東日本大震災(田老町と福島原発)

 3月11日の東日本大震災から3週間以上が経過した。マグニチュード9.0の大地震の威力には言葉もないが、私にとっては、田老町(現岩手県宮古市田老地区)の巨大堤防と福島原発の被害が、安全に関する今までの前提を覆すものであって、衝撃であった。何れもよく報道し、評論されているものであるが、若干コメントしたい。
1) 田老町の巨大堤防
 田老(たろう)町は、1978年に完成した高さ10m、延長2.4㎞に及ぶ巨大な堤防(防潮堤)があることで、防災モデルとして有名で私も知っていた。今回の津波はその堤防を越え、大きな被害を与えた。この巨大堤防は、1896年の明治三陸津波、1933年の昭和三陸津波で大きな被害を受けた田老町津波対策の決め手として建設されたもので、その経緯については、次の略史が胸を打つ。
http://sakuya.ed.shizuoka.ac.jp/rzisin/kaishi_19/25-Yamashita.pdf
 この堤防は全く無意味だったのではなく、被害が軽減された面もあるという評価があるが、被害の軽減がこれを建設した人達の意図だったのではあるまい。
 防災の理想的モデルと言われたこの堤防の結果を見て、改めて、防災対策として人間は何をできるのか、何をすべきなのかと懐疑的になった。何をすべきかに関する極論は、再発の可能性のある地域には巨額の防災設備投資はせず、住民を安全な地域へ移住させるしかないと考えることである。
 現時点で部外者が早々にコメントすべきことではないが、この田老地区を含め、津波被災地域の人達は、将来どこに住むべきかの選択に迫られることになろうと思う。すなわち、住み慣れ、かつ地域コミュニティが維持できそうな被災地区に戻り、また堤防を作るのか、又は、安全な高台や別の地域に移住して新たなコミュニティを作るのかの厳しい選択である。
2) 福島原発
 私は、原発関係に直接携わったことがなかったが、学界、政府が連携して推進し、その結果世界各国でこれだけ建設されていることもあり、安全が確保されていると信じてきた。チェルノブイリスリーマイル島の事故、国内の各種事故は多く人為的なミスが原因だとされていたし、ソ連(安全に最大のプライオリティを置いていた国とは思えない)のチェルノブイリを除いては、人的被害も限られ、事故後の措置もコントロールされていると思ってきた。
 今回の福島原発の場合、原因が人為的ミスではない地震津波であり、当然それらに対する対策は講じられていると思っていた。また、発災後の対策も全くコントロールされていない。日本の産業技術ないし大規模施設の安全に関してかねて前提としていた信頼が崩れた訳で、私にとっては、人生最大と言っても大げさでない衝撃であった。
 事故後の措置について述べる前に、話は少しずれるが、自分が原子力発電のことを殆ど知らないことに気づき、震災後10日ほど経ってから、本屋に原発関係の本を探しに行った(アマゾンで注文するより、早く読みたいと思ったから)。原発の特設コーナーでもあるかと思ったが無く、理工系の書棚を探しても見つからなく、書店の書籍検索機で「原発」と入れて探した。30冊ほど出てきたが、殆どが在庫無しで、在庫有りのうち割と新しいのに、「原発クライシス 」(高嶋 哲夫著、集英社文庫、2010年3月)というのがあった。小説だったが「原発」関係だから少しは勉強になるだろうと思って買った。原発への国際的なテロ攻撃の話だが、ストーリーに無理があり、あまり面白くなかった(なお、別の本屋で、原子力防災関係の本も買った)。
 これを読んで感じたのは、この小説でも他の映画でも、一般的に国家的な危機の際は、プロフェッショナルな専門家と立派な総理なり大統領とがコンビを組んで、専門知識と指導力を発揮して対処している点だ。今回の危機では、小説、映画のようには行かないのは理解できるが、それにしても専門知識を持ったプロっぽい人がいないという感じだし、総理や官房長官も聡明な指導力を発揮しているとは思えない。
 専門家と言えば、直接には東京電力の技術者だろうが、対応ぶりの結果からみて、小説の主人公のような能力は持っていなさそうだ。大学教授や原子力安全委員会のメンバーも、(東京電力から十分なデータをもらっていないせいかも知れないが)実効ある対策を示せていない。菅首相、枝野官房長官原子力安全・保安院については、よく報道されているのであまり述べないが、小説の主人公のような卓越した判断力と指導力は見られない。ただ、情報を自分の所で隠してはいてはいけないという意識だけが先行していて、東電などから入った情報は直ぐそのまま発表している伝書鳩みたいに見える。
 今後、再臨界や爆発の可能性が本当に無いのか、原発廃炉にするのに何年で幾ら掛かるのか、など専門家も正確には判っていないのではないかとの不安が私にはある。
以上