遺影の撮られ方

 新聞に入っていたチラシに、「ステキな遺影の撮られ方」という講演会の案内があった。

 写真にあるように、主催は、「一般社団法人 シニア法務サポート」という所で、「独立行政法人 福祉医療機構」の「社会福祉振興助成事業」(http://hp.wam.go.jp/guide/jyosei/outline/tabid/178/Default.aspx)というから、厚生労働省からの補助金の事業であろう(チラシの上部に書いてあるが色の関係で見にくい)。「遺影」以外の講演は「相続の基本」で、事業全体のタイトルは「シニア法務を楽しく学ぶ集い−明るい終活だ。取りあえず他の講演には関心が無く、「遺影」のみに参加申込みをした。以下、参加の経緯と講演の概要。
(参加申込みの経緯)
 私は小さい時から写真が苦手で、学齢少し前の頃、家族で写真館に行ったが、嫌でたまらず1人だけ外に逃げ出した。それで、私だけが抜けた家族写真が実家のアルバムに貼ってあって、大きくなってもからかわれた。その後の青少年期の写真を見ても、表情が強張っていたり、にやけていたり、全く正視できない。もっと大きくなっても事情は同じで、弊ブログ(「フェイスブックと似顔絵」 id:oginos:20111211)にも書いたが、フェイスブック用の顔写真を自分でも撮り、他人にも撮ってもらったがうまく行かない。結果、町の似顔絵さんに描いてもらったのを載せた。それで、かねていい写真がほしいと考えていた。
 遺影については、66歳の自分にとってまだ早すぎるのは確かだ。ただ、3年前に亡くなった義母の遺影が実にいい笑顔で、参列者を幸せな気持ちにさせるような写真だった。私の写真は何れもこわばっていて、かえって参列者を不安にさせるようなものばかりだ。まだ頭がはっきりしているうちに、遺影候補を用意しておいた方がいいかと考え出した。そのためには、写真の撮られ方を勉強しておいた方がいい(フェイスブックの時に、撮られ方をウェブでいくつか調べたが釈然としなかった)。そうでないと、また似顔絵を祭壇にということになるかも知れない。
(講演会の概要)
 以上が、講演会の案内に飛びついた次第だ。当日はスーツ、ネクタイで行こうかと思ったが、それでは祭壇用の遺影を無料で撮ってもらおうとの魂胆が丸見えなので、普通の格好で行った。
 50分間の講演は、六本木の写真スタジオの人が講師で、実例で説明するとのことで、先ずモデルのボランティアが募られた。受講者は女性5−6人と男性が私1人なので、女性1人と男性の私の2人がモデルになった。先ずbeforeということでそのままの写真を撮り、次に顔とヘアのメークをしてafterの写真を撮られた。
 私のメークは短時間だったが、女性の方のメークは時間が掛かっていた。私が施されたメークの内容を聞いたら、ファウンデーション、軽く口紅、髪にやや膨らみをとのことだ。afterの写真は10数枚撮られ、プロジェクターでその都度提示される。これがいい、あれがいいと参加者(何れも年配の女性)の批評がかまびすしく、恥かしいことこの上ない。
 講演で紹介された撮られ方のポイントをいくつか紹介する。
 服の色は白か白っぽいのが顔色に映えるそうだ。毎日鏡を見て、気に入った顔を探しその顔をする練習をしておく。座るとか手を膝につけるとか変化をつけるといい。私は特に、どうしたらいい笑顔にできるかを聞いた。大きく口を開けてアー、イーなどと言って口元をほぐしてから口元をゆるませるといいそうだ。
 メークについては、チークとか眉とか言っていたがよく判らない。ヘアについては、顔回りはすっきり(髪が顔にあまりかからないとの意か)、髪自体はほどほどのボリューム感をとのことだ。
 撮られ方と言っても、私が期待していた、素人写真での「撮られ方」ではなく、プロの写真スタジオでの「撮り方、メークの仕方」だ。すなわち、遺影は写真スタジオでということで、講演の最後には、講師のスタジオでの予約の勧誘があった。メーク1時間、撮影1時間のセット価格は相当で年金生活者には辛い。また考えてみると、遺影プロパーの話はあまり無かったようだ。
(写真) 

 本当はここで話を終りたいが、それでは読者に悪いと思うので、恥を忍んで撮ってもらった写真を掲載する。
 10数枚撮られたうちから、撮影者が勝手に選んだ2枚をA4版の大判光沢紙に印刷してくれ(無料)、更にbeforeの1枚も含めて3枚のファイルを後でメールで送ってくれた。最初がメーク前のbefore、後の2枚がafterだ。笑顔は私が頼んで笑顔を作ったもの、肘をついているのは、撮影者が渋めのポーズのものも撮りましょうと言って、無理にポーズを取らされたものだ。
 無料で撮られ写真まで貰っているので言い難いが、何れもぎこちなく、にやけた顔で私としては不本意だ。やはり写真屋さんは苦手で嫌いだ。子供の時の方が自分の心に正直だった。齢を取ると厚顔になる。ちなみに、先に述べた義母の遺影は、素人のスナップ写真から抜き出して拡大したもので、自然な笑顔がよかった。
 講演で得た知見は、今後鏡をよく見て研究すること、笑い顔の練習をすることかと思う。推奨されていたスタジオでの撮影は予算の面からも難しい。
 国民の税金がこんなことに遣われていていいのかと思うが、参加者の皆さんは楽しんでいたから、老人ホームへの慰安イベントみたいに考えていいのだろう。
 なお、これらの写真の著作権は撮影者にあるが、ウェブ掲載については一応了解を得た。撮影者は、講師の木村武士氏(六本木写真スタジオ GADPA(ガッパ)取締役)。