介護保険料の年度内変動の怪
年金などの計算方法を調べていると、いろいろ面倒くさい。6月15日の弊ブログ「退職日と年金支給額」でもその事例を紹介した。本稿では、介護保険料の支払額が毎期変動する不思議について紹介する。65歳未満の人にとっては実感の無い話。以下、1)本稿に必要な介護保険料の知識、2)区からの介護保険料決定通知書の怪、3)区の説明、4)コメントを述べる。
1) 介護保険料の納付の概要
介護保険制度は2000年から開始された。本稿では、制度が対象とする介護サービスについての説明は省略し、もっぱら保険料のみが話題だ。本制度における「保険者」(保険契約において、保険金を支払う義務と保険料を受け取る権利を有する者)は市町村であり、私の場合東京都世田谷区だ(市町村によって保険料は相当異なるらしい)。
保険料を納付する者は、40歳以上の国民で、第2号被保険者(40歳から65歳未満)と 第1号被保険者(65歳以上)とに分けられる。大ざっぱにいうと、2号被保険者は各種健康保険料と併せて徴収され、1号被保険者は、各種健康保険料とは別に、原則として年金から差し引かれる(特別徴収)。65歳になったばかりの時は、事務的な問題のためか年金からの天引きはできないようで、しかし健康保険と併せた徴収はできないので、個別に区からの通知書に基づき納付する(普通徴収)*1。
私の場合、65歳になった昨2011年の7月から毎月7,400円を世田谷区に納付し始め(実際には口座振替)、今年2012年4月から、めでたく年金からの天引き(2か月毎)となった。
2) 区からの2012年度介護保険料決定通知書の怪
6月19日付けの標記通知書では、年度を2か月ごとに6期(年金の支払時と一致)に分け、次のように天引されるとあった。
2012年度 | 1期 | 2期 | 3期 | 4期 | 5期 | 6期 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
徴収月 | 4月 | 6月 | 8月 | 10月 | 12月 | 2月 | |
保険料額 | 14,900 | 14,900 | 24,900 | 24,600 | 24,600 | 24,600 | 年度計128,500円 |
更に、2013年度の当初3期分の予定も記載してある。
2013年度 | 1期 | 2期 | 3期 |
---|---|---|---|
徴収月 | 2013年4月 | 6月 | 8月 |
保険料額 | 24,600 | 24,600 | 24,600 |
介護保険料額は、前年の所得金額をベースにして、世田谷区の場合15段階に分れている。私の場合、この3月に確定申告した2011年の所得により第12段階、介護保険料年額128,500円とされた訳だ。4月、6月に徴収された前年度ベースを継続した1期、2期分の額*2を年額128,500円から差し引き、残りを4期で分割した額が3期以降の24,600円(3期だけは100円単位への調整のため300円違う)だ。
疑問点は大きく2つあり、近くの区役所出張所に聞きに行った。*3
a) 自分の2011年の年収は前2010年より減少しているが、何故保険料の年額がアップするのか。各期支払額(2か月分)が1期、2期の14,900円から4期以降は24,600円と65%もの大幅アップだ。
b) 自分は本年の4月から基本的に年金生活に入って更に所得が減少するのに、来年度の1期、2期、3期の保険料額もアップしたままというのは理解しがたい。
3) 区役所の回答と問題点
区役所出張所(一部本庁との電話も踏まえ)の回答は次のとおり(枠で囲んである)だが、私としては不満が多い。
a) 介護保険料の大幅アップ
介護保険料は3年毎に見直すこととされており、今回2012-14年度分として改訂された。世田谷区では、介護サービスの今後の需要を見込んで改訂。アップしたのはその結果。
保険料は、前年の所得に基づいて決まるので、2013年度は下るはず。
介護保険財政の苦しさは何となく理解できるところがあるが、それにしても私の場合で65%アップは大きい(収入の多い人はアップ率も大きい)。しかも不意打ちだ。ちなみに、前述の保険料決定通知書に同封されていた、区の「介護保険料のお知らせ」には、保険料率の改訂の説明はあるが、増額との言葉は一切無い。世田谷区のHPを見ても増額の言葉は無い。ペテンではないか。
b) 収入が減るのに2013年度の予定徴収額が高い
2013年度の本来の保険料は、同年3月の確定申告等により6月頃に定まる2012年の所得に基づいて決まる。1期(4月)、2期(6月)の時点ではまだその所得が判らないので仮の徴収額である。3期(8月)以降は新しい金額に減額修正され*4、年額としては適正になる。この1期、2期の仮徴収額は前年度の最終6期の額と同額としているが、これは、介護保険法140条に基づいている。
これは理解に苦しむ徴収方法だと思う。仮に2013年度以降も同じ第12段階で保険料年額が128,500円だとしよう(私の場合は、多分下がるが)。各期の徴収額は次のように変動する。
2013年度 | 1期 | 2期 | 3期 | 4期 | 5期 | 6期 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
徴収月 | 4月 | 6月 | 8月 | 10月 | 12月 | 2月 | |
徴収額 | 24,600 | 24,600 | 19,825 | 19,825 | 19,825 | 19,825 | 年度計128,500円 |
2014年度 | 1期 | 2期 | 3期 | 4期 | 5期 | 6期 | |
徴収月 | 4月 | 6月 | 8月 | 10月 | 12月 | 2月 | |
徴収額 | 19,825 | 19,825 | 21,209 | 21,209 | 21,209 | 21,209 | 年度計128,500円 |
(注、実際の期別徴収額は100円単位となるよう端数調整される)
この年金からの天引という「特別徴収」の場合だけ、このようなうねりが生ずることも注意しておきたい。すなわち、直接市町村に振り込む「普通徴収」の場合、保険料額が確定した後、7月から翌年3月の9か月間(毎月払い)で納付する。国民健康保険料の普通徴収も同じ仕組だし、住民税も6月以降確定額の徴収が始まる。何れも各月の徴収額は同じだ(端数調整はある)。
4) コメント
(介護保険料の大幅アップについて)
各保険者(市町村)の2012年度の介護保険料改定状況については、2012年3月30日の厚生労働省のプレス発表「第5期計画期間(2012-14年度)における介護保険の第1号保険料について」 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000026sdd.html で発表されている。これによれば、全国平均で4,972円/月で、前2009-11年度の4,160円から19.5%のアップだ。世田谷区のアップ率(私の場合65%アップ)は、全国レベルより高そうだ。
余談的だが、現世田谷区長は、社会民主党の前衆議院議員、保坂展人氏だ。年金生活者の負担のこのような増額は本意ではなかろう。「国民の生活が第一」の新党を保坂区長が支持しているかどうかは不明だが、「年金生活者の生活」の観点からは、消費税のアップの方が現実的だと思っているのではなかろうか。
(保険料の期毎の変動について)
年金から天引きの場合のこの問題は、1期、2期の仮徴収額を前年度最終6期の徴収額としているからだ。それを前年度年額の6分の1、すなわち128,500÷6の21,417円(100円単位への端数調整はある)とすれば不必要なうねりは無くなる。年金生活者にとって、期毎徴収額の無意味な変動は、通常の給与所得者より影響が大きい。検討してもらえないかと思う。ちなみに、区の人が根拠として言っていた介護保険法140条は、次のような条文だ。
介護保険法 第百四十条 市町村は、前年度の初日の属する年の十月一日から翌年の三月三十一日までの間における特別徴収対象年金給付の支払の際第百三十六条第一項に規定する支払回数割保険料額を徴収されていた第一号被保険者について、当該年度の初日からその日の属する年の五月三十一日までの間において当該支払回数割保険料額の徴収に係る老齢等年金給付が支払われるときは、その支払に係る保険料額として、当該支払回数割保険料額に相当する額を、厚生労働省令で定めるところにより、特別徴収の方法によって徴収するものとする。
2 市町村は、前項に規定する第一号被保険者について、当該年度の初日の属する年の六月一日から九月三十日までの間において同項に規定する老齢等年金給付が支払われるときは、それぞれの支払に係る保険料額として、当該第一号被保険者に係る同項に規定する支払回数割保険料額に相当する額(当該額によることが適当でないと認められる特別な事情がある場合においては、所得の状況その他の事情を勘案して市町村が定める額とする。)を、厚生労働省令で定めるところにより、特別徴収の方法によって徴収するものとする。
3 第百三十六条から前条まで(第百三十六条第二項を除く。)の規定は、前二項の規定による特別徴収について準用する。この場合において、これらの規定に関し必要な技術的読替えは、政令で定める。
4 第一項の規定による特別徴収については、前項において準用する第百三十六条の規定による通知があったものとみなし、第二項の規定による特別徴収については、前項において準用する同条の規定による通知が期日までに行われないときは、第一項に規定する老齢等年金給付のそれぞれの支払に係る保険料額として、第二項に規定する支払回数割保険料額に相当する額を特別徴収の方法によって徴収する旨の同条の規定による通知があったものとみなす。
読み通そうという気がしない条文だが、厚生労働省令等に委任しているとの規定もあるから、柔軟な運用は若干でも可能ではなかろうか。
更に抜本的な改善策は、保険料の年額と徴収期の年度区分とを完全には一致させなくていいとすることだ。前例は、住民税の給与支払者による特別徴収で*5、これは前年の所得に基づく住民税を6月から翌年度の5月にかけて毎月同額を給与から天引きされる。すなわち市町村に対し年度をまたがった収入を認めている。
今の制度は、判り難く、徴収額が変動することにより年金受給者に余計な混乱を招いているとしか思えない。
*1:もちろん、給与を受け取っている場合の健康保険料等の天引きはその分少なくなる。
*2:細かなことを言うと、3月までは7,400円/月だったが、7,450円/月に増額するとの勝手な通知が2月にあった。
*3:元来、出張所は、介護保険については介護サービスの提供に関する事務だけで、保険料の徴収は区役所本庁の事務らしい。あらかじめ電話した時にその旨の注意はあったが、出張所でもある程度は教えてくれるだろうとのことなので行った。出張所では、適宜区の本庁に電話して対応してくれた。
*4:所得額の確定が遅れる等の場合には、3期もこの仮徴収額が徴収されることがある。
*5:住民税の特別徴収には、もう1つ、年金所得の年金からの天引き(2009年度からスタート)があり、これは介護保険料と同じく、年度内で変動する。