高齢社会対策大綱

 国会は、9月8日に会期を閉じたが、8月29日に参議院野田首相への問責決議を可決して以来開店休業の状態であった。今国会における政府の新規提出法案の成立率は66%と、戦後5番目の低い水準だったとのことだ(日経新聞9月8日 http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS0702S_X00C12A9PP8000/)
 特に信じられないのは、赤字国債発行法案の不成立だ。与野党対立のあおりで遅れた昨2011年は、8月26日にやっと成立した。今年はまだ成立の目途は立たない。政府は予算の執行抑制策を9月7日に閣議決定したとのことだが(http://www.nikkei.com/article/DGXNASFL070CL_X00C12A9000000/)、影響は極めて大きい。このような無責任な事態となっているのは偏に国会議員の無節操と怠慢だ。民主党は、政党交付金の受取りの辞退を9月3日に各党に呼びかけていたそうだが(http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS0302D_T00C12A9PP8000/)、公明党等抵抗が大きいらしい。政党交付金の執行停止ももちろんだが、全国会議員への歳費(給与)の支払も赤字国債法案の成立まで凍結すべきだと思う。
 話は変るが、同じ7日の閣議で、「高齢社会対策大綱」が決定されたとのことだ。11年ぶりの改訂ということと初の数値目標の設定(60-65歳就業率を2011年の57.3%から、2020年に63%にアップなど)ということで、少しだけ話題になっている(http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120907/plc12090718200018-n1.htm)。国会に比して政府の方は少し仕事をしている。この大綱は、私も対象なので関心がある。ざっと読んで見た。
http://www8.cao.go.jp/kourei/measure/taikou/pdf/p_honbun_h24.pdf
 期待通り、あまり面白くないが、若干紹介する。
1) 懸案の高齢者医療制度や年金制度については、消費税の引上げを実現させた、先の社会保障・税の一体改革に関する民・自・公の3党合意により、今後「社会保障制度改革国民会議」において検討することとされている(社会保障制度改革推進法)。先送りされた訳で、従ってこの大綱では、当然ながら具体的なことは書かれていない。
2) 従来の「人生65 年時代」から「人生 90 年時代」に転換させるとしているが、これから更に長い間生きていかなければいけないかと思って憂鬱になった。私としては70代まで生きればもう十分と思っている。「90年」と聞いて暗い社会を実感する人は多いのではないか。
 この大綱の目的は、暗い現実を国民に実感させることにあるのだろう。タイトルの「高齢社会」も昔は「高齢化社会」と言っていた。「化」が取れた社会の現実は重い。
 「人生65 年時代」を前提とした高齢者の捉え方についての意識改革をはじめ、働き方や社会参加、地域におけるコミュニティや生活環境の在り方、高齢期に向けた備え等を「人生 90 年時代」を前提とした仕組みに転換させる必要があるとのこと。
3) 「人生90年時代」では、65歳以上でも、社会に支えられるだけでなく「支える側」に回ってもらいたいというのは私にとってショックだ(意欲と能力のある人だけに限ってはいるが)。「全員参加型社会」の実現のため、高齢者の雇用・就業対策とともに、高齢者に配慮したまちづくり、公共交通機関、宿泊施設等のバリアフリー化、交通安全対策等、多彩な対策が並べられている。家の中でのんびりとウェブや読書にふけりたいと思っても、外に出て仕事などをしないと、体が悪いのかと心配されそうだ。
 高齢者がこれほど仕事に進出し出したら、正規就業が困難と言われる若い人の就職活動がますます困難になるのではないかと心配になる。
3) これに対して若い人の就業環境の整備も強調されている。最初読んで違和感を覚えたのは、「勤労者の生涯を通じた能力の発揮」と題して、若い労働者の健康と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)として、所定外労働時間の短縮、仕事と育児の両立、テレワーク等の拡大を提唱していることだ。また、若い労働者の学習活動の促進もうたっている。高齢者と何の関係があるのかと最初はいぶかった。
 多分よい高齢者となるには若い時からの準備が必要ということなのだろう。人生の全ては老後のためにあるから、老後の生活に備えて能力を磨き、蓄えもしておけという趣旨だ。しかし別の見方をすれば、現在の高齢者の年金、医療費の資金的供給源である若い人達にもっと稼いでほしいという狙いもあるのだろう。
4) 大綱を読んでいて新しく発見した気懸りは、認知症が急増」しているという記述だ。私としては、自分も家人も認知症になるのは大変嫌なので(癌よりもはるかに怖い)、何故急増しているのか心配になった。
 調べて見ると、さる8月24日の厚生労働省のプレス発表がある(「認知症高齢者数」 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002iau1-att/2r9852000002iavi.pdf )。解説も報道されているが、次が判りやすい*1

日本生活習慣病予防協会HP http://www.seikatsusyukanbyo.com/calendar/2012/002135.php
 認知症の高齢者(注:65歳以上)の数は2010年の時点で280万人で、65歳以上人口の9.5%を占め、前回の推計(注:2003年報告)の1.35倍に増えていたことがわかった。今年の時点で305万人に達し、前回の推計よりおよそ10年も早く300万人を超えたことになる。
 2015年は345万人、2020年は410万人、2025年には470万人に達すると見込んでいる。いわゆる団塊の世代が75歳以上になる2025年時点では、高齢者全体の12.8%にのぼる見通しだ。

 これを受けて厚生労働省は、2013年度概算要求に、「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」(2013-17年度) を盛り込んだことを9月5日に発表した。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002j8dh-att/2r9852000002j8ey.pdf
 ただ、認知症急増の原因は厚生労働省の他の資料を見てもあまり書かれていない。団塊の世代の参入による高齢者数の増加が原因の1つであることは間違いないが、罹患率としてはどうなのか。介護制度の普及による介護認定者数が増えたということが理由の1つに上げられているので、実体として増えているのかはよく判らない。自分も認知症になる確率が高くなったかと心配になったのだが、そうではないのかも知れないと少し安心した(従前と同じ確率だから怖いことは怖いが)。

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