に定義されており、それによれば、「2以上の公益事業者の公益物件(注、大まかに言って、電気、通信、ガス、上下水道など)を収容するため道路管理者が道路の地下に設ける施設」である。ガスや水道が入る共同溝は大きな地下トンネルのイメージで、保守のために人間が歩くことができる。このような大きな共同溝の他に、電気、通信といった電線類を地下に収納して電柱を無くするために、「電線共同溝の整備等に関する特別措置法(1995年法律第39)」が制定された。電線類の地中化方式として、かつて、「CAB(ケーブルボックス)」が喧伝され、私も聞いたことがあるが、1996年以降は、「C.C.Box」(電線共同溝)*1に転じている。CABは、蓋掛けU型溝を共同溝の全長に設置し、その中に電線を設置するので、保守が容易だが、U型溝の幅を確保するために3.5m-4m程度以上の道路幅が必要とされる。C.C.BOXの方は、電線は共同の筒に入れて地中に埋め込み、電線の各ユーザーへの引込み等の部分だけ蓋掛けU字型溝とするので、必要とする道路幅は、2.5m程度でいいとされ、狭い道路にも可能ということで、1996年以降は、CABに替りもっぱらこの方式が推進されているとのことだ。
 右の写真は、今度のC.C.BOXの蓋掛けU字型溝の歩道上に現れている蓋部分。

2) 近所の電線共同溝工事
 工事現場に掲示されていた立看板によれば、工事件名は「電線地中化共同溝整備工事」、工事期間は「2010年9月から2011年5月(最終的には変更されて7月11日)」、発注者は「東京都世田谷区」で、請負を受けた施行者の名前、連絡先も掲示されている。図示された工事場所は、駅前交差点から始まるバス通りの車道の両側にある歩道部分でそれぞれ延長200mだ。丁寧なことに、請負金額も掲示板に書かれており、95,445千円(内消費税4,545千円)。
 工事期間内に電柱が無くなる気配が見られないので*2、立看板に電話番号が記載されていた、発注者の世田谷区土木事業担当部に電話してみた(6月中旬)。担当者の話は明解で、「世田谷区は共同溝の工事だけを行っており、電柱の電線を共同溝に移設して電柱を撤去するのは、東京電力、NTT、ケーブルテレビ事業者等の電線事業者で、その予定は承知していない」ということだった。また、街灯や信号機、道路標識用の柱は無くならないとのことで、道路上の全ての柱が無くなる訳ではないとのこと。別途、家への帰り道で工事中だった時、監督らしい若い人を捕まえ、立話をしたことがあるが、やはり電線事業者の今後の予定は承知していないとのことだった。
 考えてみると、電線を地中に移すには、a)道路沿いの各ユーザーへの引込みを電柱から地中に切り替える工事、b)共同溝と直角方向の道路やc)工事区間の端から以降の道路に残っている電柱からの接続を地中に切り替える工事をしなければいけなくて、相当大変そうだ。何時始めるかは電線事業者に任されているように見える。
 今回更に問題に見えることは、掲示板に図示されている200メートルの区間のうち端の方の交差点をまたぐ30m程度の部分については、未だ工事がされていないことだ。先ほどの現場の監督に聞いた時も、別の業者がそのうち発注を受けてやるのでしょうと他人事だ。これを聞いて心配になったのは、200mのうち約170mの共同溝が完成したのだが、電力などの電線事業者は、170mが地中化された今時点で移設工事をすると、今後、残りの30mの共同溝が完成した時点で再度移設工事と接続工事をしなければならなくなる。30m部分ができるまでは現在の170m部分の移設工事をしないのではないかという可能性が危惧される*3
3)日本の電線共同溝の進捗状況
 以上のように、私の近所の電柱が何時無くなるかの目途は得られていない。ところで、電線共同溝は、国土交通省のHPやWikipedia等で調べると、無電柱化という政策目的を掲げて長い歴史を持っている。すなわち、1986年度からの3期にわたる「電線類地中化計画」と「新電線類地中化計画」、さらに2004年4月に策定された「無電柱化推進計画」(2004年度から2008年度)に基づき、2008年度までに全国で約7,700kmが整備された*4。 2009年度からは、このような計画は作成されず、代りに国土交通省で「無電柱化に係るガイドライン」が作成され、無電柱化政策は一応推進されているとある(国土交通省HP)。
 日本の電線地中化道路が2008年度で7,700㎞にも達しているとは知らなかった。市街地の道路全体に占める比率は、全国で2%、東京23区内で7%に達しているが、ロンドン、パリ等の100%から見るとまだまだ遅れているとされている(http://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/chicyuka/genjo_01.htm)。
 しかし、電線地中化については、無電柱化のメリット(景観面等)はあるものの、建設費が高価であるなど問題も指摘されている。Wikipediaの「電線類地中化」の項(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E7%B7%9A%E9%A1%9E%E5%9C%B0%E4%B8%AD%E5%8C%96)を見ると、地中化のメリットは5項目だが、「地中化のデメリット・課題」として12項目も掲げられている。更に「よくある誤解」として、電線地中化が無条件にいいとは言えないとの視点を5項目挙げている。これを読むと、無電柱化による景観面の改善等に無条件に賛成と思えなくなる。東日本大震災に関連して、災害対策の観点からの得失を紹介する。地中化された電線は、電柱上の電線に比べて耐震性は向上する(1995年の阪神大震災では、震度7の地域で電柱の停電率は10.3%、地中線は4.7%)。しかし、被災した場合の復旧には、地中線の方は地面の掘返し等が必要で遅くなる。電柱が無いから応急の電線を張る場所も無かったとのことだ*5
 このような事情もあって、国土交通省の電線類地中化計画は、2009年度から策定できなくなったのかと思われる。
 それにしても、私の近所の共同溝には、折角95百万円も掛けた訳だから、早く電線が収納され、電柱が撤去されてほしいと思う。

*1:「C.C.」には、Communication(通信)、Community(地域、共同)、Compact(小型)、 Cable(電線)の意味が込められている。

*2:詳細に観察すると、写真の道路の手前側の歩道部分にあった電柱の一部は既に撤去されていることを付言する。

*3:立看板では修正されなかったが、ひょっとしたら30m部分の共同溝は取止めになったのかも知れない。

*4:国土交通省HP、http://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/chicyuka/index.html

*5:阪神大震災当時の地中線は、上述の大型共同溝かCAB(全長にわたって蓋付きU型溝に収納)であったが、翌1996年からC.C.BOXになっている。この場合、耐震性が下り、復旧もより難しくなるのではないかと思料する。