基金設置法人とは

 昨2010年の我が家は、家電エコポイントや住宅エコポイントのお世話になった。そのこともあり、エコポイント制度のことを調べていて、奇妙な団体を見つけた。「一般社団法人 環境パートナーシップ会議(EPC)である。
 これらのエコポイント制度には、国からの事業資金を管理する「基金設置法人」と消費者へエコポイントを交付する等の業務を行う「事務局」が設置されているが、このEPCは、各種エコポイント等の制度の基金設置法人として指定されている。2010年に、この職員10名の法人に設置された基金の合計は、約6,500億円だ。
 先週の「理研」に続いて、大きな「利権」がらみの話かと期待されるかも知れないが、そうではないと思う。本稿では、もっぱらウェブの情報に基づき、簡単に1)エコポイント等の制度のあらまし、2)同法人の概要を紹介し、3)若干の私見を述べたい。
1) エコポイント等の制度の概要
 「一般社団法人 環境パートナーシップ会議(EPC)」が関係しているエコポイント等の制度は、次の3種類である。何れも2009年度補正予算による事業だ。
a) 家電エコポイント
(事業規模) 2,946億円、(基金設置法人)EPC、(事務局)グリーン家電普及推進コンソーシアム(電通他計7企業で構成)
b) 住宅エコポイント
(事業規模) 1,000億円、(基金設置法人)EPC、(事務局)環境対応住宅普及推進コンソーシアム(一般社団法人住宅瑕疵担保責任保険協会に加え、電通他計6企業で構成)
c) エコカー補助金
(事業規模) 2,608億円、(基金設置法人)EPC、(事務局)一般社団法人次世代自動車振興センター
 各制度のフレームはほぼ同じ形であり(細かい違いはあるかも)、基金設置法人と事務局は公募されている。例えば、住宅エコポイントについて、国土交通省経済産業省環境省が連名で発表した.環境対応住宅普及促進対策費補助金公募要領(2010年1月)*1では次のようである。
 基金設置法人の業務は、国から交付を受けた資金でエコポイント事業を実施する「基金」を設置し、その管理、運用を行うことと、国が(別途公募して)定める「事務局」に対し、その「基金」を用いたエコポイント業務を委託することである。両者とも、その活動については、担当各省の(細かい)指導を受けている。
 公募要領によれば、基金設置法人の資格は、「一般社団法人一般財団法人その他の非営利法人」とされている。公益法人については、公募要領中の採択基準の1つに、「行政支出総点検会議の指摘事項(平成20年12月1日)*2における公益法人への支出に関する指摘を踏まえたものであること」と記載されており、この指摘事項の意味は公益法人への国の支出を抑えるということなので、明示的に排除されている。
 基金の運用は、信託銀行に委託するよう規定されているので、楽な仕事のように思える。このような複雑な制度としたのは、思うに、補正予算では、翌年度以降に事業がずれ込むことが確実だったので、補正予算の年度に一括して国庫から支出できるようにしたものであろう。

2) 一般社団法人 環境パートナーシップ会議(EPC)の概要
 同法人のホームページ(http://www.epc.or.jp/)によれば、

設立日:2006年12月20日
職員数:10名
基 金:300万円

という小規模な団体だ。役員名簿中には、公務員のOBはいないようである。
 2006年に、「有限責任中間法人環境パートナーシップ会議」として設立され、2008年の一般社団法人・財団法人法の施行後に一般社団法人に組織替えしたものであろう。
 法人のミッションとしては、「さまざまな“つなげる”をプロデュースし、発信する」など抽象的なことが書かれている。具体的な事業としては、全国各地の環境関係団体をつなげるためのいろいろなことを行っているようだ。
 同ホームページによれば、EPCの事務所は、青山の国連大学のビルの1階の「地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)*3内にある。何時も机上のパソコンの画面を見ているだけでは体に悪かろうということで、昼休みにEPCを見に出かけた。地下鉄の表参道の駅から歩いて5分ぐらいの国連大学ビルの向かって右のサイドの1階に、地球環境パートナーシッププラザの展示場があった。私の目分量で150平米から200平米ぐらいの広さ。周りの壁はガラス張りで気持がいい。中は、各種環境関係の団体の展示物が並べられ、その他に環境関係の図書棚、会議等を行う多目的机、執務机の並ぶスペースがある。目立った仕切りがなく、外のガラス壁もあり、オープンな感じでゆったりしている。私は10分ぐらい中をうろうろしていてたが、木曜の昼休みだったせいか他に訪問客はいなかった。職員は、昼食当番(?)の職人が1人いて、パソコンの画面を見ていた。
○ GEOCの外観(右から奥の方に、展示室、多目的室等が続く)

 GEOCは、1996年に創設され、国連大学環境省の予算で運営されているとのこと。EPCGEOCとの違いは、よく判らないが、一体的に運用されているようだ。例えば、Webに載っているGEOCの2009年度事業報告書の表紙では、作成者はEPCである。EPCは法人だが、GEOCは、名称から見て法人格はなさそう。活動か場所を指す名称だろう。
 GEOCの事業計画、事業報告書には、予算額、決算額等費用面の記述は無い。EPCについても、予算、決算関係の情報はWeb上では見当らない。一般社団・財団法人は、ホームページで公開する義務は無いが、従来型の公益法人は、政府の通達により、財務諸表等を公表する義務があり、大きな違いだ。ただ、上述のとおり、役員名簿は掲載されている。理事長名もホームページ上に掲載しない某一般財団法人*4よりはましか。GEOCのホームページにはは職員紹介のページがあり、その中に公務員の出向者がいることも判る。*5

3) 私見
 幾つかの点で私見を述べたい。
a) 基金制度
 事業に要する資金は、国費であるから、経費支出が実際に発生する(エコポイントが商品等に交換される)までは国庫で管理するのが通常だと思う。経費発生の前に、民間の法人に全額を拠出し、運用も認めるのはどんなものか(運用の果実は勝手に使えないようではある)。ただ、基金制度の前例が無いわけではなく、今回の場合は、補正予算で翌年への事業の繰越が予定されたから、事前に交付したとの説明は可能だろう。(国庫に置いたまま、繰越明許とするとの方法も無い訳ではない)
b) 一般社団・財団法人に限られている
 基金設置法人の資格として、企業等や上述のように公益法人を明示的に排除している。その結果、設立後4年余りしか経っていない職員10名の小さい法人が指定されたが、これで業務実施体制として大丈夫かと心配になる。非営利法人のうち、公益法人を除外して一般社団・財団法人に限る趣旨が、論理的に理解できない。
c) 基金設置法人が1つの法人に集中している
 エコポイント等3種の事業の基金設置法人が、このようにEPC1法人に集中しているのは、やや異様に見える。基金の管理業務というのは、特に特殊な業務ではなく、他にもできる法人は多い。ただ、一般社団・財団法人という制限を前提とすれば、2009年度にはこのような一般社団・財団法人は多くなかったからかも知れない。
 しかし、1年後の2011年1月に事務局の公募が始まった「イノベーション拠点立地支援事業」の事務局の公募要領*6(2011/1/28 経済産業省)では、「一般社団法人環境パートナーシップ会議(以下「基金設置法人」という)との契約に基づき」とされている。すなわち、EPCが重ねて指定され、しかもこの補助事業の場合、前述のエコポイント等と異なり、公募をせずに基金設置法人を指定したようである。事業規模300億円と前述の事業より1桁小さい規模だから、公募せず、実績の多いEPCを指定したのかも知れない。また、役所の前例踏襲主義の表れだったかも知れない。
d) 信託銀行
 基金設置法人は、基金の実際の運用を委託する信託銀行を指定することとされている。EPCは、上述3事業の信託銀行として全てみずほ信託銀行を指定した(EPCのホームページで公表)。運用規模合計は、前述のとおり6,500億円。EPCは、複数の信託銀行と取引するのが苦手なのかも知れない。
e) 情報公開
 上述のように、EPCの財務状況はWebでは公開されていない。事務所の場所がガラス張りでオープンなのに比して不透明だ。基金設置法人としての業務に係る幾ばくかの事務経費は基金の中から負担されているはずだが、その予算額は、現時点で公開されていない。不明朗なことがあるとは思わないが、不透明だ。上場企業は有価証券報告書で財務状況を公開している。公益法人もここ10年余りの指導監督基準の見直しの結果、財務諸表を含む情報をWebを通じて公開するようになっている。世の中、情報公開への要請は高く、かつ相当に進展してきている。
 一般社団・財団法人に対する現在の規制は、この情報公開の方向に逆行していると思える。全ての一般社団・財団法人に情報公開を義務付けることは適正とは思えないが、国からの相当規模以上の資金を受けて事業を行う法人は、一般社団・財団法人であっても、その国の事業に係る収支の状況の公開を義務付けることも検討すべきでないか。また、併せて、法人全体の財務状況を公開している法人でないと、相当規模(例えば1億円)以上の資金を国から交付できないとする措置も検討すべきかと考える。趣旨は、情報公開を通じての国費を使う事業の更なる適正化と透明化である。ただし、中小企業振興や企業秘密の観点があるので、これは、一定規模以下、又は純粋競争入札*7で決定されるような取引には適用されないとの配慮も必要であろう。
以上

*1:http://www.mlit.go.jp/common/000056303.pdf

*2:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tenken/081201/siteki.pdf

*3:http://www.geoc.jp/

*4:http://www.cerij.or.jp/ceri_jp/index.html

*5:このようなことを書いていくと、情報公開度が今後益々低下することが心配だ。

*6:http://www.meti.go.jp/information/downloadfiles/c110128a01j.pdf

*7:純粋に価格競争だけで決定される入札のことで、この場合、不正や国費の浪費の可能性は少ないと考える。企画内容を競う取引で相当規模以上のものについては、その企業・法人の財務処理の透明さを審査要件の1つにしてもいいのではないかと思料する。