シルバーマーク

 満70歳でドライブすることになったので、シルバーマークを買った。ひと昔前には、枯葉マークとかもみじマークとか言われていたが*1、2011年以降はデザインも代わり、四つ葉のクローバーに似たものになった。正式名称は高齢運転者標識、愛称はシルバーマーク又は四つ葉マークと言われる。
 70歳になって、「加齢に伴って生ずる身体の機能の低下が自動車の運転に影響を及ぼすおそれがある」、すなわち若干自信の無い人は、付けるよう努力することが求められる。75歳以上の人は法文上は義務だが、その適用は停止されている(後述)。
1)  「前及び後」か「前又は後」か
 たまたま誕生日の翌日から、家人と自動車で長野県蓼科へ旅行することになり、かねて運転を禁じられている私も運転することとなった。シルバーマークを付ければ周囲の運転手が優しくしてくれるだろうと考えた。旅先にあった大きなスーパーで、取りあえずマグネット式を1枚買って車の後ろに貼り付けた。
 他の車から変な目で見られるなどの不具合もなく(当り前だが)、むしろ水戸黄門の印籠のような気持にもなれる。それで後部だけでいいのか、前部も付けた方がいいか調べた。これはネットでも質問が出ている。例えば、 http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1216850237 (ヤフーの知恵袋)

 「取り付け説明が「前及び後に」という説明と「前または後に」という説明があり困惑しています」という質問で、回答は、道路交通法に規定があるので、「前及び後」が正解とのことだ。

 このネットの質問で、「前又は後にとの取付け説明もある」というのが気に懸り、自分の買ったマークの説明文を見た。「表示位置について、地上0.4メートル以上1.2メートル以下の位置に前方又は後方から見やすいように表示するものとする(道路交通法施行規則 第9条の6関係)」とあり、他に、「前及び後」に必要との説明はない(ミラリード社製品)。これでは、片方だけでいいと思っても無理はない。
 この誤解の原因は、法令の記述の仕方と引用の仕方にある。「前及び後」に付けることは法律に明記してある。施行規則の方は、法律の委任を受けて付け方を定めている。具体的な付け方は、a)地上0.4mから1.2mの位置、b)前方又は後方から見やすいように、という2点だ。前部に付けたマークは「前方から」、後部に付けたマークは「後方から」との趣旨だ。この施行規則だけの引用では、規制の本旨は正確に伝わらないだろう。

道路交通法第71条の5第3項
…70歳以上75歳未満のもの[75歳以上については後述]は、加齢に伴って生ずる身体の機能の低下が自動車の運転に影響を及ぼすおそれがあるときは、内閣府令[次の道路交通法施行規則]で定めるところにより普通自動車の前面及び後面に内閣府令で定める様式の標識を付けて…運転するように努めなければならない。

道路交通法施行規則 第9条の6  
 法第71条の5…第3項…に規定する標識は、地上0.4メートル以上1.2メートル以下の位置に前方又は後方から見やすいように表示するものとする。

 法律上も前後両方だし、当人の安全の面からも印籠は沢山あった方がいいだろうと、もう1つ買うことにした。

2)  マグネット式か吸盤式か
 シルバーマークにはマグネット式と吸盤式とがある(初心者マークも同様)。私は当然のようにマグネット式を買った。理由は脱着が容易なことで、a)まだ60代の家人が運転する時に容易に外せる、b)レンタカーやカーシェアを利用する時に持参すれば、容易に活用できる、ということだ。
 前部に付けようと2枚目のマグネットを買ったが、我が家の車の前部には、何故か貼りつかない。後部や側部(ドア)の材質はスチールのようで、ピタリと貼りつくが、前部は、ボンネットを含め、一切付着しない。「前方から見やすい」状況にはとてもならない。それでも静電気等で大丈夫かと思って、ボンネットの上に置いて走ってみたが、15分も経たないうちに剥がれた。644円が宙に飛んで行ってしまった。
 思い直してスーパーの隣の100円ショップに行って見たら、マグネット式も吸盤式もあり、108円だ。吸盤式を買い、車の前部のボンネットの下部に取り付けた。吸着状況が今一つ心もとなかったが、1時間ほど走行して駐車場に置いて30分ほどして戻ってきたら、何故か剥がれて駐車場の地面に落ちていた。

 吸盤式の説明書を見ると、車内のリアガラス専用で、外部やフロントガラスには貼りつけないでと書いてある。フロントガラスは駄目というのが気に懸るが、フロントガラスの内側に貼ることとした(写真)。ネットで見ると、フロントガラスに貼り付けられるものには法的規制があるらしく(運転者の視界確保の観点)、そのポジティブリストにこのマークは入っていないとのこと。ただ、警察が摘発することはないだろうとのコメントもある。我が家の場合、マグネット式では、「前方から見やすい」ところに付けられないとの弁解ができそうだ。
 以上まとめると、

  • マグネット式は、脱着が容易(運転者の年齢に応じた対応が容易、持参してレンタカーやカーシェアにも装着が可)の利点の反面、磁気が利用できない材質がある、盗られる可能性があるという問題がある。
  • 吸盤式は、外部での装着に(大いに)問題がある、ガラスに内部から貼り付ければ盗まれる可能性は無い、フロントガラスへの貼付けには法的問題がある、などが指摘できる。

3) その他
a) 75歳以上の人について義務化規定の経緯
 シルバーマーク表示制度の経緯は、先ず1997年に75歳以上を対象に努力規定として導入され、2002年に70歳以上に拡大された。これを75歳以上について、単なる努力だけではなく義務化するという法改正が2007年に行われ、2008年6月から義務化されることとなった。ところが、「後期高齢者医療制度問題」のあおりを受け、同じ75歳ということで問題になり、翌2008年4月には道交法改正により同法付則で、当分の間努力規定とされることとなった。
 法律条文の好きな方のために原文を示す。これは、改正法の付則ではなく、元の法律の付則への条文の追加という形を採っている点で、珍しい事例だと思う(私の知る限りだが)。

道路交通法第71条の5第2項
 …75歳以上のものは、内閣府令で定めるところにより普通自動車の前面及び後面に内閣府令で定める様式の標識を付けないで普通自動車を運転してはならない。
道路交通法付則第22条
(高齢運転者標識表示義務に関する当面の措置)
 第71条の5第2項の規定は、当分の間、適用しない。この場合において、同条第3項中「70歳以上75歳未満」とあるのは、「70歳以上」とする。

b) 70歳未満が運転する場合に付けると違反か
 家人の関心は、70歳未満についての対応で、もちろん義務規定もなく、努力規定もない。では、70歳未満の人が付けると違法になるかということだが、余り問題にならないだろうと言っておいた。しかし、どうだろう。見るからにもっと若い人が取り付けて、傍若無人で走ってもいいのだろうか。
c) 結果
 水戸黄門の印籠のお蔭か、今回の旅行では延べ600km近くを運転してきたが、事故もなく無事に帰宅できてほっとした。

*1:運転免許取得後1年間は義務づけられているのは、初心者マーク、通称若葉マーク。