確定申告の電子申告

 サラリーマンなのに、また高い所得でもないのに、何故か毎年それぞれの事情があって、確定申告をしている。最近はもっぱら電子申告だ。
 3月15日の確定申告期限に向けて、1年にほぼ1回しか使わないICカードリーダーを本棚から引っ張り出してシステムにアクセスして驚いた。電子証明書(申請者本人であることを電子的に証明するもので、住民基本台帳カードに登録されている)の有効期限(発行後3年間)がこの1月27日で切れているとのことだ。有効期限があるのを忘れていたのにも理由がある。電子証明書が登録されている住民基本台帳カード自体の有効期限(10年間)は、カード上に2019年1月27日までと明記されているので、それについ引きずられのんびりしていたのだ。
 本稿では、電子証明書の更新の際に手数料500円を取られたことと、そのため、せっかく電子申告で税務署の手間を省くのに協力しているのに、利用者が損をしているという不満を述べたい。合せて、確定申告以外の電子申請にもトライしようとしたが、使えなかったとの状況も説明する。
1) 電子申告とは
 キーとなる概念で紛らわしく誤解されやすいものを3種類、あらかじめ説明しておく。
 第1は、国税庁ホームページの確定申告書作成コーナー*1でサポートしている確定申告書には、a)書面提出の作成支援と、b)更にインターネット送信と2つあることだ。a)は大変優れたシステムで非常に使い勝手がいい。このホームページで作成し、家のプリンターで印刷した書面は、印鑑を押せば、そのまま税務署に提出することができる*2
 b)のインターネット送信がここでいう電子申告(e-Taxとの愛称)だ。3年前から始めたが、なかなか面倒で人には勧めていない。当時読んだあるブログに、「(e-Taxのページにヘルプがあるが)ヘルプのリンクの先は、どんどん、問題が拡散してゆき、循環参照や袋小路が満載」てなことが書いてあったが、同感で、その他の設定、実際の送信も大変だった。この電子申告を行うには、次の電子証明書が必要だ。
 キー概念の2番目がこの電子証明書だ。これは公開鍵方式を用いた本人確認の方法で、インターネット上の電子署名や暗号送信に用いられる。e-Taxの場合、「公的個人認証サービス(JPKI)」が使われており、それには、市区町村発行の「住民基本台帳カード(住基カード)」が用いられる。ややこしいが、住基カード上に電子証明書が登録されるので、この2つは別のことだ。
 第3のキー概念は、所得税の電子申告には2種類あり、本人が行うものと、税理士が代理送信するもので、後者の場合には本人の電子証明書を用意する必要がない。国税庁の発表している電子申告の統計は、この2つを区別していないが、税理士の代理送信が多いと推測する(後述)。
 本稿で論じる確定申告の電子申告は、国税庁の確定申告書作成コーナーのe-Taxのページから、住民基本台帳カードに登録されている電子証明書を用いて、本人が申告するものだ。

2) 電子申告のコストとメリット
 本人ベースのe-Tax(確定申告の電子申告)を行う場合、あらかじめ市区町村役場で、住民基本台帳カードを取得し(世田谷区は1000円だが、全国同じのよう)、次いで同じ役場で公的個人認証サービスの電子証明書を取得して(500円)住基カードに登録する必要がある(電子証明書は目には見えない)。更にこの電子証明書を読み取ってパソコンからインターネットでの送信に供するICカードリーダー・ライターを購入することが必要だ。ICカードリーダー・ライターは2-3000円ぐらいだ。もちろん、パソコンとインターネットに接続できる環境が必要。
 次に事前準備が必要で、3年前にやったことなので具体的な詳細は忘れたが、国税庁のホームページにアクセスし、ソフト(e-Taxソフト)をダウンロードしてインストールしたり、初期設定をしたり、いろいろ面倒だった。
 インセンティブとして電子申告の場合の税額控除5000円が1回だけある(すなわち、2年目以降の税額控除は無い。今年から4000円、来年は3000円と減額されている)。私の場合、3年前に上述のように、1000円プラス500円プラス約2000円(ICカードリーダー・ライターの価格だがもう少し安かったかも知れない)の初期投資として約3500円ぐらい出費した。従って金銭的メリットは約1500円(1回だけ)だ。あまりにもメリットが少ないので、書店にある電子申告の解説本は買わないこととし、使い方はもっぱらウェブページに頼った。言い換えると、相当の時間を使ったということだ。税額控除5000円1回だけではとても割に合わない。
 その後、e-Taxの普及拡大に向けた各種の対策が取られてきた*3。例えば、確定申告期間中は24時間受付など便利だ。それから第3者作成の添付書類の送付が不要とされていることも便利で、例えば、医療費税額控除の際の病院発行の領収書の添付が不要というのが画期的だ。すなわち、国税庁のHPの画面から病院・薬局別(疾病別)の額を記載して申告すれば、病院・薬局発行の領収書は手許に2年間保存して置くだけでいい。証拠書類を提出しなくていいというので吃驚するが、この書類を郵送などで提出させていては電子申告の意義が無くなるということからの措置であろう。病院・薬局からのデータとの突合せも可能なのかも知れない。
3) 電子証明書の再発行手数料
 冒頭で述べたように、電子証明書の有効期間は3年で、再発行のためには区役所に行かねばならず、かつ500円の再発行手数料が取られた。10年経つと、住民基本台帳カードも有効期限が過ぎ、再交付の手数料が取られそうだ。これでは、3年前の税額控除5000円から初期投資額を差し引いたメリット約1500円が無くなってしまう。
 前項で述べた電子申告のメリットは、税額控除5000円を除き、メリットというよりも電子申告に伴う不便を可能な限り低減させようということに過ぎない。電子申告の普及で税務職員の事務量は減っているはずだから、それを利用者にも還元すべきではないか。
 ということで、電子証明書の再発行は、地方自治体関係の経費であってそれの無料化は難しいと思われるので、便益を得ているはずの国税関係で、毎年の税額控除を設けるなどの優遇策を設けてほしいと思う。この旨は、電子申告の後に用意されているアンケート(任意)の中でも記載しておいた。
4) 公的認証サービスの利用状況
 1)で述べた「公的個人認証サービス(JPKI)」は、都道府県知事が発行する電子証明書で、国の機関を含む各種の行政サービスで利用できるそうである。所得税の確定申告は年1回だが、電子証明書の再発行に500円払わなければいけないとすると、他のサービスでも活用しようかと考え、「公的個人認証サービス都道府県協議会」の「公的個人認証サービスのポータルサイト」で、「ご利用できる行政手続き等」を調べた*4。しかし、法人向けのサービスばかりのようで、一般の個人が使えそうなものは見当らなさそうだ。いろいろ見ていたら、共済年金の支払い金融機関の変更が自宅のパソコンから電子申請できるとあるのを見つけ、ちょうど銀行の変更をしようと思っていたので、トライすることとした(http://www.jinji.go.jp/shougai-so-go-joho/income/2_10.html)。2004年7月から実施しているとのことで、共済組合のHPにアクセスしたが、電子申請は、2007年4月から休止していると記載されていてがっかりした(http://www.kkr.or.jp/nenkin/nenkinindex4.htm)。他のページを見ていても電子政府(eGov、イーガブ)の掛け声の割には、少なくとも個人向けのサービスについては、それほど活発ではなさそうだ。
 所得税申告でe-Taxを利用している件数は、国税庁資料によれば2010年度で863万件との統計がある(http://www.e-tax.nta.go.jp/topics/22pressrelease.pdf)。電子申告の複雑さを考えると、私にとっては信じられない数字だ。税理士を通じた代理送信の場合、公的個人認証サービスの電子証明書は、各個人が取る必要はない。2009年2月末現在で電子証明書の発行件数は累計で104万枚*5という数字があるから、電子申告の大部分は税理士の代理送信であろうと推測できる。
5) 最後に感激
 確定申告の電子申告について、若干否定的なことを連ねてきたが、最後に感激したことを述べる。私の今年の申告は、事情があって結果的に追加納税であった。納税するには、税務署から納付書をもらってきて納付する方法があるが、税務署に行くのは論外なので、銀行振込にしたい。その場合には振込先税務署や納付番号等を記載しなければならず、これはインターネットバンキングによる振込を利用しても同じで若干面倒だ。
 ところが、電子申告を終ってから、「e-Taxソフト」を使って納付番号通知を税務署から貰い(短時間で返事が来る)、それから画面上の「インターネットバンキング」のボタンをクリックすると(途中の振込銀行の指定とその銀行口座へのログインは必要だが)、先の税務署、納付番号、納付金額等のデータが全て入力された画面が現れる*6。後は、取引銀行のパスワードを入れて「送金」とすればいいから便利だ。
 誠に詰らないことだが、この爽快さで、今までの苦労が報われた感じだ。

*1:国税庁https://www.keisan.nta.go.jp/h23/ta_top.htm

*2:自分で計算しなくても自動的に計算してくれる。自分がするのは検算程度でいいし、申告書をきれいに浄書しなくていいというのは本当にストレスが無くて素晴らしい。私の友人間でも評価が高い。私は、2004年分の確定申告までは手で書き、2005年分の確定申告からはこの国税庁のHPを利用した。次に述べる電子申告は2008年分の確定申告、すなわち2009年3月申告期限のものからだ。

*3:e-Taxの普及拡大、http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/densihyouka/kaisai_h20/dai6/siryou2_1.pdf

*4:公的個人認証サービス、http://www.jpki.go.jp/jpkiguide/admin_proce/index.html

*5:総務省 http://www.soumu.go.jp/main_content/000010840.pdf

*6:これは、公共料金等のネット支払いに使われている「ペイジー(Pay-easy)」の1種。