スカイツリー講演会

 友人が、東京大学の五月祭で、「東京スカイツリー・オープン記念講演会」があると教えてくれた。五月祭は殆ど行ったことがなかったが、設計会社と建設会社の人が講演すると聞いて面白そうなので行った。オープン2日前の5月20日(日)の昼12時から午後2時半まで。場所は理学部1号館の、小柴昌俊名誉教授のノーベル賞受賞を記念して命名された「小柴ホール」(176座席)。
 講演者は、設計した(株)日建設計の土屋哲夫氏と建設した(株)大林組の高木浩志氏。http://www.a103.net/may/85/visitor/kikaku/sky.php
 講演はプレゼンも丁寧で面白かった。スカイツリーの概要、技術については、いろいろ報道されているし、長くなるし、理解できないことが多いのでここでは紹介しない*1。周辺的なトピックとして私が興味を持った、1)一番苦労したこと、2)世界の超高層ビルとの比較、3)溶接工法、その他について紹介する。
1) 一番苦労したこと
 フロアからいろいろ質問が出て、その1つに、1番苦労したことは何か、との一見詰らない質問があったが、大林組の人の回答が面白かった。いわく、建設工事の途中から予想外に人気が高まり、写真を撮ったり、工事現場をのぞきに来る人が多くて当惑した。嬉しいことではあったが、現場の人はもちろん、建設会社の人も慣れていなくて、その対応に戸惑った。慌ててインフォメーションセンターの整備、広報資料の作成などをしたとのことだ。
 私も機会があって(を見つけて)工事途中に2度ほど見に行った。完成後もプラネタリウムと併せて見に行った。インフォメーションセンターは有難かったが、一般に作業現場を十分覗けないのは残念だった。私のかねての持論だが、日本のものづくり再興の基盤は、若い人の理科離れを食い止めることにあり、そのためには、小学生の頃から(成人に至るまで)ものづくりの現場を見せ、関心を持たせることが重要だと思っている。具体的な方策としては、工場の恒常的又は定期的なオープンハウス*2などが有効と思っている。建設業においても、工事現場の外囲いの撤廃ないし透明化などを進めて貰えたらと思っている。
2) 世界の超高層ビルとの比較
 私が質問したことの1つを紹介する(他は技術的な話でちょっとややこしい)。スカイツリーは、世界で最も高いタワーだとされているが、超高層ビルでもっと高いものがある、例えばドバイのホテル・レジデンス・ビルは800m以上だ。それで、タワーと超高層ビルとはどちらが技術的に難しく、コストもどれくらい違うのかとの質問だ。
 というのは、事前に家で調べていたら、塔でというとスカイツリーは確かに世界1の高さだが、超高層ビルだともっと高いのがあって(建築中を含む)、これをどう評価していいか判らなかったからだ。
(表) 世界の塔の高さランキング(支線式鉄塔を除く) http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A1%94%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7

順位 名称 高さ 位置 竣工
1 東京スカイツリー 634m 日本 2012年
2 広州塔 600m 中国 2009年
3 CNタワー 553m カナダ 1976年

(表)世界の超高層ビルランキング2011 http://www1.ocn.ne.jp/~siesta/sintokyo-tawer.htm

順位 名称 都市 高さm 階数 竣工年
ブルジュ・ハリファ ドバイ UAE 828 163 2010
インデアタワー ムンバイ インド 700 126 2016
平安国際金融センター 深〓 中国 660 115 2015
東京スカイツリー 東京 日本 634 - 2012

 講師は少し困ったようで、いろいろ条件があるとして、ドバイは地震が無いから超高層を建てやすいこと、超高層建築物は縦長の形になるほど難しいこと((スカイツリーの場合、高さ634mに比して底辺68m、例えば東京タワーの場合、高さ333mに比して底辺95m。ドバイの場合、中・低層階の面積は広い。)など説明し、スカイツリーは、(ドバイの828mより)技術的に大変だと述べた。本当かどうかは判らないが(やはり高いのは難しそう、単なる塔より人が何時もいるビルは居住環境、安全等で難しそう、など)、少しいじわるな質問かも知れないと思い、それ以上追求しないことにした。
3) 溶接工法
 スカイツリーの3つの特殊技術として、ナックルウオール、リフトアップ、スリップフォームが挙げられていて、それ以外にもいろいろな技術の紹介があり、説明は省略するが面白かった。私が興味深く思い、特にここで紹介したいのは、構造鉄骨の組立てに全て溶接が使われたことだ。497mの高さまでのタワーの構造は、全てパイプ状の鋼管(最大直径2.3m)を組み上げている。鋼管は工場で製作して最大4mまでの長さに短く切って現場に持ち込み、現場ではこれらの鋼管合計2.5万ピース、4万トンをクレーンで持ち上げ、人間が手作業で溶接していく。ベテラン溶接工の確保が大変だったとのこと。リベット(鋲)で留める部分は見られないようだ。
 これは東京タワー(1858年竣工、333m)の工法と大きく違っている。東京タワーは、鋼管ではなく鋼板をビレットとボルトで組み立てていったもので、それは写真を見ても判る。ウィキペディア(東京タワーの「建設」の項)によれば、用いたリベットは16.8万本、ボルトは4.5万本とある。東京タワーもスカイツリーも、工法は異なるが多数の職人の手により成ったものだ。
4) 余談
 東大5月祭の人出の多さにはびっくりした。構内の道路には食べ物の屋台が並び、週末の原宿以上の混み合いだ(時々原宿の眼医者に行く)。中高生等の若い人が多い。ゆったりした広場の写真を撮った。

 スカイツリーの記念講演会は、176座席の8割程度の入りで盛況だった。私は満席を恐れて30分前に行ったがそれほどではなかった。こちらは年配の参加者の方が多かった。

*1:例えば、文藝春秋2012年6月号の、森健「東京スカイツリー3・11の奇跡」。ちなみに同誌のこの号は私のブログで3回目の登場。

*2:近年役所では「オープンファクトリー」という言葉を使っているが、英語では「open house」だと思う。その意味で大学などでも施設の公開を「オープンキャンパス」と言っているが、open campusは放送大学的な意味であり、キャンパスの公開はやはりopen houseだ。