退職日と年金支給額

 偶数月の15日は年金の支給日だ。この6月上旬に今年度(4月以降)の振込予定額の通知があり、当然ながらその通知どおりの額が振り込まれた。この6月15日の年金支給額については、私の退職後の満額支給との理解だったが、不明な点があったので、日本年金機構の「ねんきんダイアル」に電話した。その結果、退職日によって支給額に異同が生ずることが判った。今後退職される人の参考のため報告する。
 先ず、今回の年金支給についての私の条件を概説し、次に退職日と年金支給額との関連を説明し、更に関連して年金支給額の算出の困難と不透明性、その他感想を述べる。
1) 私の年金条件
 私は、昨2011年7月に65歳になり、年金の満額支給が可能になったが、勤務を続けていたため、減額された在職老齢年金を支給されていた。この3月末に退職したので、4月から晴れて満額支給となる筈だった。年金の支給は、2か月分をまとめて偶数月に後払い。すなわち、4月15日に支払われた額は2月と3月分で、減額された在職年金だ。この6月15日に支払われたものは、4月と5月分で、満額を期待していた。
 次に、私の年金は、国家公務員共済組合の共済年金と退官後に再就職した法人からの給与に基づく厚生年金*1との2つある。共済年金については10年以上前に退官しているので、退職日による支給額の異同は無いし、6月の支給額はかねての理解どおり満額だったので、本稿では紹介しない。以下はもっぱら厚生年金についてのみの話だ。
2) 6/15の厚生年金の支払額
 年金機構から6月上旬に来た通知書によると今年度の支給額は次のとおりだ。ただ、通知書には2か月分計の支払額しか記載されていない。月別内訳は別途通知された年額から私が算出したもの。
(表) 私の2012年度年金(基礎年金、厚生年金)支給額 (単位:円)

6/15支払額 (2か月分) 8/15支払額 (以後同額) 5月分以降の年額換算
2か月分計 208,091   284,266
各月 4月分 5月分 6月分 7月分
月額 65,958 142,133 142,133 142,133 1,705,600
(内訳)基礎年金 57,758 57,758 57,758 57,758 693,100
(内訳)厚生年金 8,200 84,375 84,375 84,375 1,012,500

 注1) この他に共済年金からの支給がある。
 注2) この年金支払額から介護保険料等が控除された額が振り込まれる。
 注3) 基礎年金とは、いわゆる国民年金
 問題は、4月から無給になったのに、4月分が減額されていることだ。「ねんきんダイアル」での説明は次のとおりだった。

 3月31日に退職したということなら、資格喪失日(厚生年金加入者としての資格が無くなるという意味らしい)は翌日の4月1日になります。年金支払額の変更は資格変更の日の月の翌月からと決まっているので、4月までは従来どおり減額支給、5月から満額支給ということになります*2
(では3月30日に退職すれば4月から満額になるのか、との私の質問に対し) そのとおりです。3月31日が資格喪失日、翌月が4月ということになります。更に、3月は資格喪失の月ですから、厚生年金保険料も支払わなくていいことになります*3
(年金加入期間が減るということか、との問に対し) はい。加入期間が1月減るので、その分年金額が減ります。

 疑問は解決したが、釈然としない。
3) 退職日をずらせることによる効果
 前項の「ねんきんダイアル」嬢の言によれば、前日の3/30に退職すれば、在職年金による減額分が1か月、厚生年金保険料の支払い不要が1か月のプラス要因に対して年金の減額分のマイナス要因があるということだ。私の場合どの程度のものになったのかを試算した。

  • 在職年金による減額分 上記の表の5月分から4月分を引くと142,133−65,958=76,175円。
  • 厚生年金保険料の1か月分 私の退職前の実績は 50、877円/月。以上の2つを合せて127,052円のプラスとなる。
  • 年金の減額分 これは次項で述べるように面倒だが、基礎年金部分は60歳までの期間だから変化せず、影響を受ける部分は厚生年金の一部だ。私の試算では年額ベースで4,067円の減額だ(次項で述べるように確信無し)。

 この年額4,067円の減額が上記の13万円近くのメリットに達するには31年以上生き続けることが必要だ(あくまで私の試算)。
 考慮しなければいけないのは、退職日が1日早くなることによって給与がどうなるか、退職金のある人はどうなるかだが、それぞれの事情があろう。
4) 年金額の算出の困難
 年金額の算出は、かねがね面倒そうなので試みようとは思わなかったが、今回を契機に挑戦してみた。結論は、通知書に記載された金額は算出できなかったことと、年金機構の通知の不親切さだ(後述)。
 年金計算はいろいろな場合があって煩瑣なので、以下、私のケース(1941年4月以降出生、65歳以上の満額支給者の場合)について述べる(年金機構のHPでは、 http://www.nenkin.go.jp/n/www/service/detail.jsp?id=3902)
年金機構の年金は、基礎年金と厚生年金の2つがある。それぞれの算出は次による。

  • 基礎年金 786,500円×加入期間(幾つかの補正がある)/40年間
  • 厚生年金 「a報酬比例年金額」(2003年3月までの期間と2003年4月以降の期間と2つに分かれる)、「b経過的加算額」、「c加給年金額」の3つ(aを2つとすれば4つ)から構成される。

 例えば、a報酬比例年金額の2003年4月以降の期間については次の算式だ。
 「平均標準報酬額」×(7.308/1000〜5.481/1000)×「2003年4月以降の加入期間の月数」
 私の場合、742,057円×5.481/1000×108月 → 439,259円(年額) となる。
 問題は、年金機構からの通知書には、平均標準報酬額(2003年3月以前とそれ以降の2種)、加入期間(各種ある)が書かれているだけであって、上記の算出の場合の具体的数値の入った算式が示されていないことだ。計算結果の年金額だけ、すなわち上述の厚生年金額1,012,500円だけが通知される。これを構成するa報酬比例年金額、b経過的加算額、c加給年金額の内訳も無ければ、算出式も無い。年金機構の「ねんきんネット」サービスを見ても、年金支給額については紙で通知してくる以上の情報は無い。
 私は、年金機構のHPに加え、昨年買った「図解 わかる年金 2011-2012年版」(新星出版社、2011年6月)も読んで、試算しようとしたが、結局、上述の厚生年金額1,012,500円を算出することができなかった(私の計算では多くなったが、自信は無い)。ちなみに、共済年金の方の年金証書(65歳になった後の2011年7月28日付け)には、厚生年金相当額、経過的加算額職域加算額、加給年金額の各金額とそれぞれに具体的数値を入れた算式が記載してあって、算出根拠がフォローできるようになっている。
5) 感想
a) 退職日の1日違いの効果の問題
 前述の退職日を1日早めるだけで、12-3万円のメリットが出る(貰える年金額は、僅か毎年4千円の減額)ことについては、こんな制度でいいのかと思う。というのは、少し話が長くなるが、私の年代は、1961年以降の国民年金制度の本格的発足以降、真面目に保険料を納付してきたとの思いがあるからだ。私よりも10年以上古い世代では、年金制度が整っていなかったこともあって、十分な保険料を積み立てないのに、賦課方式なので相当の年金額を受け取っていたのではないかと思っている(もちろん高度経済成長がそれを可能にしていた面がある)。昔、義父が生きていた時、ごちそうになったのでお礼を言ったら、義父は年金があるから遠慮しないでと冗談ぽく言った。それで、その年金の財源は貴方の孫が払っていると言ったら、苦笑いしていたのを思い出す。義父たちの年代は、(もちろんその個人が悪い訳ではないが)自分の払った保険料よりも多額の年金を受け取ってきた筈だ。
 それに対し、私の年代は相当の保険料を支払ってきたと考える。もっとも少子高齢化で、我々より若い世代がこの年金問題では苦労しそうで、あまり偉ぶったことは言えないし、年金額が少ないと文句を言う積りもない。しかし、先ほどの1日違いの問題は、相当の保険料を払ってきた人たちへの制度運用の姿勢としては、あまりにも姑息だと思う。私は、無給になって(途方に暮れたとは言わないが)最初の4月分の年金が、資格喪失日(3月末)の翌日だから変更できず、丸1か月分支給できないと言われた訳で、そのような制度は優しくないと思う。
 私の場合は今さらどうしようもないが、これから退職される人は心得ておかれてもいいと思う。
b) 年金の算出根拠の不透明さ
 少し話は飛ぶ。今はどうか判らないが、10数年以上前に、JA(農協)が組合員には評判が悪いとの話を読んだことがある。組合員(多くは農家)は、農協との間で、農作物の販売委託、預金のほか、融資、商品購入、機械設備のリース等多様な取引がある。それで毎月農協から収支のステートメントを送ってくるが、その内訳が無く、ひどい場合は収支相殺した額しか記載してないそうだ。それで組合員が内訳を知りたいと言ったら、ちゃんと正しく計算してありますからと言って、教えてくれないとのことだ。私は実際、どのようなステートメントなのか知らないが、ひどい話だと思う。独占とお役所的仕事の弊害であろう。
 年金機構の年金支給額の通知もこれと同じ話ではないか。年金機構(その前身の社会保険庁も)が「消えた年金問題」等で大変だったし、それが今も続いているのは理解できる。しかし、もう年金記録の照合にそんなに膨大な金と人を投じる必要はないのではないか。当人からの申請を待ってから取り組むのでいいのではないかと思う。年金機構は、この問題に対処するために、年金加入期間の精緻化には努めてきて、年金定期便に加え、ネットでも確認できるようになっていて評価できる。しかし、年金支給額の算出を透明化し、被保険者、受給者へ具体的に提示することは全く不十分だ。農協組合員が期待するような、年金支給額の内訳を判りやすく説明できるような様式を用意してほしいと思う。
 私は2006年に新宿年金相談センター、昨2011年5月に世田谷年金事務所に、年金見込額を聞きに行ったことがある。コンピューターから白紙に出力したもので説明してもらったが、担当職員のチェック用かと思われるぐらいの判り難い様式だ。2011年は紙を4枚貰ったが、符牒のような項目名と数値が並んでいて、今見てもよく判らない。受給者にも理解できるような様式としてほしい。また、上記の「742,057円×5.481/1000×108月 → 439,259円(年額)」の例のごとく、具体的な数値の入った算式も記載してほしい。
 今、国会で問題になっている「社会保障と税の一体改革」の中で、年金機構も落ち着かないだろうが、大多数の国民に関係する業務であることを認識して頑張ってほしいと期待する。

*1:厚生年金基金ではなく、社会保険庁(今では年金機構)が運営するもの。

*2:改めて年金機構から送られていた「届出・手続きの手引き」を見たら、月末日の退職の場合、年金額の改定は退職月の翌々月からと書いてあった(p.21)。

*3:このことは、給与計算の際の基礎らしい。http://www.matsui-sr.com/kyuyo/1-3shaho-2.htm