3号被保険者

 被用者年金の加入者の配偶者のうちいわゆる専業主婦は、国民年金の「3号被保険者」として扱われ、保険料を自分で払わなくても国民年金の加入期間に算入される。私の妻は永年専業主婦で3号被保険者の筈であったが、今回年金事務所から、約11年間そうではない期間があるとの連絡があり、トラブルになった。これから65歳になる人の配偶者に同種のトラブルが発生する恐れもあるので、参考のためにその事情を説明する。以下、1)3号被保険者に係る基礎知識、2)年金事務所からの連絡内容、3)届出の訂正手続き、4)感想の順で説明する。
1) 3号被保険者に係る基礎知識
a) 被用者年金(主に、厚生年金、共済年金)の加入者に扶養されている配偶者は、国民年金の3号被保険者として、その期間が国民年金の加入期間に参入される。国民年金の額(基礎年金)は、40年間(20歳から60歳まで)加入した場合に満額となり、加入期間(3号以外の期間も含めて)がそれに満たない場合は加入期間に比例した金額が年金額となる。
b) 65歳になった人(夫も妻も)は基礎年金を受け取る資格ができるが、被用者として報酬を得ている場合は、引き続き被用者保険に加入し保険料を支払わなければならない(その間受け取る年金額は減額される−在職者老齢年金)。
c) 65歳以上の被用者保険の加入者の配偶者(専業主婦)は、それまでのように3号被保険者になることはできない。それで国民保険の保険料を支払う場合(20歳から60歳までは支払うことが義務*1 )は、国民年金の1号被保険者になって別に保険料(現在、月15,020円)を支払うことが必要*2
d) なお、この3号被保険者制度は、1986年(昭和61年)の年金制度の大改正(これ以前は旧制度、これ以降は新制度と言われる)の際に導入されたもの。それまでは、被用者の扶養者には独立の年金は無く、希望すれば国民年金の任意加入者となり個別に保険料を納付することができた。
2) 年金事務所からの連絡とその理由
 私は、本年の7月に65歳になり、妻は60歳未満だったので、その1号被保険者になる手続き(前項のc)をしている中で、1996年8月から2007年6月までの11年間、3号被保険者の届けがされていなかったとの連絡を受けた。
 ここで、私と妻の年金履歴を述べると、私は社会に出てから1996年7月までは公務員共済年金、1996年8月以降現在まで厚生年金だが2007年7月に勤務先がAからBに変わった。妻は、3号被保険者制度が始まった1986年4月から共済年金の3号被保険者*3 *4、1996年8月以降現在まで厚生年金の3号被保険者*5との理解であった(後述の年表を参照)。
 そう理解していた根拠は2つあって、第1は、近年届けられている妻の年金定期便には、1986年以前は国民年金の任意加入、1986年から現在までは3号被保険者と明記されていること。第2は、2006年頃、新宿の年金センターに、夫婦の年金支給見込額を2人で聞きに行ったとき、コンピュータの中の記録に基づき、その期間は3号被保険者として計算されていたことだ。
 誠に不可解なことだったが、いろいろ調べて判ったことは、1986年に3号被保険者制度が導入された時は、夫の勤務先が変った時の3号被保険者の届け出は、本人(専業主婦)が自分で市町村(東京都の場合区役所)にしなければいけないとされていた。それが2002年からは、夫の勤務先からその手続きができるように改定された。2007年7月以降3号保険者として登録されているのは、私の新しい勤務先が本人に替って届け出をしてくれたからだ。
 それでは、年金定期便に今まで書かれていた1996年から2007年の3号被保険者としての記載は何だったのかと年金事務所に聞くと、1996年に本人から届け出がされなかったため、それ以前の共済年金の3号被保険者が継続していると間違って記録されていたためだと言う。今回1号被保険者への変更の手続きの中で、夫の年金履歴と照合した結果、届出がないことが判ったので、訂正しなければいけないとのことだ。
 若干ややこしいので、年表を作った。後で説明する内容も盛り込んである。

年金制度
1986/4以前   公務員共済 国民年金に任意加入
1986/4 3号被保険者制度の導入   3号被保険者(共済年金)
1996/8   厚生年金(A法人) 3号被保険者(厚生年金)
2002/4 3号被保険者の届出が事業所から可能に    
2005/4 3号被保険者届出の2年時効が実質的に廃止    
2007/7   厚生年金(B法人) 3号被保険者(厚生年金)
2011/7   65歳 1号被保険者へ(手続き中)

3) 届出の訂正の手続き
 それで、訂正の手続きは、申請書(国民年金第3号被保険者該当申立書他)に加え、添付書類として申立て期間(1996年から2007年)の各年の課税・非課税証明書(区役所が発行)が必要とある。これは、その間妻に収入が無く夫の被扶養者だったことを証明するためだとのこと(従って必要なのは非課税証明書)。しかし、妻が区役所で聞くと、2007年から2004年までぐらいしか発行できず、それ以前の古いのは記録が無いと言われた。それで私の旧勤務先Aに、妻が被扶養者であったことを証明できるものはないかと聞いたら、所得税源泉徴収票や健康保険の被扶養者の届出などの写しを探し出して用意してくれた。ただ、1997年など古い年1-2年分は無いとのこと。
 これで何とかならないかと、日本年金機構世田谷年金事務所(以前の社会保険事務所)に電話した。すると、先に添付書類が必要と連絡してきた当の担当者は、先方にある健康保険の被扶養者の記録で確認できたから、課税・非課税証明書等は不要で、申請書だけ出してくれればいいと言う。拍子抜けしたが、それならそうともっと先に言ってほしかった。妻は既に区役所から課税・非課税証明書の交付を受け、1000円以上の手数料を払っていたので、実害が生じていた。
4) 感想
 結果として比較的簡便な手続きで済んだ*6からよかったようなものだが、感想はいろいろある。
a) 1986年の3号被保険者制度導入以来2002年までの間、夫の勤務先が変わった場合、本人(妻)が市町村に3号被保険者の届出をしなければならなかったということを私は知らなかったが、それは私だけだったのだろうか。(ちなみに、こういうことに詳しそうな先輩に雑談ついでに聞いてみたが、奥さんが自分で手続きされたとの確信は持てなかった) 。また、この手続きを教えてくれなかった当時の勤務先にも問題があろう。 
 なお、年金事務所の担当官の妻への対応も悪く、1996年時点に自分で手続をすることを知っているべきだったなどと電話で罵倒されたようで、妻もショックを受け憤慨していた。
b) 次に、問題の期間を3号被保険者と堂々と記載してきた年金定期便は何をチェックしていたのだろう。それから、事前相談を行った年金センターの権威も疑われる。
c) 2005年に改定があったがそれまでは、3号被保険者の届出の訂正が可能なのは2年前までの期間であった。この時効2年制度は非常に厳しかったようで、当時も届け出をしなかった人が多くて、1995年4月から97年3月までの2年間が特例の届出期間として設定され、時効2年を越えて処理されたことがあった。2005年の改訂により、この届出の時効は実質的に無くなったらしい。
 これが改定されていたお陰で、今回15年前まで修正できた。もし時効2年と言われていたら、私の妻の場合11年間が無効になり、加入期間が35年程度(1986年以前の任意加入の期間も含む)だから、年金額が35分の11も減ることになっていた。その意味で、何が契機だったか知らないが、2005年の改定は有難かったことになる。
 多分、2004年4月に、小泉総理が国会で、社会保険庁と年金行政の信頼回復のため、社会保険庁の事業の運営と組織のあり方を見直すと述べ、同年10月に初の民間出身の社会保険庁長官が就任した(村瀬清司氏)ことなどの改革の一環であろう。その後、例えば年金記録問題(消えた年金記録)は、2007年で、舛添要一大臣が大活躍したが、これは関係無さそうだ。
d) 国民年金の登録等は市町村の業務、厚生年金は社会保険庁(2010年1月からは日本年金機構)の業務と分れている*7ことも混乱の原因であろう。例えば、次のURLは、国民年金の窓口が市町村で、厚生年金の窓口が社会保険事務所であることによる落し穴で生じた悲劇を述べている。2号から3号に移る手続きを市町村で行おうとしても、市町村の記録では、3号のままだから手続きが不要と言われたとの話だ。http://allabout.co.jp/gm/gc/13365/3/
e) 読者へのアドバイスとしては、1986年から2002年の間に勤務先が変った時に、専業主婦の人が自分で手続きをしていた記憶が無い場合、同種の連絡が来る可能性がある。また、妻が65歳になって国民年金の支給が始まった時に、減額されている可能性もある。その場合、届出での訂正のためと称して、課税・非課税証明書の添付が求められても、今回の私の妻の例を引いて、健康保険の被扶養者の記録がそちらで判るはずだと粘り強く交渉すればいいと思う。区役所からの課税・非課税証明書の交付の手数料(1枚につき300円程度)も年数が多くなれば馬鹿にならない。
以上

*1:60歳以降は任意で払うことが可能。これは、加入期間が40年間に満たない人の場合、更に保険料を支払うことで受け取れる年金額を増やすことを可能にするため。

*2:ちなみに、被用者保険(厚生年金、共済年金等)の加入者は、国民年金の「2号被保険者」と呼ばれる。

*3:正確に言うと、「共済年金の加入者に扶養されている、国民年金の3号被保険者」

*4:ちなみに、1986年以前は国民年金に任意加入していた。

*5:正確に言うと、「厚生年金の加入者に扶養されている、国民年金の3号被保険者」

*6:正確に言うと、書類を送った段階なので、未だ手続き中。

*7:いろいろ複雑で、例えば2002年に国民年金業務のうち保険料徴収が市町村から社会保険庁に移管されている。