同性婚

 夏になってから、各国で同性婚を認める法整備が行われたという報道が多くなった(フランス、イギリスなど。詳細は後述)。私としてはどうも理解できない。同性愛者への偏見や差別を無くすべきとの主張はまあ理解できるが、結婚まで認めるとすると、各国の家族制度、社会構造に深刻な影響は無いのだろうか。それから、同性婚は1人対1人の関係だが、1夫多妻などを当事者が希望すれば認めるのか、認めないとしたらその論理は何だろうか。
 これらを調べるには、家族制度の基本から勉強することが必要と思って少し勉強した。以下、1)世界の同性婚法制化の状況(世界の状況、米国の状況、是非論争の論点、同性婚運動の経緯)、2)世界の家族制度(エマニュエル・トッドの家族型分類、同性婚法制化と家族型分類-私論)、3)日本の家族制度の歴史、4)感想を述べて行く。12,000字程度とやや長くなったがご容赦のほどを。
1) 世界の同性婚法制化の状況
1-1) 同性婚を法制化した国
 Wikipediaの「同性結婚」の項によれば、国レベルで同性婚を法的に承認した国は、次のように15か国である。年代順に掲げる。*1
(表)同性婚法を制定した国(施行年順) (第4欄「家族型」は2-2を参照)

同性婚法施行年 地方 家族型(トッド) 備考
2001年4月 オランダ 欧州 絶対核家族 同性結婚
2003年6月 ベルギー 欧州 直系家族 同性婚
2005年7月 スペイン 欧州 平等核家族 同性婚
2005年7月 カナダ 北米 絶対核家族 市民結婚法
2006年11月 南アフリカ共和国 アフリカ 絶対核家族 婚姻法改正
2009年1月 ノルウェー 欧州 直系家族 同性婚
2009年5月 スウェーデン 欧州 直系家族 同性婚
2010年5月 ポルトガル 欧州 平等核家族 同性婚
2010年6月 アイスランド 欧州 直系家族 法改正。女性首相は、同年世界初の同性婚首脳に
2010年7月 アルゼンチン 中南米 平等核家族 民法改正
2012年6月 デンマーク 欧州 絶対核家族 同性婚法。1989年世界で最初の登録パートナーシップ法制定
2013年5月 フランス 欧州 平等核家族 同性婚解禁法。施行後も反対派の抵抗が強い
2013年8月 ニュージーランド 大洋州 絶対核家族 法改正
2013年8月 ウルグアイ 中南米 平等核家族 同性結婚
2014年 イギリス 欧州 絶対核家族 同性婚法が2013年7月に成立、施行は2014年

(表への注)

a) 表には国レベルで法制化(国の議会で新法ないし法改正)したものだけを掲げた。従って、州、地方政府レベルで法制化した国(例えば、米国は14州で法制化、メキシコはメキシコ・シティで2010年に法制化など)は含まれていない。(Wikipediaの上記のページには、メキシコ、米国、ブラジルが掲げられているが、本項と次項の理由により外した)
b) 最高裁判所同性婚を否定する制度を違憲とする決定をした、又は国会以外の機関が同性婚を認めるとしただけでは、リストには含めない(例えばブラジル)。 *2
c) 婚姻とは別に、同性のパートナーに異性婚とほぼ同様の法的保護を与える措置(シビル・パートナーシップ、civil union, domestic partnership, registered partnership 等、国によって名称は異なる)を導入した国(10か国以上。結婚制度とダブって設けている国も含まれる)があるが、上記リストには含まれない。

 21世紀に入ってから、実に多くの国が法制化している。
1-2) 米国の各州の状況 (出典は上記のWikipediaのページ)
 連邦レベルでは、2013年6月に連邦最高裁が連邦の婚姻防衛法(DOMA同性婚を禁ずる)の憲法違反という判決(実際は判りにくいが、省略)を出し、オバマ大統領も支持している。実際の措置は各州に任されている。
 州ベースでは、以下の14州・地域が同性婚を認めるようになった。

 上記の同性婚を認める州に加え、シビル・パートナーシップを認める措置を講じている州もいくつかある。一方、州憲法で結婚を男女に限っている州が31州あるとのことで、これらの州では憲法改正が必要になる。
1-3) 同性婚の是非論争の論点
 米国での同性婚が認められるまでの歴史について、次の本を区の図書館で借りて読んだ。
○ ジョージ・チョーンシー「同性婚−ゲイの権利をめぐるアメリカ現代史」(上村富之・村上隆則訳、明石書店、世界人権問題叢書63、2006年6月初版) 原著: George Chauncey, WHY MARRIAGE? - The Histry Shaping Today's Debate Over Gay Equality, 2004
(同性婚反対者への反論)
 同書の中で、2003年11月にマサチューセッツ州最高裁が出した同性婚を認める判決が紹介されている。その中に、同性婚に反対する各種の論点に対する州最高裁の反論があるので紹介する。州最高裁の基本的立場は、「州憲法は、あらゆる個人の尊厳と平等を支持する」であり、以下反対論に順次反論している。
(反対論1) 結婚の中心的目的は、永年にわたって生殖であり、同性婚はこれに反する。
→ 州の家族法で、生殖が婚姻の必要条件とされたことはない。結婚とは、両人の「感情的かつ性的な親密さへの期待や、互いに信義を守り責任を全うするという制約、経済的財産の共有や相互扶養などを下支えする」目的で作られた、一連の権利・義務のセットを確立する制度である。
(反対論2) 結婚を理論上生殖の可能な異性カップルのみに許可することは合理的。
→ 従来からこのような基準を用いて結婚を禁止したことはなかった。例えば、閉経後の女性、不妊患者、服役中の犯罪者に婚姻を否認したことはない。また、不妊カップルに養子縁組を認めている。
(反対論3) 子育てにとって最良の環境は、1組の男女からなる両親が揃った家族である。
→ 州精神医学会、全米精神分析学会、ソーシャルワーカー協会、小児科医師達の証言書によれば、男女の両親が揃った家庭に比し、同性カップルの両親の家庭で育つ子供に差があるとの仮説には全て否定されている。
(反対論4) 同性カップルの関係は異性カップルよりも不安定で長続きしない。
→ ある報告では、10年間暮らしたカップルの離別率は、異性カップル4%、ゲイ男性4%、レズビアン6%。長続きしないとの証拠はない。
 私としては、各反対論の方にシンパシーを感ずる。引用されているエビデンスを読み下した訳ではないが、若干へ理屈のような部分もあるとの印象だ。それから学者の主張というのは、原発事故評価、放射能の人体影響について分裂しているように、満幅の信頼を置けるものではないとの感じがしている。
1-4) 同性婚運動の経緯
 チョーンシー書は、1970年代からの米国の同性愛者の運動(ゲイ解放運動)の歴史を踏まえ、どうしてそれが同性婚を求める運動になっていったかを詳しく述べている。同性愛者(女性も含め「ゲイ」と呼ばれる)の運動は、元来ゲイへの偏見と差別の撤廃を求めるもので、 ゲイの結婚については、それほど共通の課題ではなかった。理由は、

  • 結婚制度は男性優位社会のための制度だとして、特にフェミニスト・グループからの反対が強かった。すなわち旧体制を維持する制度への適応を目指すのはおかしい。
  • 当時のゲイは、固定したパートナーと生涯を共にするというより、専用のバーやクラブなどで互いを知り合うという、狭いコミュニティで広く相手を探せる(場合によっては替える)場所、機会を求めていた。
  • 旧体制が本当に同性婚を制度として認めるかについて半信半疑だった。

 同性婚制度実現への悲観的見方が多かった中で、その流れが変わったのは、1993年のハワイ州最高裁の判決(予審法廷の同性婚申請を却下するとの判決の後、同性愛者に対し結婚を禁止することはハワイ州憲法に違反していると推定されるから、予審法廷に差し戻す)があったことだという。これにより、同性婚の承認を求める運動(法廷、州議会において)が拡がり、シビル・パートナーシップ制度や、州議会での立法化が行われる例が出てきた。*3
 この間反対派の運動も激しく、1996年に連邦で「婚姻防衛法」(婚姻の定義は、1人の男性と1人の女性)が成立した。ただ、上述のように、2013年6月に連邦最高裁は、実質的に同法が違憲とする判決を下している。
(同性愛者にとっての法的結婚の意味)
 同性愛者にとって結婚の形式が必要と考えられたのは、a)パートナーの不慮の事故の際に病院などで、パートナーをケアする、措置の相談に与かるなどの権利が認められなかったこと、b)遺産の相続(例えば住んでいた部屋の名義が死んだ人のものだった場合)が認められず、経済的に悲惨なことになる事例があったことからだった。このような差別的取扱いは、病院、金融機関、学校、雇用主などで見られた。
 この差別的取扱いは、シビル・パートナーシップ制度(国、州により内容が多少異なる場合がある)により相当実質的に解決されることとなった。しかし、次の段階では、このような制度は第2級の結婚制度、すなわち差別であると考えられ、異性婚と名称的にも差が無い同性婚が求められることとなった。

2) 各国の家族制度との関連
2−1) エマニュエル・トッドの家族型分類
 私の問題意識である家族制度への影響に関しては、現在では包括的に述べたものは無いようである。世界の家族制度の比較について包括的に説明しているものとして、次の本を図書館から借りて読んだ。
○ エマニュエル・トッド 石崎晴己編「世界像革命−家族人類学の挑戦」(藤原書店、2001年9月初版) 
 この本は、2000年6月のトッドの来日を機に行われた講演会、質疑応答、編者による紹介論文等をまとめたものだ。述べられている家族の類型論は、トッド著「世界の多様性」(原著は1999年)に書かれているものを引いている*4http://www.amazon.co.jp/gp/product/toc/4894346486/ref=dp_toc?ie=UTF8&n=465392
 トッドは、世界の家族類型を8種類に分けている。そのうち5種類を中心に紹介する。
a) 絶対核家族
 子供は成人すると独立する(親子は独立的)。兄弟間の平等には無関心であり、例えば遺産は、父親の遺言に従って分配される(不平等が多い)。基本的価値は自由であり、子供の教育には熱心ではない。
 地域は、イングランドウェールズ、オランダ、デンマークノルウェー南部、(以下イングランド系とされる)米国、カナダ (ケベック州を除く)、オーストラリア、ニュージーランドなど。
b) 平等主義核家族
 子供は成人すると独立する(親子は独立的)。兄弟は平等であり、遺産は兄弟で均等に分配される。基本的価値は自由と平等であり、18世紀のフランス革命が自由と平等を掲げたのは、パリ地域におけるこの家族型の基本的価値を反映している。子供の教育には熱心ではない。核家族であっても、絶対核家族とは、平等への態度が全く異なることに注意。
 地域は、フランス北部、スペイン中南部ポルトガル北東部、ギリシャ、イタリア南部、ポーランドルーマニアラテンアメリカ諸国、エチオピアなど。
c) 直系家族
 子供のうち1人(一般に長男)は親元に残る。他の子供は独立する。親は子に対し権威的であり、兄弟は不平等である。基本的価値は権威と不平等。子供の教育には熱心。秩序と安定を好み、政権交代が少ない。自民族中心主義が見られる。
 地域は、ドイツ、スウェーデンオーストリア、スイス、ルクセンブルク、ベルギー、フランス南部、スコットランドアイルランドノルウェー北西部、スペイン北部、ポルトガル北西部、日本、朝鮮半島、台湾、ユダヤ人社会など。
d) 外婚制共同体家族
 息子はすべて親元に残り、大家族を作る。親は子に対し権威的で、兄弟は平等である。基本的価値は権威と平等。これから、共産主義との親和性が高く、この類型と崩壊前の共産主義勢力の分布がほぼ一致する。
 地域は、ロシア、フィンランド、旧ユーゴスラビアブルガリアハンガリー、モンゴル、中国、インド北部、ベトナムキューバなど。
e) 内婚制共同体家族
 上記4種はヨーロッパで見られるものであるが、ヨーロッパ以外の家族のうち、内婚制共同体を特に紹介する。
 息子はすべて親元に残り、大家族を作る。親の権威は形式的であり、兄弟は平等であるのはd)外婚制共同体家族と同じである。d)では子供の結婚相手は家族以外からであるが、このe)では父方平行いとこ(兄と弟の子供同士)の結婚が優先される。権威よりも慣習が優先する。
 地域は、トルコを含む西アジア中央アジア北アフリカなどで、イスラム教との親和性が高い。
 その他、「非対称共同体家族」(母系のいとこの結婚が優先される、インド南部等)、 「アノミー的家族」(東南アジア、太平洋、マダガスカルなど)、 「アフリカ・システム」(一夫多妻が普通に見られる。中南アフリカなど)があるが、説明は省略する。
 外婚制共同体家族制度がユーラシア大陸の内部にあり、直系家族が周縁部にあることから、共同体制度の方が新しく出てきた制度で、核家族等の他の制度を外に押し出したとする、トッドの説はユニークだが、あまり支持を得られていないようだ。ただ、私は漠然と、核家族化、特に平等主義的核家族化が世界史的な方向かと想像していたが、それほど単純ではなさそうだ。
2−2) 同性婚法制化と家族類型分類
 1-2)で紹介した世界の同性婚法制化の国をトッドの家族型分類で分析してみた。以下は、多分私独自の分析だと思う。
 1-2)の表に見るとおり、同性婚法制化は、2001年のオランダが最初で、2006年の南アフリカまでが5か国となっている。これを前期と呼ぶ。その後2年間の空白があり、2009年から2014年まで(後期)10か国が法制化している(施行年ベース)。
 前期5か国のトッド式家族型は、表に示したように、絶対核家族制3か国、平等主義核家族制1か国、直系家族制1か国だ。後期10か国の内訳は、絶対3か国、平等4か国、直系3か国で、その傾向の差は歴然としている(私には)。私のオブザベーションは以下のとおりだ。
a) 共同体家族制の国での同性婚法制化は今の所見られない。大家族制の下では個人の活動の自由がままならないためであろう。
b) 絶対核家族の国での法制化が早くから進んでいる。絶対核家族国はトッド著では数が少なく、リストの国以外では、米国、オーストラリアの2国に過ぎない。米国では上述のように州レベルで承認しているものがあり、オーストラリアでは州レベルでシビル・パートナーシップを認めている州が多い。
 私の勝手な推測であるが、不平等の存在を前提とする意識があるため、却って、差別されていると考える人たちの自由を求める声が強くなるからではないか。
c) 平等主義核家族及び直系家族の国では、後期(2009年以降)になって法制化を承認する動きが強くなっている。これらの国の数は絶対核家族の国に比して多いので今後も増えていく可能性がある。
 また私の勝手な推測だが、平等主義核家族制では平等が基本理念であったので、かねて同性愛者への差別は少なく、法制化の必要性はあまり感じられなかったのではなかろうか。他国の同性婚法制化の動きに刺激されて、数年前から法制化の動きが出てきたのであろう。直系家族制においては、親の権威が強く、同性婚の考えは出て来にくかったのではなかろうか。直系家族制とされる日本では今後どうなるか、後で私見を述べる。

3) 日本の家族制度
 トッドの分類では、ドイツなどと同じ「直系家族」(長子が親の家に残る)とされている日本の家族制度は、日本の学者からはどのように分析されているのだろうか。次の2冊を区の図書館から借りてきた。
〇 福尾猛市郎「日本家族制度史概説」(吉川弘文館、1972年1刷、1985年8刷)
〇 川島武宣イデオロギーとしての家族制度」(岩波書店、1957年1刷、1978年16刷) 
 福尾著は、日本の家族制度を原始から近代まで7区分した 時代別に分析していて興味深い。
(古代から江戸時代まで)
 日本の家族制の起源を探ると、古代前期(大化の改新より前まで)では、縄文期時代の竪穴式住居に住む夫婦親子の数人を単位的家族とし、それが数個集まる複合的大家族(律令期以降の「戸」にほぼ相当)が基本だった。平均的には男性優位だが、女性の位置付けも後世よりはずっと高かった。
 古代後期(大化の改新から平安時代)は、中国の儒教の理念を導入して男尊女卑の律令体制が整備された。すなわち、戸主は原則男性、家督相続は男子の長子(嫡男)優先など。しかし実態は、多くの女帝の即位、多数の女流作家の活躍など女性の地位は相当高かったと認められる。
 家督以外の財産相続については興味深い制度変化がある。大宝令(701年)では、家人(家来)奴婢、家宅の全てと資財の半分は嫡男、資財の半分が嫡男以外の男子(庶子という)だった。しかし、757年の養老令(大宝令の修正)では、家人奴婢の嫡子単独相続は変らないが、その他の田宅資財は総計し、嫡子は2、嫡子の母は2、庶子は各1、女子、妾は各1/2の割合で相続となった。割合の差はあるが相当の分散相続と言っていい。実態は弾力的で、親の生前贈与、遺言により、嫡男への集中相続のケースは多かったと見られるが、律令の考え方に準じた相続も多かったろうと思われる。
 中世前期(鎌倉時代)は、その前の律令制が実質上崩れ、それ以前に戻った面があった。第1子の家督相続は普通だが、第2子以下への相続も見られた。また、女性の家長や家督相続もあった。総じて武家法制は女性への関心が高かったとされる。嫡男による単独相続、男尊女卑を基本とする家族制度は、鎌倉時代まではそれほど実態ではなかった訳だ。
 日本の直系家族制すなわち「男子第1子相続」が導入され始めたのは、中世後期(室町・安土桃山)からだとする。これは室町・戦国時代における下剋上時代精神に対抗して、領主、大名サイドが主従の安定を保つために、儒教精神に基づく家族制度を定着させようとしたことによる。これにより、男子第1子の嫡男による単独相続が、実質上も制度上も普通化していった。この方向は、江戸時代に確立、明治民法に引き継がれた。
(明治民法の家族制)
 1998年に公布・施行された明治民法における家族制度のポイントは、

戸主権(家族の婚姻、養子縁組への同意権、家族の居所を指定)
大家族
家督相続(戸主権と戸主の財産)は、男子本位、嫡出本位、長子本位の順で1人だけ(法定推定家督相続人) *5
親権は戸主とは別。ただし、父のみが親権を持つ(母には無い)という男主女従

 長子以外の子は、戸主の許可を得て分家することができるが、それまでは大家族の一員であり、これはトッドの外婚型共同体家族制度と考えることもできる(ただし、兄弟平等ではない)。
 川島著では、明治民法の家族制度は「孝」を目的としているが、その本旨は「孝」と並べて「忠」を強制することで、戸主への従属を天皇への従属に繋げているとする。
(戦後の家族制度改革と今後)
 第2次大戦後、1948年1月に施行された改正民法では、家は夫婦(とその子)を単位とするものになり、制度上は平等主義核家族になった。ただ、実際は明治民法時代の名残で長子が親の家を継ぐことが多いことから、トッドは日本を直系家族制としたのであろう。
 改正法施行後65年を経た現在では、制度の目的とする平等主義核家族制は、実態的にも相当一般的になってきていて、それが行き過ぎと感じている人々も多い。家族の扶養義務の復活を唱える人もいて、自民党の改正憲法素案にもその考え方が盛り込まれている。*6
 川島著では、家族生活の秩序をめぐる国内の議論に関し、「ある特定の価値体系の優位への信念や継続への希望が強くなる・・・結果、価値体系の相対性を否認し、その価値体系の絶対優位性とその永久存続性を主張する態度を生ずるに至る」と批評している。私は、家族に係る価値体系は相対的であり、個人の自由と平等をより重視する理念に立てば、現在の平等主義核家族化の方向は変えられないと思う。
 現在家族制度で問題になっていることの1つは、「夫婦同姓(同性ではない)」の見直しである。女性の社会進出がこれだけ進んだ中で、「夫婦同姓」制で得られる価値は相対的に低下したと認識すべきで、「夫婦別姓」は避けられない方向と思う。反対している人の考えが理解できない。
 ただ、同性婚については、日本では現在「幸い」なことに価値体系は高くない。同性愛者の人口も(統計はよく判らないが)諸外国に比して高くないからであろう。憲法でも「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」(24条)とあるから、憲法改正をしない限り認められない。

4) 感想
a) 同性婚の今後の動向
 同性婚に関する世界各国の動きは、今後勢いを増すのかどうか私には予想がつかない。1つは、大国である米国とフランスにおいてまだ完全に決着がついたとは思えないことだ。米国の上述の連邦最高裁の判決があるが、米国議会での審議はどうなるか判らない。フランスでも2013年5月に施行されたが、国内での反対運動は根強い。
 概して各国、各州とも、司法すなわち最高裁と立法すなわち議会との見解に差があることが多い。最高裁は、各人の自由と平等の理念から異性カップルに認められている制度が同性カップルに認められないのは違憲とする。議会は、国民の感情や宗教界の反発も考慮して安易に法制化には動かない。
 2013年の同性婚のブームが終れば、同性愛者の人口が少ない国ではあまり運動にはならないのではないかと私は思うが、確信のある話ではない。今まで同性婚が実現した国、州でも偶然の要因があり(ハワイ州最高裁の例)、今後偶然的要素が出てくる可能性も否定できない。
 冒頭に述べた、各国の家族構造、社会構造への影響については、ウェブを見る限りよく判らない。人口のうちわずかだからかも知れない。
b) 宗教界
 宗教界では、キリスト教カソリックイスラム教は同性婚に反対している。しかし、プロテスタントの各宗派の中には、同性婚を認めているものもある。カソリックにおいても、結婚の秘跡(神の恩寵を示す儀式)が7秘跡の1つとしてその手順が確認されたのは、15世紀のトリエステ宗教会議の決定だったとされ、当初から結婚がキリスト教に必須のことだった訳ではない。プロテスタントでは、教会で結婚式を行うとしても秘跡とはされていないとのことだ。とはいえ、宗教的には同性婚に反対する動きは多い。
c) 公民権反対運動とのアナロジー
 現在の同性婚反対運動には、1960年代以降の米国の公民権(黒人差別撤廃)への反対運動に似た所があるとの、チョーンシー著の指摘には少し驚いた。公民権反対の論者の根拠の1つに、異人種間婚姻が増えるというのがあったという。キリスト教の牧師も主張していたというから今では信じられない。公民権運動は、人種差別の撤廃という人間平等の理念に立ったものだから、宗教者や学者などからの真面目な反論はあり得ないと考えていた。しかし大衆の感情に訴える反論として異人種間婚姻への恐怖感(?)を煽っていた訳だ。
 私は若い頃、将来の自分の子供が黒人と結婚したいと言ってきたら、複雑な感情にはなるが、反論はできないだろうと考えていた。しかし、もし同性婚をしたいと言ってきたら、反論できるし、説得するのが親の義務だと思っていた。この著者によれば、そのような考えは、公民権運動への反対論と同じだというのだ。私は不本意だが、そういう風に考えてる人もいるということに驚いた。
d) 他の性的指向(sexual orientation)
 同性婚推進者は、同性愛は、病気や一時的な状態ではなく、各人がそれぞれ持つ「性的指向」だという。「指向」はもちろん「嗜好」ではなく、「志向」ともニュアンスが違う。「志向」は当人の意思が働くが、「性的指向」は無意識に形成される、性愛、恋愛の対象を区別するものだ。「異性愛」、「同性愛」、「両性愛(異性も同性も愛する)」の他、「性同一性障害」も含められる。「異性愛」を除いたものを「LGBT(Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender)」と呼び、国連等の国際機関の報告書で用いられている。
 同性婚推進者は、性的指向の違いによって人間は差別されてはならないと主張する。しかし、現在の同性婚は、多くの法律では1対1の人間関係しか条文には盛られていないようで(確認はしていない)、例えば1夫多妻、1妻多夫などの性的指向の人たちは救われない。性的指向の自由、平等に基づき、1夫多妻のグループが結婚申請をしたらどのような理論で拒否できるのだろうか。考えにくいが、ペット動物を愛している人が、そのペットとの結婚を望んだ場合、またペットの意思表示が確認できないので結婚は断念して養子を望んだ場合、どのようにして拒否できるだろうか。
 このことについては、ウェブで探してもちゃんとした説明がされていないようだ。私が思うに、1夫多妻等の指向を持つ人たちは、同性愛者に比べても圧倒的に少なく、そのため裁判所の判断を求める訴訟を起こすことが難しいためだろうと思う。
e) 動物の同性愛
 私は、同性愛は自然に反するから不可と言えると思っていた。それを説明するには動物の世界には同性愛が無いことを言えばいい。今回Wikipediaで「動物の同性愛」の項目を調べて見て驚いた。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8B%95%E7%89%A9%E3%81%AE%E5%90%8C%E6%80%A7%E6%84%9B
 動物の同性愛(両性愛も含む)は、自然界において広く見られる。動物の性行動には同じ種の間でさえ様々な形態があり、その行動の動機および含意はまだ十分には理解されていない。

 哺乳類、鳥類、爬虫類を始めとする同性愛的行動の事例が豊富に記載されている。それらの事例の精査はしていないが、事例の多さから、同性愛は自然の摂理に反するとは言い難くなった。神は、どうしてこのような無意味と思われる行動を動物にさせるのだろうか。

*1:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%8C%E6%80%A7%E7%B5%90%E5%A9%9A#.E3.82.AA.E3.83.BC.E3.82.B9.E3.83.88.E3.83.A9.E3.83.AA.E3.82.A2 英語版ページは「Same-sex marriage」 http://en.wikipedia.org/wiki/Same- 2013年8月上旬にそれぞれのウェブページを調べて作成。

*2:ブラジルは、最高裁が2011年に違憲判断をし、2013年5月に公正評議会(Justice's National Council of Brazil、司法制度の自律性の確保等のために2004年の憲法改正で設立された機関。長は連邦最高裁長官。http://en.wikipedia.org/wiki/National_Justice_Council)同性婚を認める決定をしたが、国会が立法化していないし、受理する役場の取扱いも分れているとのことなので、掲載していない。

*3:ただ、発端のハワイ州ではその後いろいろな動きがあったが、現在でも同性婚法は無い。

*4:「世界の多様性」は、実は「第三惑星―家族構造とイデオロギー・システム」(原著は1983年)と、「世界の幼少期―家族構造と成長」(原著は1984年)を併せて再刊したもの。

*5:戸主以外の家族の遺産相続は、子の平等相続で、配偶者分は無し(子孫の無い時はある。

*6:自民党 憲法改正草案第24条(抜粋) 家族は、互いに助け合わなければならない。