2022年の読書メーターまとめ

今まで読書メーター(読書感想文のアプリ)に時々感想文を書いてきた。1記事が256文字上限なので、書きたいときには物足りない。しかし、多くは丁寧に感想を書きだすと面倒なので、この上限を口実にして手抜きの感想をメモっている。何年か書いてきたが、1年毎のまとめがあると今回知って、ブログに上げることとした。読者の参考になることがあれば幸いだ。

2022年の読書メーター
読んだ本の数:58
読んだページ数:15690
ナイス数:133

神の方程式: 「万物の理論」を求めて神の方程式: 「万物の理論」を求めて感想
いわゆる統一場の理論への歩みを解説する本。素人の私には、次から次へと発見される粒子の数に圧倒される。消化不良のまま、著者が解決策と予想するひも理論に導かれる。10次元とも11次元とも言われるひもとは何だろうか。
読了日:12月23日 著者:ミチオ・カク
ゼロからわかる量子コンピュータ (講談社現代新書)ゼロからわかる量子コンピュータ (講談社現代新書)感想
量子コンピューターの解説書を何冊か流し読みしたが、本書は初心者向けに一番丁寧に書いてあると思う。しかし、それは理解しやすいということではなく、私には理解困難だ。各国、各機関で研究が進められているが、特にIBMは、2021年にイーグル(127量子ビット)、2022年にオスプレイ(433量子ビット)、2023年にコンドル(1121量子ビット)と着実に開発を進めている。著者は、これらを踏まえ、2029年頃が一つの目安かと予測している。余談だが、素因数分解問題はNP問題、巡回セールスマン問題はNP困難だとのこと。
読了日:12月23日 著者:小林 雅一
ワクチンは怖くない (光文社新書)ワクチンは怖くない (光文社新書)感想
著者は感染学の権威。本書は2017年の出版でやや古い。従ってコロナ禍の話題はない。  予防接種行政のあり方として、著者が繰り返し主張しているのは、集団の利益でなく、「個」の人間の利益であるとして、日本の現状を強く批判している。私は再読したが、集団の利益と個の利益が相反する場面ということが理解できなかった。
読了日:11月30日 著者:岩田 健太郎
フォン・ノイマンの生涯 (ちくま学芸文庫)フォン・ノイマンの生涯 (ちくま学芸文庫)感想
天才の誉れ高いフォン・ノイマンの伝記。面白かった。コンピューター等の数学では著名だが、経済学の分野でも、過去最大の数理経済学者と評する人がいたとは知らなかった。知的財産権的な物の取り扱いに関しては、戦後の日本と同じ(オープンでみんなで共有し、発展させる)と著者が評していたのが興味深い。
読了日:11月11日 著者:ノーマン・マクレイ
新しい高校教科書に学ぶ大人の教養 高校生物新しい高校教科書に学ぶ大人の教養 高校生物感想
たかが高校生の教科書と思ったが難しい。しかし面白い。まず昔と違って驚いたことを2点。a)味覚地図(舌の場所によって感じる味覚が違う)は無い、どの場所も同じ。b)進化論は、前の目的論、用不用説自然淘汰説は誤りで、現在は中立説が主流。その他。・2016年に米国でJCVI-syn3Aという人工生命体が作られた。マイコプラズマ細菌のゲノムを取り除き人工合成のDNAを入れて、継続的に分裂するようにしたもの。・温州ミカンは、400年前の突然変異、種ができない。・八重咲は、おしべめしべが花弁になったので種ができない。
読了日:11月09日 著者:夏緑
ヨーロッパ47カ国の歴史といまがわかる パノラマ大地図帳ヨーロッパ47カ国の歴史といまがわかる パノラマ大地図帳感想
欧州47か国を見開き2ページで紹介。しかも文字の部分が4分の1くらいで、見て楽しい。私が名も聞いたことのない国があった。南欧アンドラ、人口79千人。この国は不思議で、元首が2人いる共同統治国。フランス大統領とスペイン・カタルーニャ州内の某司教区司教の2人だ。地名の登場は紀元前のポエニ戦役から。国家としての起源も古く、819年。ロシアのウクライナ侵攻も踏まえ、ゼレンスキー大統領もロシアと戦っていると堂々と紹介されている。 楽しく、眺めやすい。
読了日:11月03日 著者: 
親鸞「四つの謎」を解く親鸞「四つの謎」を解く感想
私にとっては衝撃の本。書名にいう「4つの謎」とは、1)名門の生れなのに何故兄弟全部出家したか、2)比叡山で英才の誉れ高かったのに何故乞食坊主同然の法然に入門したか、3)仏教界では禁制に近かった妻帯を何故公然としたか(しかも有名な恵信尼の前に玉日という妻もいた)、4)自分の悪の自覚が異常に強かった理由。  ネタバレになるから答は読んでから。ただ、親鸞源頼朝の甥だったという説が紹介されていて興味深い。また、一般に親鸞関係の研究は、本願寺の学者によって非常に歪められていると主張している。
読了日:11月03日 著者:梅原 猛
物理学の野望 「万物の理論」を探し求めて (光文社新書 1194)物理学の野望 「万物の理論」を探し求めて (光文社新書 1194)感想
書名からは、万物の理論への今後の展望が論じられるかと思った。しかし拍子抜けするほどそれは無く、ギリシャ以来の過去の挑戦の紹介。いろいろな科学者の主張とそれの修正の歴史は、それなりに面白かった。中学生の孫にAmazonから注文して贈った。
読了日:10月30日 著者:冨島 佑允
紋章学入門 (ちくま学芸文庫 モ-20-1)紋章学入門 (ちくま学芸文庫 モ-20-1)感想
欧米の紋章の解説書。図版が豊富で圧倒される。口絵のカラー版が73番まで(1つの番号で複数の図がある場合も)、本文中の白黒図番が209番まで(同様、複数も多い)。説明は詳細、饒舌で、1/3過ぎた辺りから丁寧に読むのを断念。相続、婚姻、褒章などで多様化していく。各国に紋章院があって、登録制となっている。1つだけ。英国王室の紋章の始まりは、1194年のリチャード1世で、その「3頭のライオン」は今でも使われている。ただし当初はライオンではなく(同じ図柄だが)豹とされ、ライオンになったのは15世紀だという。
読了日:10月28日 著者:森 護
紋章学入門 (ちくま学芸文庫 モ-20-1)紋章学入門 (ちくま学芸文庫 モ-20-1)
読了日:10月28日 著者:森 護
韓国 超ネット社会の闇 (新潮新書)韓国 超ネット社会の闇 (新潮新書)感想
私にとっては驚きの本だった。IT大国である韓国における闇は恐ろしいものだ。幾つか紹介。・紙新聞を閲覧している人は2021年で13.2%で、2010年の52.6%から激減している。即ちSNSで自分向けに編纂された情報しか読んでいない。・2022年の大統領選はユーチュ―プによる非難合戦だった。・不買運動日本製品だけではなく、中国の報道などを見ても直ぐ騒ぎになり不買運動に発展する。・SNSで非難された人が自殺するなど、ITによるディストピアだ。ネットで炎上した事件に対し更に捏造するサイバーレッカーが最近多い。
読了日:10月27日 著者:金 敬 哲
世界を変えた100のシンボル 上世界を変えた100のシンボル 上感想
上下巻併せて100シンボル。幾つか紹介。#20ブルーツース。ルーン文字で、デーンマーク王ハラルド・ブルーツースの頭文字を組み合わせたもの。#46赤十字/赤新月。西欧とトルコに反発するペルシャの主張で、1923-79年は同国国旗のライオンと太陽も追加。現在は赤いひし形が提案されている。#82電源のIと開いたOを組み合わせたシンボルは実はスタンバイ状態を示す(私は知らなかった)。#91コンピューターの設定シンボルは、何故か今じゃ使われていない歯車のマークであることが面白い(他にもある)。
読了日:10月23日 著者:コリン・ソルター
言葉の展望台言葉の展望台感想
著者は分析哲学者、特に言語とコミュニケーションが専門。エッセイ的に身の回りから哲学の問題を取り上げていて、説明が平明でよかった。ここでは著者として本意ではなかろうが、サブのトピックを取り上げる。読んでる途中で、唐突に著者が男か女かと気になりだした。奥付にも書かれていない。偶然その次の章辺りで、自分がトランスジェンダーだと明かされる(トランス女性、即ち昔は男)。この本は、雑誌「群像」の連載コラムを単行本化したものだが、連載初期には編集者も知らなかったことで、突然カムアウトしたとのこと。
読了日:10月11日 著者:三木 那由他
ノーベル賞で語る現代物理学 (ハンドブック・シリーズ)ノーベル賞で語る現代物理学 (ハンドブック・シリーズ)感想
20世紀の現代物理学をノーベル賞という視点から、広範に解説した本。実に面白かったと書きたいが、難しい話が多くて私には難解。しかし、物理の広範な分野を概観し、挿話も知ることができて、私なりに満足。例えば、宇宙膨張の理論を提唱したハッブルは、宇宙論ノーベル賞の対象外の時代だったから受賞できなかったとのことだ。ヘビー級ボクシングのタイトル寸前まで行ったとか、弁護士資格も持っていたという伝説があるらしい(実は嘘)。本書は2008年11月の出版で、その後の新しいことは書かれていないのが残念。当然だが。
読了日:10月05日 著者:池内 了
なぜ私は私であるのか: 神経科学が解き明かした意識の謎なぜ私は私であるのか: 神経科学が解き明かした意識の謎感想
意識を論じているが、正直言って私には難しかった。訳者あとがきが判りやすかったので引用する。  外界を知覚する場合、脳は感覚器官を通して得た情報を分析して再統合すると考えられているが、そのようなボトムアップ的図式は誤り。脳は予測機械であり、外界をトップダウンの形で能動的に予測し、「制御された幻覚」として提示する。自己も同様に知覚されている。これが知性であり、意識は、知性とは別物であって身体や生きることにより密接に結びついているが、「制御された幻覚」として提示されていることは同じである。
読了日:10月01日 著者:アニル・セス
面白くて眠れなくなる脳科学面白くて眠れなくなる脳科学感想
著者経歴を見ると、医学者でなく、記述も専門家らしくない所があるが、内容は多岐にわたり面白かった。幾つか。・長く脳は人の重要器官ではないと見られていた。理由の1つは心肺停止状態になると、水分の多い脳は液状化し、形を留めなくなるからか。血液を冷却する器官とみる人もいた。確かに五臓六腑に脳は含まれない。・神経細胞の周りに多いグリア細胞は、近年その中のアストロサイトがシナプス、血管との繋がりで注目されている。アインシュタインの脳はグリア細胞が倍と多かったらしい。・意思決定は前頭前野ではなく、前帯状皮質で行われる。
読了日:10月01日 著者:毛内 拡
世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」感想
副題が嫌らしいが(世界のビジネスエリートが身につける教養)、挫けず読んだ。エリートでなくても面白かった。幾つか。 〇ローマの肖像彫刻は、老人を皺だらけで表現。皺を敬意の象徴と見たから。ギリシャ人は皺を老醜と見た。 〇ベルニーニ設計のローマ、サンピエトロ寺院の見どころは、捩れた4本柱。 〇17世紀オランダの集団肖像画は、業者組合、自警団など。それまでカソリックの集団肖像は祭壇の宗教画だった。 〇欧米で美術品の価格に触れるのは卑しいとされる(現在でも)。
読了日:09月14日 著者:木村 泰司
世界の聖地世界の聖地感想
カラー写真が多く、楽しい。私が行きたいと思った場所は多いが、幾つか紹介。ミャンマーの古都バカンは、金色が素晴らしい。トルコ、イスタンブールアヤソフィアとブルーモスク。ロシア、サンクトペテルブルクの血の上の救世主教会の内部は、著者によれば、規模、完成度の高さ、華やかさで世界一だそうだ。アイスランドゲイシール間欠泉も見たくなる。アメリカのセドナは、幻想的だ。
読了日:09月14日 著者:松岡絵里
ストレス脳 (新潮新書)ストレス脳 (新潮新書)感想
勉強になったのは、第4章「人はなぜうつになるのか」。最近はがん、心血管等が死因の多くを占めているが、歴史上、人類の半分は大人になる前に死んでいて、その殆どは感染症だった。例えば天然痘は100年間で5億人の死者。狩猟社会から農耕が始まって、人と家畜が密接して暮らすようになってから感染症は拡大した。ストレスは感染リスクが高まると生じるシグナルだ。例えば採用面接時のストレスは、怪我をするリスクがあるとのシグナルと同じで、免疫機能を発動する。これで引きこもりが生ずる。ストレスホルモンのコルチゾールの効果。
読了日:09月08日 著者:アンデシュ・ハンセン
こうすれば、夜中に目覚めずぐっすり眠れる:医師が教える、薬に頼らない3つの方法こうすれば、夜中に目覚めずぐっすり眠れる:医師が教える、薬に頼らない3つの方法感想
第4章が「ぐっすり眠るための3つの方法」だ。そこ以外でも類書に見られないいいことが書いてあって、最近また不眠症に悩む私には参考になった。ネタバレながら第4章を紹介。 ①朝、外に出て目玉ポーズ(両手を頭の後ろに当てて大きく伸び)をする。3秒間ぼーっとする。頭を3回ポンポンと叩く。②寝る前に「今日助けられたことを書き留める」(ジャーナリング)。誰かの小さな親切に気づく。プラスに捉え、感謝の気持を。③食事の最初に「ワンスプーン瞑想」。椅子に浅く腰掛け、足の裏をぴったり床につけて、食事の色々を瞑想する。
読了日:08月30日 著者:山下 あきこ
ロシア正教の千年―聖と俗のはざまで (NHKブックス)ロシア正教の千年―聖と俗のはざまで (NHKブックス)感想
1993年出版(2020年に改訂版)、1988年に受洗千年祭(キエフ大公がギリシャ正教を受洗して国教)を祝った。しかしその後は順調でない。モスクワ総主教が1589年に置かれたのが正式発足だが、1721年に廃止。総主教が復活したのは1917年のロシア革命時。しかし、その後スターリンの大迫害、ドイツ侵攻に対する愛国運動で復活したが、フルシチョフの大迫害が続く。ゴルバチョフにより迫害が終了し、1988の受洗千年祭に繋がった。信仰の維持と政権への迎合で、その位置は揺れ動く。注)ウクライナ正教会の独立は2018年。
読了日:08月28日 著者:広岡 正久
ギリシア正教 東方の智 (講談社選書メチエ)ギリシア正教 東方の智 (講談社選書メチエ)感想
本書のギリシャ正教は広義で、ロシア正教などを含む東方正教一般の紹介書。カソリックとの違いが色々ある。幾つか。①キリストは東方では悪魔等に対する勝利者だが、西方(カソリック)では犠牲者。②マリアの無原罪の宿り、被昇天は、当初東方だが西方で発展。③1054年のシスマ(東西分裂)につながったフィリオクエ(説明略)は、今も続いているが、カソリック側の妥協で決着しそうか(著者の見立て)。各国の正教会はほぼ独立とされる。本書では15項目を立てて紹介。ただウクライナ協会は2018年成立なので無い。各正教会の関係は複雑。
読了日:08月28日 著者:久松 英二
無線メディア通史 (I/O BOOKS)無線メディア通史 (I/O BOOKS)感想
無線技術は近年も開発が続いており面白かった。ただし説明が簡単で、内容は私には難しい。幾つか紹介。2020年にWi-Fi6E(802.11ax)が登場したが、次の2025年頃にはWi-Fi7E(11be)が準備されているという。Wi-Fiはメッシュネットワークが目標。IoTの鍵となるLPWA(LowPowerWideArea)は多くの技術が争っている。We-sun、Sigfox他。ブルーツースもLE (低電力化)を進め、2021年にはバージョン5.3を出した。自動車通信のV2Xでは、DSRCとC-V2X。
読了日:08月17日 著者:瀧本 往人
職業としての官僚 (岩波新書)職業としての官僚 (岩波新書)感想
やや饒舌で、前半は少し辟易した。第3章の英米独仏4国の実体の紹介が面白い。近年各々改革が行われているが、各国必ずしも期待通り進んでいる訳ではない。これらと比較して、日本の平成期公務員制度改革の特徴は、①政治的応答の突出(官邸による幹部人事の一元化と無牽制な政策指示)、②官僚の無定量な働きへの依存、③人事一任慣行による委縮だ。③については、政策決定過程の記録・公開と人事配置理由の国民への説明が、2008年の公務員制度改革基本法に課題として明記されたが無視されている。公務員志望者数が減少し、日本の未来は暗い。
読了日:08月11日 著者:嶋田 博子
エナメル (新潮文庫)エナメル (新潮文庫)感想
まあまあ。
読了日:08月10日 著者:彩藤 アザミ
【2022年・第20回「このミステリーがすごい! 大賞」大賞受賞作】特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来 (『このミス』大賞シリーズ)【2022年・第20回「このミステリーがすごい! 大賞」大賞受賞作】特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来 (『このミス』大賞シリーズ)感想
特許法にやけに詳しい本。小説としてもまあまあ。
読了日:08月10日 著者:南原 詠
死と向き合う言葉: 先賢たちの死生観に学ぶ死と向き合う言葉: 先賢たちの死生観に学ぶ感想
私には余り面白くなかった。深みに乏しいかとの感想。
読了日:08月10日 著者:呉 智英,加藤 博子
心はこうして創られる 「即興する脳」の心理学 (講談社選書メチエ)心はこうして創られる 「即興する脳」の心理学 (講談社選書メチエ)感想
本書は通念とは違うことを主張しているので驚く。脳は1度に1つしか考えられない。無意識下の思考(バックグラウンドの思考)というのは無い。本の原題名は、The Mind is Flat。その意味は、心に深みは無く薄っぺらということだ。感覚入力は脳の大脳皮質から皮質下構造へ意味を付して投射される。感覚入力をまとめるために、思考のサイクルが絶えず逐次的に動き回っている。これに基づく「意識」の対象は、言葉やイメージで、抽象的な信念などではない。抽象的な信念は、その都度構成される。
読了日:08月07日 著者:ニック・チェイター
楽園のカンヴァス楽園のカンヴァス感想
何故読もうと思ったかどうしても思い出せないが、面白かった。アンリ・ルソーの絵「夢」を題材にした現代小説。
読了日:08月03日 著者:原田 マハ
時の子供たち (上) (竹書房文庫 ち 1-1)時の子供たち (上) (竹書房文庫 ち 1-1)感想
上下2冊の長編SF。数十世紀ごろの地球は、戦争などで荒廃し、人類は宇宙に新たな移住先を探していた。人類に見切りをつけ、猿などに遺伝子改変を施して期待する学者もいた。ある避難者グループ(人間)が最後にここしかないとして見つけた惑星には、既に先住グループがいて新たな移住を拒否する。本の紹介にも書いてあるのでルール違反のネタバレとはならないと思うが、先住グループは実は蜘蛛だ。私にはやや気持ち悪いが、話は奇想天外な展開を見せ、実に面白かった。類似構想の後編があるが邦訳はまだ無さそう。
読了日:08月02日 著者:エイドリアン・チャイコフスキー
意識はなぜ生まれたか――その起源から人工意識まで意識はなぜ生まれたか――その起源から人工意識まで感想
 著者によれば、潜在的注意とそれを制御する「注意スキーム」をもつようになった動物に「意識」が生じたとする。注意スキームとは(私にとっては)難解な概念だが、顕在的注意だけでなく潜在的注意も制御する脳内のシステムだ。意識は、脳内の側頭-頭頂接合部(TPJ)にあると推定される。  最後の2-3章では人工意識、人工注意、心のアップロード(脳の内容を全て機械に記録)などの可能性が論じられる。例えば視覚などを対象にしたものに限れば、人工意識は21世紀半ばまでにはできるかと言う。
読了日:07月27日 著者:マイケル・グラツィアーノ
Newton大図鑑シリーズ くすり大図鑑Newton大図鑑シリーズ くすり大図鑑感想
図が多くて楽しいというのも失礼だが、読みやすい。実は難しい内容だ。貸出期限があるので返すことに。
読了日:07月23日 著者: 
図解 脳に悪い12の習慣図解 脳に悪い12の習慣感想
直ぐ納得できそうな、もっともな習慣がリストアップされている。ここでは、ちょっと気がつかなさそうな習慣を幾つか紹介する。〇姿勢を正しく目線を水平にすると脳にいい。何時でも真上に飛び上がれる状態を心がける。〇毎日同じことを繰り返す。繰り返すことで、脳の統一・一貫性の本能が鍛えられ、微妙な違いが判る力を磨くことができる。〇成功体験に縛られていないかチェックし、絶えずいろいろな可能性を考えてみる。〇多読するだけでは駄目、内容を考え、整理して人に話してみる。
読了日:07月23日 著者:林 成之
言語の標準化を考える―日中英独仏「対照言語史」の試み言語の標準化を考える―日中英独仏「対照言語史」の試み感想
私は全くの素人ながら言語について関心がある。本書は、5言語についてその歴史を対照してくれる。ただし精粗は大きい。仏語は海外のクレオール語の話ばかりで国内の言葉の変化については触れていない。独語の標準化は、ルターの聖書の翻訳の役割が圧倒的(目的はキリスト教の普及)。中国は、元、清と異民族の支配にあったが中国語は温存された。ある表現について2500年間の変化を示した表(p211)が興味深い。見ようによっては余り変化していない。英語はノルマン侵攻(1066)の前から標準化の動きがあり、仏の撤退後、標準化は再開。
読了日:07月21日 著者:高田博行,田中牧郎,堀田隆一
脳とは何か 脳研究200年のすべて (ニュートン新書)脳とは何か 脳研究200年のすべて (ニュートン新書)感想
実はほとんど理解できなかった。負け惜しみだが、悪訳ではないかと思う。翻訳者は、美大短大学部卒だと書いてある。これは差別意識で、本当は私がボケたからだろう。
読了日:07月10日 著者:ジョナサン D モレノ,ジェイ シュルキン
フリースタイル言語学フリースタイル言語学感想
タイトルは言語学だが、読み始めると音声学だし、最初の方の話題が、メイドやピカチュウの名前の分析等なので、止めようかと思った。しかし、後半がぜん面白くなった。①「にせたぬきじる」と「にせたぬきしる」の違い、②連濁の問題。例えば日本語で単語を2つくっつけると2番目の頭が濁音化する(連濁)。しかし2番目の単語に既に濁音があると連濁しない(例、ひとかげ)。外来語も連濁しにくい。③小さいっ+濁音は外来語が殆ど。例外は多くあって面白い。④漢語における母音調和(省略)。⑤日本語アクセントは私が習ったのとは別の説で残念。
読了日:06月29日 著者:川原 繁人
119番と平穏死~「理想の最期」を家族と叶える119番と平穏死~「理想の最期」を家族と叶える感想
老衰して平穏な死を願っていても、一旦119番して救急車で運ばれると自動的に救命措置が始まり、それを止めることができない(ただし2019年末から東京都では運用が若干緩和)。著者は尊厳死協会の副理事長だから、主張は明解。世の中では信じられないことが起きている。救急医の会の幹部が、リビングウィルに迷惑している(救急措置がとれない)と発言した。医師法20条が広く誤解されて、死後24時間以上経つと死亡診断書を書いてはいけないから(誤解)、運び込まれた大病院が死亡診断書を何日も前に診察したかかかりつけ医に押し付ける。
読了日:06月29日 著者:長尾 和宏
世界の絶景に行ってみた。世界の絶景に行ってみた。感想
必ずしも奇勝だけではなく、有名な景勝地も紹介されている(全14か所)。美しいカラー写真も多く、と言いたいが、小さい写真が多く、残念だ。B6版の横幅に横置き2枚のサイズが多く見にくい。著者の弱点(?)である世界史的背景については、世界史学者(佐藤幸夫)との対談が丁寧に付されていて勉強になる。  本書を読んで私も機会があれば行きたいと思ったのは。①ギリシャサントリーニ島(青いドームの教会と夕陽)、②ベトナムのダナン(古都とランタン)、③モロッコのシャウエン(青い街)。楽しい本だ。
読了日:06月26日 著者:詩歩
国境で読み解くヨーロッパ: 境界の地理紀行国境で読み解くヨーロッパ: 境界の地理紀行感想
美しいカラー写真が豊富な楽しい本だ。トピックを2つ。a)河川が人為的な国境と定められた例も多い。多くの川は輸送に使われ両岸の行き来が多い。ドイツとポーランドの国境のオーベル・ナイセ川の両岸は2次大戦前はドイツの領土。それが戦後のソ連の強い主張で、川の東岸がポーランド領に。800万人を越えるドイツ人が土地を追われたという。b)クロアチアの飛び地のドブロヴニク。本土との間にボスニアの狭い領土が入り込んでいる。これは、旧ドブロヴニクが1699年、ベニスに対抗するため大国オスマン帝国に領土を提供した名残だという。
読了日:06月24日 著者:加賀美 雅弘
長い別れ (創元推理文庫 Mチ 1-7)長い別れ (創元推理文庫 Mチ 1-7)感想
R.チャンドラーの原作の3番目の翻訳だ。翻訳を重ねることの奇妙さについては、例えば次を。 https://honyakumystery.jp/20082 私は8年前に、同書のTVドラマ(東京を舞台としたリメーク版)を見、清水俊二訳を読んだ。私のブログでも紹介した。 https://oginos.hatenablog.com/entry/20140515/p1 3冊目の翻訳ということと、昔読んだのにさっぱり思い出せないということで借りた。やはり難解、重厚なプロットで疲れた。後半1/3を丁寧に読み直した。
読了日:06月24日 著者:レイモンド・チャンドラー
〈反延命〉主義の時代:安楽死・透析中止・トリアージ〈反延命〉主義の時代:安楽死・透析中止・トリアージ感想
〈反延命〉主義とは、延命措置に反対し、尊厳死安楽死を貴ぶ風潮に反対し、患者の生を最後まで貫く医学的措置を追求しようとする立場である(私の拙い理解)。反延命の基本は優生思想であり、弱者を排除する思想で、背景には行政の経費削減、医療界の経営問題だとする。しかし、私には、延命措置が患者に与えるという耐え難い苦痛を軽減するという面も重要ではないかと思う。感じた疑問の1つは、第5章で、「延命措置」ではなく、「生命維持治療」という単なる方法であると説明すればいいとの話が出てくるが、言換えで何が変わるか理解できない。
読了日:06月21日 著者:小松 美彦,市野川 容孝,堀江 宗正
トルクメニスタン・ファンブック: 中央アジアの知られざる国トルクメニスタン・ファンブック: 中央アジアの知られざる国感想
単なる異国趣味で借りた新刊本だが、面白かった。1)冒頭に現れる首都アシガバットの景観写真。「世界で最も大理石の建物が密集している街」で、美しい白色の建物が並ぶ。豊富な天然ガス収入に因る。以下各地の美しいカラー写真が続く。2)名産の1つのアハルテケという馬の祖先は中国の文献に出てくる「汗血馬」とある。思い出したのが、10年ほど前の日経の連載小説、辻原登著「韃靼の馬」で、そうらしい。3)不満なのは、トルクメニスタンとトルコは語源が同じと思うが書いてないこと、索引が無いことだ。4)1991の独立後の話も面白い。
読了日:06月19日 著者:ギュルソユ慈,ギュルソユ慈
医師が教える最強の間食術医師が教える最強の間食術感想
私は糖尿病なので、おやつには罪悪感がある。それで借りた本だが、内容は専ら高カカオチョコレートの話で驚く。1日5回の「チョコちょこ食べ」を推奨する。高カカオとは70%以上で、72%、86%、95%等がある。実際の商品名は書かれていないが、明治の「チョコレート効果」が同じ含有率の商品を販売していて、偶々私は86%をよく食べる。高カカオの効果は、糖尿病、認知症、高血圧、便秘、脳卒中、等々。著者は言葉も豊富で、「目覚ましチョコ」(朝一番)、「チョコファースト」(食前に)、「いたわりチョコ」(高齢者をいたわる板割)
読了日:06月09日 著者:鈴木 幹啓
日本の生命科学はなぜ周回遅れとなったのか 国際的筋肉学者の回想と遺言 (光文社新書)日本の生命科学はなぜ周回遅れとなったのか 国際的筋肉学者の回想と遺言 (光文社新書)感想
実名(又はイニシャル)で多くの人を非難していて驚く。その前にタイトルの周回遅れの理由として著者は大きく4つ挙げる。1)他人の成功を妬む、2)教授達の利己的性格、3)利己的教授達の提案を受け入れる政府関係者の無能、4)新聞の科学欄記者の能力劣化。この外、国立大学の独立行政法人化を強く批判。明治以来の先達の不遇-北里柴三郎の冷遇、迫害。加藤元一、田崎一二への迫害。DNA発見のワトソンの野望、理研の脳研究センターの不振。O大学のA教授とB君の問題。私には真偽不明だが、88歳の老学者の執念が感じられる。
読了日:06月08日 著者:杉 晴夫
フィールドワークではじめる言語学—なじみのない言語から考えるフィールドワークではじめる言語学—なじみのない言語から考える感想
メインは、著者が調査したガーナのアカン語。なじみのない言語は私には面白くないから、日本語と英語のトピックを紹介する。〇日本語の性差は近年縮まる傾向。女性専用文末詞(わ、よ、など)は、ドラマ、小説などの世界で使われるが、実際には若い女性は殆ど使わない。主張度の高い文脈(反問、抗議など)では使われるので、それを使われたら非難されていると思うべき。〇NYでの調査で上層階級ほど、音節末のrをはっきり発音するという階級差がある。〇ロンドンの調査では、下層階級ほど、hを発音しない、鼻音ngがnになる、など。
読了日:05月20日 著者:古閑恭子
ぼけますから、よろしくお願いします。ぼけますから、よろしくお願いします。感想
90代の耳が少し遠い父親が80代の認知症の母親のケアをしている。呉市に住むそんな両親を東京で働く単身の1人娘がやきもきしながら、遠距離ケアをする。娘はたまたま母の発症の10年以上前にハンディテレビカメラを買い、自分の仕事用の練習の意味で、両親の様子を撮り貯めていた。そのため元気な幸せな時と発症後の厳しい老々介護の状態の両者の映像が揃うことになった。これがどうして多数の感動を呼ぶ映画へと具体化できたのか。それは両親の揺るぎない娘への愛情と信頼だ。涙と笑いに溢れたいい本だ。私ももっと家族を信頼しようと思った。
読了日:05月15日 著者:信友 直子
ファーストスター 宇宙最初の星の光ファーストスター 宇宙最初の星の光感想
ほぼ全編にわたり理解できなかった。星には3つの種族があるという。最も新しい世代の種族Ⅰは、金属を多く含む。種族Ⅱはそれより古く、金属が少ない。種族Ⅲの星はもっとも古く、金属を含まない。ファーストスター、初代星とも呼ばれる。種族Ⅲの星は、ビッグバンの2億年後から10億年後の世界に登場し、消えたという。それを観測するには約130億年前のこの星から届く電磁波を解析しなければいけない。2018年にはEDGESという観測装置が初めて観測したという報告が出され、著者達を喜ばせたが、まだ完全には検証されていない。
読了日:04月26日 著者:エマ・チャップマン
言語が違えば、世界も違って見えるわけ (ハヤカワ文庫NF)言語が違えば、世界も違って見えるわけ (ハヤカワ文庫NF)感想
面白かった。古代ギリシャホメロスの有名な叙事詩2編には、色の記述が殆ど無い。19世紀英国のグラッドストンは、詳細に分析した後、ホメロス色弱だったとする。この解決は1969年のバーリンとケイ。色の知覚は文化の進展により変化する。色彩語彙の変化には共通パターンがあり、黒と白→赤→黄色→緑→青だ。古代ギリシャは赤まで。他の話題として、変った言語が紹介される。通常の言語は、自己中心座標で場所を示す際、前後左右を多用する。グーグ・イミディル語は地理座標を使い、常に東西南北で言う。文法の性の心理的影響も面白い。
読了日:04月17日 著者:ガイ・ドイッチャー
図説 写真で見る満州全史 (ふくろうの本/日本の歴史)図説 写真で見る満州全史 (ふくろうの本/日本の歴史)感想
写真が多くて楽しい。2022年にウクライナに侵攻したロシアと同じ暴挙を関東軍は働いていた。繰り返す歴史は悲しい。 残念なのは、地図が古い写真版のもの1枚しかないこと。見づらい。
読了日:04月12日 著者:平塚 柾緒
誰も書けない「コロナ対策」のA級戦犯 (宝島社新書)誰も書けない「コロナ対策」のA級戦犯 (宝島社新書)感想
2022年に入ってからの第6波の前の本。やり玉にあげられているのは、尾身分科会長、厚労省の医系技官、感染症専門医、医師会(開業医)など。首相などの政治家は挙げられていない。忖度か。尾身氏以下感染症専門医は治療の現場を知らないと手厳しい。エビデンスに基く政策提言をと言っているが、海外でもきれいなエビデンスの事例が無い。私も納得できたのは病床数の拡充対策の提唱。
読了日:03月27日 著者:木村 盛世
在宅ひとり死のススメ (文春新書 1295)在宅ひとり死のススメ (文春新書 1295)感想
私はかねて老後は、高齢者施設でと思っていた。それなら子供たちに迷惑をかけないだろう。この本は、介護保険サービスが普及した日本では「在宅ひとり死」がいいと主張する。生活満足度調査というのがあって、独居が最高で2人暮し(夫婦又は親子)が最低、3人、4人と増えて独居に並ぶ。同時に悩み度調査があって、独居が最低だ。  怖いのは認知症だろう。著者の詳細な調査が続く。周辺症状はいろいろ経緯があるが、独居老人は概して機嫌がよい。「家族の覚悟さえあれば1人でいられる」、「認知症は不便だが不幸ではない」、私にもできるか。
読了日:03月26日 著者:上野 千鶴子
最愛の子ども最愛の子ども
読了日:03月18日 著者:松浦 理英子
工学部ヒラノ教授の介護日誌工学部ヒラノ教授の介護日誌感想
著者は2022/2に逝去(享年81)。著者の本は確か3冊読んだ。まあ面白いが好きな著者ではない。訃報を見て、図書館にアクセスした。この本は現在の私に関心の深い介護の話。驚いた。19年間に渉る令夫人の介護は壮絶だ。病名は脊髄小脳変性症、最後は要介護5のレベル。最も驚いたのは、痛みや不眠、悪夢で夜絶叫する夫人を何度も叩いたとのこと。指や腕の噛み合いになったこともある。なお娘さんも要介護の状態で夫から虐待されていた(その後離婚)。それから、誤嚥性肺炎に対して行った気管支切開手術はすべきでなかったとしている。
読了日:03月16日 著者:今野浩
家庭裁判所物語家庭裁判所物語感想
私は今妻の成年後見人だ。ラスボスは家裁。裁判所を批判する本を何冊か借りて読み憂さ晴らしをしているが、その内の1冊。戦後に家裁を創設(1949年1月)した人たちの情熱と苦労を巡るノンフィクションで、期待に反して感動した。後見人の話は少ない。  1970年代の少年法改正論議(少年法適用年齢の20歳から18歳への引下げ等)を巡る最高裁法務省との論争は、本書の大きな話題。家裁側の抵抗により当時は棚上げとなった。ネットを見ると、昔の構想とは少し形を変えて、この2022年4月から少年法対象年齢の引下げが始まる。
読了日:03月01日 著者:清永 聡
私が進化生物学者になった理由 (岩波現代文庫 学術 440)私が進化生物学者になった理由 (岩波現代文庫 学術 440)感想
面白かった。20代でのタンザニアでのチンパンジーのフィールドリサーチの話が私にとっては衝撃的(環境の厳しさもさることながら、1980年頃という、私が都市生活真っ盛りの時にこのような研究を目指していたほぼ同世代の人がいたことに)。幾つかのトピックの中から私が知らなかったことを紹介。著者たちが若い頃前提としていた「群淘汰」論(動物は種の保存のために活動する)が欧米では既に誤りとされていたことを欧米の学者から指摘された。著者達の80年代以降の国内の活動は、第6章のタイトルどおり「群淘汰との闘い」だったとのこと。
読了日:01月29日 著者:長谷川 眞理子
人類はできそこないである 失敗の進化史 (SB新書)人類はできそこないである 失敗の進化史 (SB新書)感想
人類の進歩は、直立2足歩行により、森林から草原に出たことから始まるとの説が一般的だが、著者は真っ向から反対する。人類はチンパンジーとの闘争に敗れ、安全な森林から追い出されたとする。直立2足になったため、腰痛、痔等に悩む。ダーウィンの言う自然淘汰(生存に有利な性質を持つ突然変異が生き残る)ではなく、「中立進化論」(突然変異は有利でも不利でもない。進化があるのは偶然)の立場だ。人類は偶然生き残っているだけで、優れた生物だから今後より良く変化すると期待してはいけない。過去殆どの生物は絶滅している。
読了日:01月16日 著者:斎藤成也
権力にゆがむ専門知 専門家はどう統制されてきたのか (朝日選書)権力にゆがむ専門知 専門家はどう統制されてきたのか (朝日選書)感想
政治、行政と専門家(知)との関係を論じているが、専門知の範囲がやや散漫。戦前は法制官僚の専門知が圧倒的。戦後からエコノミスト官僚の専門知が成果を上げる。その他河川、道路等の建設官僚の専門知が特定分野で成果を上げてきた。第2臨調による国鉄民営化は、新自由主義的理論から外部専門家が主導して成果を上げた稀有の例。タイトルを見て私が疑問と関心を持つのは、現在の専門家に、事態を正しく評価し、対策を立案できる専門知があるかということだ。原発、コロナ何れもそれが基本的問題。「権力にゆがむ」のは当然。終章の提言は抽象的。
読了日:01月16日 著者:新藤宗幸
わが母の記 (講談社文庫)わが母の記 (講談社文庫)感想
友人に紹介されたやや古い本。認知症の母親が1973年、88歳で死ぬまでの10年余の家族の奮闘記。当時、認知症や介護制度の語は無かった。大家族での介護(子供4人、その孫、他手伝い)の中、老人ホームが検討された影も見られない。ボケは、最近のことから順に忘れ子供に戻っていくのだそうだ。介護者の心身両面の消耗も大変だが、私が感じたのは、身体と口は元気だがボケが進む高齢者自身の哀しみだ。介護者の1人が初期に漏らす「本人を見ていると何となしに人間の一生というのが詰まらなくなってしまう」との感想が胸を打つ。
読了日:01月05日 著者:井上 靖

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