将棋ブームとAI

 14歳の中学生藤井聡太4段が公式戦29連勝の日本記録を作ったということで、大変な将棋ブームだ。一方この5月に、AI(人工知能)の将棋ソフト「ponanza」が電王戦で、佐藤天彦名人を破ったというこたが話題になっている。本稿は、藤井4段が子供の時に遊んだゲームと将棋ソフトに関する感想を述べる。
 ちなみに、私は、藤井聡太4段の28連勝目の試合(対澤田慎吾6段、6月21日)をabemaTVで見た。夜の7時ぐらいから見始めた。私は将棋は殆ど判らないが、8時頃(80数手前後)までの段階では、藤井4段が不利のような感じで、解説者もそのようなことを言っていた。ところが、私には不可解な桂打ち(89手目、5四桂) *1の後、私には判らないまま、澤田6段の投了となった。世に「藤井マジック」といわれるものだろう。

1) ハートバッグとキュボロ
 雑誌「将棋世界」2017年8月号に、藤井4段とAI将棋の記事が出ていたので買った。この雑誌上では連勝記録は25の時点だが、大崎善生(作家)の新連載ドキュメント「神を追い詰めた少年−藤井聡太の夢−」の第1章「将棋との邂逅」が掲載されていたので読んだ。
 藤井が将棋を始めたのは満5歳で、祖母に勧められてからというのは有名な話だが、祖母と母が、この子は少し(相当)違うと思い始めたのは3歳の頃だそうだ。大崎連載ドキュメントでは、幼稚園で習った折り紙遊び「ハートバッグ」と積木玩具「キュボロ」が紹介されている。
 「ハートバッグ」は、モンテッソーリ幼稚園(保育園)で教材に使われているというフェルトを使った折り紙だ。藤井少年は3歳の頃これに夢中になり200個も作ったという。
https://ameblo.jp/montessori-japan/entry-12284254512.html 
 上のURLは、モンテッソーリのHPに出ている作り方だが、よく判らない。いろいろウェブで探しても、作り方のポイントが判らず、私も作れない。上のHPでは、4片に切ったものだが、3片に切った簡易版もある。しかし恥かしながら判らない。日本語のページをいろいろ見ていると、判りやすいという英文ページを紹介したものがあった。
http://gingerbreadsnowflakes.com/node/28 
 これは3片型だが、各辺に番号を付けてあって実に判りやすく、私にも作れた。大人でも難しいものを3歳の子供が100個以上も作ったということで大きく評価されているが、私が思うに、上記英文ページで説明されているとおりに教えればそんなに難しいものとは思わない。多分、藤井少年は、3片、4片に留まらず、多数片のものに挑戦し続けて周囲を驚かせたのだろう。
 次に「キュボロ」だ。大崎ドキュメントによれば、NHK教育テレビの「ピタゴラスイッチ」(毎日午後7時半から5分間、他)に出ているビー玉の動きに夢中になっている藤井少年を見て、母親が気になるゲームを見つけた。溝の付いた5cm角の立方体を組み合わせてビー玉を上から下まで転がす、スイス製の知育玩具だ。父親と相談して、3歳のクリスマスプレゼントに買った。少年(幼児か)は夢中になって大人も理解できない組み立てもしたそうだ。
http://www.deppa-chan.com/article/449529183.html#third 
 私の孫(小3)にはそんな天分があるとは夢思わないが、買えば面白がるかと思ってウェブを見て驚いた。標準タイプで3万円台だ。年金生活者には手が出ない。藤井家の両親は偉いと感心したが、少年も余程の天分を見せたのだろう。

2) AI将棋
 AI(人工知能)ソフトでは、最近では5月に囲碁において、グーグルが開発した「アルファ碁」と世界最強とされるプロ棋士、柯潔九段との3番勝負が行われ、アルファ碁が3連勝した。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFG27H6L_X20C17A5000000/ 
 将棋においては、囲碁よりも前からAIソフトの強さが言われてきたが、本年5月の「電王戦」*2が話題になった。
 2011年から実施されているようで、大体コンピュータ側の勝率が多く推移してきたが、今年は、プロ棋士(叡王戦というタイトル戦の優勝者がなる)側が佐藤天彦名人で、電王戦としては初のビッグタイトル保持者ということで特に注目を集めた。将棋ソフト側はponanza、作者(プログラマー)は山本一成氏。4/1、5/20と2試合行われたが、ソフト側の完勝となった。
 第1戦はponanzaの先手で、第1手3八金、第3手7八金と、人間では予想外の手だった。第2戦はponanzaが後手で、先手(佐藤名人)の飛先の歩突き(2六歩)に対し、4二玉とこれまた驚愕の手で、(録画画像では)佐藤名人は頭を抱えていた。後で調べると、ponanzaの初手は20数通りあるようで、確率的に選んでいるようだ。後手の場合、先手の2六歩に対しては7通りの応手があるとのことだ。
 6/25に放送されたNHKスペシャル人工知能 天使か悪魔か 2017」*3では、この電王戦を取り上げていた(将棋以外のAIの事例もあり、面白かった)。ponanzaの作者山本一成氏と将棋の羽生善治3冠、佐藤名人のコメントが印象的だった。
(山本) (ponanzaが)何で強くなっているか、作者でさえもよく判らなくなっている。
(羽生) 棋士が直面している違和感は、人工知能の思考がブラックボックスになっていて、どうしてその結論になったのかが判らないことだ。今後人と人工知能との共存が必要だが、大きな問題になるのではないか。(ここだけ読むとネガティブな印象だが、羽生自体は人工知能に多大の関心を有しているようだ)
(佐藤) 今まで(定められたルールに基づいて)人は将棋を進歩させてきたが、それは部分的なものだったような気がする。将棋の広い宇宙の中で、今までの将棋は1つの銀河系の中に過ぎなかったのではないか。(今後広い宇宙の中で)どのような将棋があるか探求していきたい。(以上、引用の文責は私。すなわち不正確)
 ブラックボックス化については、ディープラーニング(深層学習)技術ではそうだろうと思える。膨大な学習の各層の関係を人に判るように表現するのは一般に困難だろうと思う。しかし、AIの推論(推論という語が適切かは判らない)の過程を人間に伝える手法の開発、また逆に推論の過程を人間の価値判断で修正しAIにフィードバックする方法、更に、AIの推論過程と結論の正しさを第3者的に監査する人又は機械(これをまた監査する主体も必要になるか)の開発が今後必要になるかと思う。
 それがない場合、現在日本では無視されることが多い、いわゆるシンギュラリティ(技術的特異点)問題が生ずる可能性もあると感じるようになってきた。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8A%80%E8%A1%93%E7%9A%84%E7%89%B9%E7%95%B0%E7%82%B9